妖精王子は父と和解する
無事に全員に晴れ着が行き渡ると、妖精達がざっと道を開けた。二つに割れて出来た道からしずしずと老人が現れると、群衆はまた綺麗に一つのかたまりに戻る。他の妖精とは違ってアンティークレースのような枯葉の羽と深く刻まれたシワから、その妖精が長い年月を生きてきた事がわかった。
「国の長老です。父上……オーベロン様とはまた違う国の重要な決定を任されている方です」
ルカの耳打ちに頷き、私は深く礼をする。
「お会いできて光栄です。シルヴァー王国ミニアチュール公爵が娘、カナンと申します」
「よいよい、堅苦しい挨拶は抜きじゃ。カナン殿、其方の話はルカからよくよく聞いておる。良い仕事をしてくれたな」
長老様は嬉しそうに自分の脚を撫でた。深緑色のズボンと、厚い布を重ねて作った靴で装われている。
「ティターニアが眠りについてから我が国はどうにも活気が無くての、祭りはおろか晴れ着をしつらえる事が生まれて初めての者も多い。其方が言い出さねば死ぬまで着ないものもおったろうな」
「そのような大義を任せてくださった事、深く感謝申し上げます」
「礼を言うのは此方の方じゃ。そう、その話もじゃがもう一つ伝えたい事があっての。祭りの日程なのじゃが……お前達、少しは静かにせい!」
少しずつ声量が増していくギャラリーを静めながら長老は私とルカに笑いかけた。
「7日後にしようと思う。丁度雪解けの儀を開始する時期じゃ。それに、お前とティターニアの誕生日じゃろう、ルカ」
妖精達の歓声が上がる。しかしルカは1人、複雑そうな顔をしていた。
「……母上はともかく、僕の誕生日を祝うのは目的とずれてしまうのでは」
「何を言っておる。今まで祝えなかった分じゃ、オーベロンの奴も許してくれよう。なあカナン殿?」
「ええ、素敵だと思いますわ。それにねルカ、貴方のお誕生日を祝えばティターニア様への感謝も2倍になるのよ」
「2倍ですか?」
「ええ。だって貴方を産んだのはティターニア様だもの。わたくしもティターニア様にルカを産んでくださった感謝を伝えられるもの」
「でも、僕のせいで母上は……」
「それは違う」
金の葉が何処からともなく舞う。
「オーベロン様!」
ひれ伏した妖精達の中心で、オーベロン様が静かにルカに話し始めた。
「我が妻は……ティターニアは、お前を恨んではおらぬ。恨みはシルヴァー王国現王ただ1人。そしてそれは、我が怒りも同じ」
「……父上」
「お前を胎に宿していた時、ティターニアはいつもお前を想っていた。ルカ、親の罪は子の罪にはならぬ。……今まで祝ってやれなかった分、祝わせてくれ」
妖精王の消えた後に残った一枚の金の葉を、ルカはそっと拾い上げた。
「そんなこと、初めて知りました」
「……オーベロンもずっと複雑だったのじゃろう。恨んでも恨みきれぬ男と同じ種族として生きようとしていたお前とどう接して良いか分からなかったのじゃ。許してやってくれんか」
「許すなんてそんな、僕最初から怒ってません!……でも」
下を向いたルカの目がほのかに潤むのが、隣にいる私にだけ見えた。
「……嬉しいです。自分の誕生日は知っていたけど、祝ってもらえる日が来るなんて」
妖精達の笑い声や歓声は止まず、私達は賑やかな音に包まれて帰りの道を進んでいった。




