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ミニチュア大好き令嬢は可愛がり可愛がられる

 時は明朝、太陽が雲間を照らし朝焼けがカーテンの隙間からちらちらと光る。藤色からピンク、檸檬色に変わっていく美しいグラデーションが徹夜明けの目には痛い。


「お、終わった……」


 最早指先はぴくりとも動かない。山のような妖精の服、靴、帽子その他小物類が並べられた部屋の僅かに見える床に倒れ込むように私達は寝転がった。絞り出した最後の力で這いずるように部屋の扉を開けるガスパールが見える。


「お、俺、グリグラに報告をしてきます……」


「おやおや略さないで頂けますか」


「私共はグリムとグラムです」


「その様子だと完成したようですね」


 扉の向こうにはグリムとグラムが涼しい顔をして立っていた。


「さあさあルカ様とカナン様はお風呂に入りましょう。リサとガスパールは動けるようなら私たちと入浴の手伝いを、無理そうなら使用人の部屋に戻っていて下さい」


 その場で力を使い切ったガスパールをグリムかグラムか、どちらかが担いで消えていき、残った片方はうつ伏せになったリサを指で突いている。


「リサ、後は頼んだ……」


「おじょーさま、あたし動けますから、お風呂が出来るまでお待ちくださいねえ……」


「良いわよ2人共、わたくしが自分でやるから」


「カッカナン、私もやります!」


 勢い良く立ち上がりすぎてよろめきながらルカは私に続いていく。裁縫が得意と言っていたのは嘘ではなかったようで、頼んだレースの縁取りや飾りリボンは全て綺麗に仕上げられていた。リサ達を残して廊下に出ながら、お互いに長時間座って疲れた足をどうにか動かして浴室に向かっていく。


「でもねルカ、貴方も疲れているでしょう。わたくしはこういうのは慣れているから、貴方は休んでいて良いのよ?」


「いえ、私もこういうのは……お裁縫ではないですけど、徹夜の作業は慣れてますから平気です」


「お互い淑女失格ね」


 隣でえへへ、と頭をかくルカの頬に白いレースのかけらがついているのが見えた。


「ルカ、ちょっと目を閉じて。糸屑が付いてるわ、取ってあげる」


 手を伸ばすとルカは少し頬を染めながら瞼を閉じた。淡いピンク色のまつ毛がふわりと動く。


「……ねえ、貴方って」


「カナン?」


「本当に可愛いわね」


「……カナン?」


「だってこんなにまつ毛が長いのよ。目も優しげな垂れ目なのにしっかり大きいし、ほらこのほっぺも薔薇色!肌も透き通ってて、本当に白雪姫みたいだわ。ここに来る時にそんな会話をしたのよ、姫妻の相手が白雪姫みたいだったら良いわねって。本当に叶うとは思わないじゃない。それに髪の毛もふわふわで子猫みたい。思わず撫でたくなっちゃうわ」


「かっ、カナン!きゃあ、くすぐったいです」


「ああ、可愛い……ルカ、本当に可愛いわ貴方!今まで見たことがないくらい可愛いわ。いつもニコニコして、くるくる動いて……はあ、食べちゃいたい……」


徹夜明けのふらつく脳みそは自重を知らない。気の済むまでルカの頭を撫で回し、元気になった私はそのまま浴室へ進んで行った。


「さ、お風呂の準備をしましょう。時間も惜しいしいっそ2人で入る?」


「……カナン、冗談がすぎます」


「あら良いじゃない、わたくし達姫妻の夫婦でしょう?」


「…………忘れてるかもしれませんけど、私……じゃなくて僕、男なんですからね」


正直完全に忘れていた。


「ルカ様カナン様、お待たせいたしました。後は私共が」


 結局グリムとグラムが到着するまで私達はお互い顔を赤くしたまま、気まずく立ちすくんでいたのだった。


***

「すごーい!本当に全員分あるー!」


 ルカの魔法陣を通ってどんどん運ばれていく晴れ着と小物達を興味津々に眺める妖精達の中には、もう自分の分を着た者もいる。草花で作られた服とは違う着心地に動揺する者、要望通りのデザインをじっと眺める者、反応も様々だ。


「無事に皆さんに渡せて良かったわ」


 自分の人形に着せる時とはまた違った達成感である。


「女王様が言ってた通り、人間って良い人もちゃんといるのね」


小さな赤ちゃんを抱えた若い妖精がしみじみと呟いた。


「女王様があんな目に遭って、ルカ様がずっと意地悪されてるのを聞いて、もう人間の事なんて信じられないと思ってた。でもこのお洋服を見ていればわかるわ。私達の事を思って作ってくれたのね」


彼女が持っているのは真っ白いケープと揃いのブラウスだ。赤ちゃんとお揃いの柔らかなコットン素材に萌葱色のリボンをあしらっている。


「この土地に来てからこの子も機嫌がいいの。おかげであたしもだいぶ楽」


「アタシも、栄養はないけどお城よりこっちのお庭の方がずっと好き!お城は知らない人が入ってきたり、アタシ達のこと虫だと勘違いして殺そうとしたりしてくるもん」


「こっちのお庭はルカ様とカナン様しか入らないし、安心するわよねえ」


「ねー」


母親の妖精を皮切りに皆次々と話し出す。


「ほんとはね、急にお引越しって聞いてびっくりしたのよ。イジワルで有名なお嬢様と暮らすっていうのも嫌だなって思ったの。でもカナン様は全然イジワルじゃなかったわ!ルカ様と仲良くしてくれるし、食べ物も美味しそうに食べてくれるもん」


「そうそう、おすまししてるけど美味しいって気持ちがダダ漏れでねえ」


「み、皆さん、その位で……」


「照れなさんな、妖精達には大抵の事は隠せんよ」


 そのまま話題は「噂より愛嬌のあるカナン」に移っていった。いきなり話題の中心にされ反応に困る私を、ルカはただにこにこと見守るだけなのだった。

 貴方、さっき頭を撫で回した事根に持ってるでしょ?

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