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第一王子は文句を付ける

「何を考えているんだアリサは!」


 荒々しく声を上げる王太子を、従者達は不安げに見守っていた。部屋にいるのはまだ王太子付きに配属されたばかりの者達だ。以前までそこにいた執事や護衛達は、王太子の癇癪によって城を追い出されてしまった。


「もうカナンの事は気にするなと何度言っても執拗に手を出そうとする!これ以上ちょっかいを出していればミニアチュールが反撃してくるかもしれないのに……」


 ガリガリと爪を噛みながら地団駄を踏む。 やっと婚約破棄をし、ルカもろとも僻地へ追いやった女を未だに執着している現婚約者にディミアンは気を揉んでいた。そもそも折角情報操作をしてルカを悪女に仕立て上げたというのに、王宮の一部は依然としてルカ派を貫いている事も気に入らない。時折耳に入るカナンの地の噂もディミアンの心を掻き乱す一因となっていた。


「はあ……おい、何かつまめるものを持って来い。そうだな、葡萄がいい。生の葡萄だ」


「申し訳ございません、ディミアン様。今は冬です。葡萄はまだ収穫時期前……葡萄酒干し葡萄ならご用意出来るのですが」


「なんだと!?俺が干し葡萄を嫌っている事を知っていっているのか!?そもそも葡萄なら去年のこの時期には当たり前に用意できたろうが。早く持って来い!」


「昨年までが異例だったのです。……あの頃は何故か季節を問わず様々な恵みが庭園にありましたが、現在の庭園はごく普通の花と作物しかございません。殿下、どうかご理解ください」


「くそっ……もういい。それなら葡萄酒を持って来い」


「はっ、只今」

 

 苛つきながら近くの椅子に乱暴に腰掛けると、ディミアンは大きなため息を吐いた。

 王宮に住む者たちの知る庭園は、年中無休で季節などお構いなしに多種多様な作物が実っていた。それは王族の男子が使える能力、妖精との契約の一種だ。城に訪れた者は皆ディミアンの能力を褒めちぎり、これ程強い力ならば国も安泰だと喜んでいたというのに。


(ディミアン様は最近ご気分が優れないようで、恵みの力も弱まっていらっしゃる)

(そもそもあの力はディミアン様の物なのか)


「くそっ……くそくそくそ!」


 父達より能力の発現は遅かった。しかしディミアンにも確かに、妖精と契約を結ぶ力はあったのだ。


「何が王子ルカだ!あいつは男にもかかわらず女々しい格好をした馬鹿ではないか!俺の方がっ、俺の方が王に相応しいに決まっている!」


 大嫌いだ。優秀な弟も、何を考えているかわからない元婚約者も、俺を見ないアリサも。


「俺は王太子だ……全てが手に入らないといけないのだ……」


その時、ディミアンの頭に黒い星が瞬いた。


「……そうか。追い払うのでは駄目なのだ。見える所で飼い殺さねば」


 急に雰囲気の変わった王太子にびくつく従者達は、次に発せられた言葉に息を呑んだ。


「早急にリリスの地の姫妻を登城させよ。あれらを我が直属の侍女とする」


 そうすれば、きっと恵みの力も戻り、アリサの執着も治るだろう。

 ディミアンは穏やかに笑い、葡萄酒を飲み干した。

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