ミニチュア大好き令嬢の従者は監禁される
「ねえガスパール、どうやって逃げ出す?」
「考え中。リサはいいアイデアある?」
「考え中よ」
「それにしたって、俺たちこんな時でも一緒なんだな……」
あたしとガスパールは生まれた時から一緒の双子。唯一の違いはあたしが女の子でガスパールは男の子ってだけで、学校も勤め先も、再就職先もぴったり同じだった。
……監禁される時も同じらしい。
ディミアン殿下に婚約破棄をされ、姫妻という名の程のいい追放をされたカナン様に付いて新天地で頑張っていたあたし達の元に登城令が下されたのが一刻前。気付くと私達は王宮御用達の恐ろしく速い馬車に乗せられ、あれよあれよと王城に着いていた。
「ねえ、カナンお姉ちゃまはあなた方がいなくなるって知ってどんな顔してた?」
城について最初にされた質問がこれだ。
「言伝を残してこちらに向かいましたのでわかりません。なにぶん急なご命令でしたので」
「何それ!つまんないの」
途端に興味を失ったアリサ嬢は、くるりと背を向けて近くの傭兵に命令を下した。
「この者たちを地下牢に幽閉して。私がいいって言うまで出しちゃダメよ」
……この表情を、私達は5年前も向けられたことがある。
「アリサ様、まだカナン様の所有物に固執してらっしゃるんですか」
「傭兵さん、黙らせて」
「どんなに欲しがったって、貴女はカナン様にはなれません!カナン様が、他の誰も貴女になれないように!!」
「黙らせて!!」
都合が悪くなると癇癪を起こすのも、ずっとカナン様に拘っているのも、ずっと変わらない。
***
__6年前のあの日、あたしとガスパールはアリサ様に突然暇を出された。アリサ様が学院に入学する前日の事だ。
先日聖女の訓練でカナン様と会ったアリサ様は、ここぞとばかりに入学式の装いについて自慢したらしい。対してカナン様はアリサ様の真新しい鞄や靴に対して、「わたくしは母のお古を着ることになったので、新品の靴や鞄が羨ましいですわ」と褒めたそうだ。……流石に古い靴や鞄まで欲しがる事はないと考えたのだろうが、アリサ様のは違った。
『嫌よ!絶対嫌!カナンお姉ちゃまと同じ緑の靴がいいの。それを履けないなら入学式に行かないから!!』
『ですからお嬢様、あの靴は随分古い型でどこにも売っていないのです。お父様が買ってくださった桃色の靴もとても素敵ですよ。桃色がお好きでしょう?』
『嫌ったら嫌!桃色じゃなくて緑がいいの!あの靴がいいの……ガスパール、今すぐお姉ちゃまの家に行って貰ってきて!』
『いくらご命令でも出来かねます!お嬢様、お父様の気持ちもお考え下さい。心を込めて贈った靴を嫌がられたら悲しいでしょう?』
『うるさいうるさい!お前達2人共クビよ!お姉ちゃまの靴を持ってくるまでこの屋敷に足を踏み入れないで!!』
『そんな……』
深緑の革靴は古い型にしては随分物持ちが良く、一目で未使用品だとわかった。それは母のお下がりという程ではあったが本来ならば亡くなられたお姉様に贈るつもりで購入した品だったのだろう。
『そんな大切な物を譲ってもらうなんて、俺できねえよ』
『あたしも。……あーあ、お仕事無くなっちゃったね。これからどうする?ガスパール』
『どうしようなあ、リサ……』
屋敷を追い出されて少ない荷物を手にとぼとぼと歩いていると、暗褐色の髪の少女が目の前に現れた。
『あなた方、わたくしの元で働かない?』
……その当時はまだ、カナン様がミニチュアに心を燃やす変わり者の令嬢だなんて知らなかったっけ。
「ねえガスパール、あたし達この6年間で随分細かい作業に慣れたよね」
「そうだな。お嬢様に付き合っていたら大抵の物は作れるようになったな」
「鍵も作れちゃわないかな?」
「馬鹿言え」
「だよねえ……」
薄暗い地下牢に座っているとお尻が痛い。早くここを抜け出して、カナン様の元へ帰りたい。あたし達の主人の元へ。
「うおっ、この穴ネズミの巣だ」
「やだばっちい!……でも、いざという時に非常食に出来るかな?」
「お前飯食うの忘れたのかよ……おい待て、このネズミ」
縛られて手足の自由が効かないガスパールの膝に登ってきたネズミの首元には、見覚えのある青いリボンが巻かれていた。
「……ミニアチュールのリボンだわ」
『キコエルカ、きこえるか、聞こえるか、ガスパール、リサ。僕だ、カロルだ。』
「「カロル様!」」
『いいかい、静かに聞いてくれ。アリサ嬢はカナンを王宮へ呼び出して、その目の前で君達を処刑するつもりだ。あの子はカナンを悲しませるためなら手段を選ばなくなっている。……この魔法ネズミが君達の縄を噛みちぎるまでに迎えに行く。君達は、カナンの安らぎだ。殺させはしない』
話し終わるとネズミはガスパールの膝を降りて脚の縄に歯を立てた。
「リサ、何があっても帰ろうな。カナン様の元へ」
「うん。帰ろうね。カナン様の元へ」




