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妖精王子は話し始める

「母は現王に襲われて僕を孕ったそうです。本来の夫である妖精王……オーベロン様は嘆きましたが、産まれた子に罪はないと僕を息子として受け入れてくれました。でも」


風が少しも吹いていないのに、森の木々が揺れている。


「シルヴァー陛下はそれを受け入れませんでした。僕は第二王子として自身の出生を知らないまま育てられました。……4歳の誕生日まで」


窓から知らない花がふわりと入ってきた。


「4歳の誕生日、僕に魔力が発現しました。……当時7歳の兄より先に」


 それからの地獄の日々をルカ様は淡々と話し続けた。

 シルヴァー王族男児は皆5歳から7歳になる間に魔法を使って妖精との交流ができるようになる。その力こそ王族の証であり、国を支えるための力となるのだ。しかし第一王子にして王太子のディミアンは7歳になっても魔力が発現しなかった。結局8つの誕生日に発現したのだが、既に王宮内は取り返しのつかない事になっていた。

 母の素性もわからない庶子の第二王子が、4歳と言う幼さで兄より先に能力を発現していたのだ。


「兄は僕が王位を継承する事を恐れていました。顔を合わせるたびに暴力をふるい、時には冗談半分で命を奪おうとしてきました」


しかしどんなに傷つけて脅しても、ルカの背後には妖精王と女王の加護がある。怪我は妖精の治癒で治され、ディミアンは妖精に嫌われる一方だった。


「僕は王位に興味がありません。それでも、僕を支持する人がいるという事実が兄を焦らせたのでしょう。……兄だけではなく、王妃様も」


気付くと部屋は花々が咲き乱れ、どこからともなく風が吹いている。エメラルド色の魔法陣を中心に成長を続ける蔦を見て、あの不思議な畑もルカ様と妖精達の力で出来ているのだと納得がいった。


「ある日王妃様に呼び出されて言われたんです。王女として生きるならば危険から保護する、って。……幸い、王子である事も男である事もそこまでこだわりは無かったので受け入れることにしました。5歳の時の話です」


その日「第二王子ルカ」は死に、「王女ルカ」が生まれた。


「それを知ったオーベロン様は無理矢理にでも僕を取り返そうとしました。でも、僕が断ったんです。」


ルカ様が話している間、部屋を埋め尽くす花と蔦は徐々に姿を変えていった。そして、今部屋の中には小さな妖精達がルカ様を囲んで集まっている。


「……好きな人が、出来たから」


『カナンの瞳の色は、妖精が大好きな緑色ね』


不意に姉様の声が頭に浮かんだ。


「……ルカ様は、好きな人のために人間として生きる道を選んだのね」


「…………はい」


ルカ様は部屋に集まった妖精達をぐるりと見回し、話しかけた。


「皆さん、ご紹介します。これが私……僕の大切な人、カナン様です」


すると妖精達は一斉に私の元へ集まり始める。肩や服に止まる子、顔にキスする子、反応もそれぞれだ。


「はじめまして、カナン・ミニアチュールです。皆さんにお会いできて光栄ですわ、きゃっ!」


不意に妖精の1人から頭に金色の粉をかけられると、一気に周囲から声が聞こえ始めた。


「この子がルカの言っていたカナン?」


「野菜の食べっぷりがいい子でしょ」


「緑の目、綺麗ねえ」


「知ってる!ぼくみたことある!壁を作るお手伝いした!」


一斉に喋る妖精達は皆友好的だ。


「皆さん、落ち着いて!一気に喋ってもカナン様が困っちゃいますから」


「大丈夫ですよルカ様、お話を聞き分けるのは社交界で慣れてますから」


「……僕が妬くんです」


「えっ?」


「いえ、何でも」


徐々にお喋りが収まっていくと、ルカ様は改めてこちらを向いた。


「お願いです、カナン様。オーベロン様に……僕の義父に、会っていただけませんか。妖精王はシルヴァー国を攻撃するつもりです。人間にも妖精に好意的な者がいる事を知って頂かないと、じきにこの国は不毛の地になってしまいます」


「……わたくしで良ければ、謹んでお受けいたします」


「貴女しかいません」


エメラルドの魔法陣を通って妖精達が帰っていく。エプロンドレスを着た王子にエスコートされて、私は妖精国に足を踏み入れた。

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