ミニチュア大好き令嬢は動揺する
「リサ!ガスパール!」
キッチン、食堂、どの部屋を探しても2人はいない。
「カナン様、先程申し上げた通りお二人は既に迎えの馬車で王宮に向かっております」
ルカ様の従者2人は動揺の止まらない私を冷静に諭した。
「お二人は必ず帰ってくると言っておりました。先ずは落ち着いて帰りを待ちましょう」
「……わかったわ」
それでも嫌な想像が止まらない。もしも2人が王宮での仕事を選んで帰ってこなかったら、もし『悪役令嬢カナン』の従者だという理由で危害を加えられたら、もし__
……もし、もう2度と会えなかったら。
「嫌っ……!」
防御壁を作っている時よりもずっと寂しくて、寒い。
「カナン様」
しゃがみ込んで動けなくなった私の隣に、ルカ様がいた。
「こんな所にいたら風邪ひいちゃいますよ。今グリムがあったかいお茶を淹れてますから、一緒に飲みに行きましょう?」
子供にするみたいに手を引かれて食堂に向かうと、ルカ様の言った通り紅茶が淹れられていた。
「今朝摘んだ苺のジャムもありますよ。お茶に入れて飲むと美味しいですよ」
つやつやした赤いジャムを入れた紅茶は甘い香りがした。
「いい匂い……」
「冷めないうちに飲みましょ。寒いとどんどん不安になっちゃいますから」
熱くて甘い紅茶を一口飲むと、急に涙が溢れる。
「ルカ様、わたくし……」
アリサに物を取られた時もディミアンに婚約破棄された時も流さなかった涙が止まらない。泣きじゃくる私の背をルカ様は優しくさすってくれた。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
「でも、2人が、帰ってこなかったら、っ」
「その時は……一緒に王宮に乗り込んじゃいましょっか」
急に大胆な事を言うルカ様を二度見すると、いたずらが成功したみたいに笑った。
「泣き止みましたね」
「でも、姫妻が土地を離れたら処刑されちゃう」
「大丈夫です。私これでも王女だから、いくらでも潜入出来ちゃいますよ」
「ルカ様ったら」
「本当ですよ」
サファイア色の瞳が真っ直ぐに煌めく。真剣にそういってくれるのが嬉しくて、私も笑った。
「やめておきます。今土地を離れたら防御壁が脆くなりますし、畑の作物も放置されたら可哀想だわ」
「じゃあ、いざという時のためにとっておきましょうか」
「ええ」
ほんの少しだけ甘えたくなった私は、一つだけ我儘を言う事にした。
「ルカ様、顔を近づけてくださらない?」
「……ええっ!?」
「お願い、ちょっとだけ。貴女の瞳が見たいの。……亡くなった姉と同じ色なの」
暫し考え込むと、ルカ様は恐る恐る顔をこちらに近づけてくれた。
「…………こう、ですか」
「ありがとう。……本当に綺麗。出会った時から思っていたけれどサファイアの青ね」
みるみるうちにルカ様の顔が赤くなる。
「も、もういいですかっ!!」
「ええ、ありがとう。……またいつかお願いしてもいい?」
「……私のお願いも聞いてくれますか、カナン様」
「勿論」
するとルカ様は、今度はレディをエスコートするような仕草で私の手を取った。
***
エスコートされて着いたのは私の向かいにあるルカ様の部屋だった。私の部屋の窓からは庭と畑に面しているが、ルカ様の部屋は森が見える方角にも窓がついている。
「初めて会った日に言った通り、私は聖女の魔力が全く使えないんです。だから防御壁を作る事も瘴気を浄化する事も出来ません」
森の見える窓を開けながらルカ様は続ける。
「でも、代わりに使える力があるんです」
目の前に魔法陣が広がる。色は違うけれど、妃教育で飛ばされたページに書かれていた物と同じ形だ。……シルヴァー王国の男児に受け継がれる魔法の。
「……ルカ様、貴女は」
「私……僕は、ルカ・プリンス・シルヴァー。ディミアンの弟で、現シルヴァー王の庶子です。……そして母はティターニア・ハーレクイン。僕の血は半分妖精です」




