ミニチュア大好き令嬢は婚約破棄を言い渡される
「姫妻制度」それはかつて存在した王女の多い国同士で行われる政略結婚の一種である。
しかし現在その実態は、国外追放、娼館若しくは修道院送りと同義……つまり、「罪人」に対しての処分と同義であった。
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「カナン公爵令嬢!貴様は本日付で私の婚約者ではなくなる。婚約破棄だ!」
ご令嬢なら誰でも憧れるであろう王立魔導学院のプロムの真ん中で、私は婚約者である自国の王子ディミアンに目の前で断罪されていた。
「ディミアン様、そんなに大きな声を出されるとカナン様が可哀想です。それにいくら意地悪をされたって、わたしあの人の事を許しますわ……」
おうおう、よく言うわい。誰が誰を虐めたって?
ディミアンと仲睦まじく寄り添うふわふわミディアムヘアの少女はアリサ男爵令嬢だ。今日も今日とてディミアンの瞳の色のリボンを頭につけている(こういうお洒落は婚約者がやる物なので、婚約者でもなんでもない令嬢がやるのは暗黙の了解で禁止されている。でもアリサはやる。だってアリサだし)。
「確かにカナン様のした事は許されないかもしれません。私の大切なドレスを盗んだのも、宝物のティアラを壊した事も、毎日食堂で罵詈雑言を浴びせた事も……。でも私、許します。許す心がないと、この国を背負い立つ王妃にだってなれませんから!」
え、王妃?ああそうか。ディミアンは私と婚約破棄したらアリサと婚約するつもりなのか。なるほどね?聞いてないけどね?
……それにしてもよくそんなに罪状を捏造できるものだ。
「大切なドレス」とは多分私からお下がりでもらった……という建前でアリサが盗んだドレスだ。ピンク色のレースが可憐なドレスでお気に入りだったけど、アリサ曰く『カナン様はもっと大人っぽくシンプルなドレスが似合いますわ』だったっけ。
しかし運の悪い事にあれは私の叔母さまからの贈り物で、アリサはよりによってその叔母さまが開催したお茶会で着てしまったものだからさあ大変。激怒した叔母さまにこっ酷く叱られたアリサは渋々ドレスを返却してくれたけど、裾は泥がついていたし脇は異常に擦れて生地が薄くなっていたしで着られる代物ではなくなり、結局手を加えて私の遊び着と人形のドレスになったのだ。
「宝物のティアラ」も私の物だ。でも私の頭じゃなくて、人形の頭に乗せる指輪みたいなサイズのティアラ。アリサが我が家に遊びにきた時に落として壊したんだっけ。
あれ作るの大変だったから悲しかったなあ。直すのも大変だったよ。一緒に遊びに来ていたお姫様と一緒に直したっけ。ええと、名前は……
「アリサ、我慢しなくて良いんだ。しかし君のその優しく美しい心……それに免じて処遇を変える事とする。カナン公爵令嬢、貴様は『姫妻制度』に乗っ取りリリスの地にて王女ルカと共に姫妻として仕えよ!」
「……っやったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
「なっ!?」
やっべ、令嬢にあるまじきでっかい声あげちゃった。
「……こほん。失礼しましたわ殿下。そして承知いたしました。その婚約破棄、受けいれます。ごきげんよう」
「待てカナン、まだ話は____」
「『婚約破棄』そして『罪の公表』『その後の処遇』____全て終えたでしょう?殿下のお申し付け通り、私はリリスの地へ参ります。直ぐにでも出発出来るよう早く準備をしなければ」
「まだ終わっていない!お前はアリサに謝罪を……」
「あら、殿下。……こんな所で全てを終わらせてしまうだなんて、よくありませんわ」
断罪される側が言うのもなんだが、プロムは絶好のタイミングだと思う。学園内の人間しか参加できないため両者の親や大臣もおらず、生徒会長を務めるディミアンであれば教師の配置も容易にコントロールできる。学生というのは噂を広めさせるにはもってこいの情報網だ。いずれ生徒達の家に、一族に、『悪役令嬢カナン』の悪評は知れ渡るだろう。……でもそんなのは一方的でずるい。何をしようがどうせ悪評は轟くのなら、せめて「王子様」には権力ある第三者にこってりと搾られてほしい。合意なき婚約破棄とか、被せてきた言われなき罪についてとか。
「わたくし、どうせ謝罪をするならもっと大々的に謝るつもりですわ。アリサさまのお家とその嫁ぎ先になる王家……陛下と、王妃様に」
その方が、すっきりいたしますわよ。ねえ?
狼狽える殿下とアリサを背に、タイミング良く到着した馬車に颯爽と乗り込む。もうこの重たく装飾過多なドレスも着る事はないだろう。殿下の趣味だからとお父様が勝手に選んだドレスだけど、こういうのはもっと小さい子や幼い容姿の娘が着るから可愛いのであって、暗褐色のストレートヘアに吊り目の悪人面(これはアリサの取り巻きの男達に言われた誹謗中傷の一部を引用したもの)の私にはちょっと合わない。お人形に着せるならいいけど、自分で着るならもっと爽やかなドレスが良かったな。どうせこのプロムが最後のダンスパーティーになるんだろうし……
(さて、このドレスの活用策も考えとこ。裾のリボンはエルマーのチョッキに、刺繍の入った部分はばらしてアントワーヌ一家のテーブルクロス、いやカーテンに……)
お役御免のドレスの将来について熟考していればあっという間に我が家だ。
「カナンお嬢様、おかえりなさいませ!」
ずらりと並ぶ使用人の中にはは早すぎる帰りに戸惑っているものも多い。……あのメイドはアリサにクビにされたのを拾った子だ。主人も従者もアリサに身分を引っ掻き回されてるなんて、ちょっと面白いな。まあ笑い話ではないんだけど。
「針と糸を用意して、ガスパール。リサ、遊び着を持って来てくれる?直ぐに『森の間』に行くわ」
「お嬢様、今夜はディミアン殿下とのディナーのご予定がありますが」
「良いのよ、もうディミアンとは婚約者じゃ無いっぽいし。そんなことよりイメージが止まらないの!今日はこのドレスでアントワーヌの部屋をかわいーくするんだから!」
婚約破棄にも、無実の罪にも、特に興味は湧かない。第三者がどれほど騒ごうが私の邪魔さえしなければなんでも良い。
第一王子の婚約者にしてミニアチュール公爵の次女カナン・ミニアチュール。彼女は屋敷の人間にこっそりこう呼ばれている。
「ミニチュア職人のカナン様」と。
はじめまして!みぎて と申します。なろう投稿は初めてなので何か至らない点があったらすみません。悪役令嬢(にされちゃった普通の令嬢)が好きでそういう話がかけたら良いなーと思ったのですが、カナンは普通の令嬢にしては肝が据わっていますね。