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付録:ファクトチェック

 ファクトチェック(fact checking)という言葉は、「ニュースの事実確認」、つまり、「裏どり」を意味しますが、歴史映画などノンフィクション作品の事実確認にも使われます。ファクトチェックは、事実に則していないと批判的なものとして使われることもあります。


 歴史を取り扱う小説、映画、ドラマ、漫画などはエンターテインメントであり、プロの人達は稼がなければなりません。そのために、物語を単純化しつつ、緩急をつけ、悪役を作り、恋愛要素を組み込み、主人公に花を持たせ、読者・視聴者を楽しませます。史実は二の次です。なので、筆者は事実と異なることが悪いことであるとは思いません。史実を無視して、より作者の伝えたいことを表現するのは大事だと思います。


 アラン・チューリングの人生をもとにした映画『イミテーション・ゲーム』のモルテン・ティルドゥム監督は、多くの歴史映画はウィキペディアを見ているようなので、映画を感情的、情熱的にさせて、観客にアラン・チューリングがどんな感じなのかを体験させたかったと述べています。そして、彼の映画は、アカデミー賞などにノミネートされ、俳優の演技を含め、評価は高く、また、製作費$14Mに対して、世界で$233Mを稼ぎ、興行的にも成功します。


 しかし、筆者は、どれが事実でどれが創作か知りたいです。恥をかかないため、実在の人物を色眼鏡で見たくないため知りたいです! 自分で調べるのは面倒くさいです!! 筆者は、学生の頃、司馬遼太郎などの歴史小説を読んでいましたが、よくそう思っていました。なので、自分の小説をファクトチェックしてみました。


 ファクトチェックで使用する『事実』について、参考資料の多くがウィキペディアであり、回想も回想者の記憶ですので、どこまでが本当かわかりませんが、筆者が調査し、事実であろうと判断したものを『事実』とします。



1.スチュアート・ミルナー=バリーが首相官邸を訪れた1941年10月21日のロンドンは雨である(×)


 当日は降水量0でした。物語を書きやすくするための筆者の創作です。翌日は、雨で、10月なのに最低気温0度近くまで冷え込んだようですが。地球温暖化の影響なのか温度が今と全然違います。



2.タクシー運転手は、何もしゃべらなかった(〇)

 スチュアートの回想によると瞬きせず何も喋らなかったそうです。さすがに瞬きはしたと思いますが。なぜ、喋らなかったのかは不明ですので、その理由は筆者の推測です。

 当時のロンドンタクシーは、馬車に起源を持つためか、運転席は吹き抜けである一方、後部の客席は部屋のようになっています。また、エンジン音がうるさいものでした。そのため、会話することは今と比べて難しく、会話するのはあまり一般的ではなかったかもしれません。



3.スチュアートは、ネズミ捕獲長ネルソンに出会った(×)

 そのような記載は見当たりませんでした。筆者の創作です。また、ネルソンの顔がチャーチルと似ていたというのも創作です。ネルソンの毛色は、資料により異なり「黒」もしくは「灰色」とあります。雑種だったので、物語ではダークグレーとしました。



4.アラン・チューリングは猫アレルギーである(?)

 アランが猫アレルギーかどうかは不明です。アランが動物を飼っていたということを記載した資料は筆者の調べた限り見つかりませんでしたので、猫アレルギーの可能性は残っています。また、アランは、ガスマスクを使うほど重度の花粉症です。猫アレルギーと花粉症は似ていますので、アランを猫アレルギーという設定にしました。



5.アランが貢献度の低いスチュアートを手紙の届人として任命した(×?)

 スチュアートの回想によるとなぜ届出人となったか憶えていないそうです。また、本人は、関係者の中で、自分が最も代わりが利く人間だからだろうかとも言っています。

 ただ、この4人の中で比較するのは酷です。彼はドイツ語の能力を活かし、クリブとなりうる文のパターンを見つけ出し、初期のエニグマ解読に貢献しています。



6.スチュアートは、チャーチルの議会担当秘書官ハーヴィー=ワットに手紙を渡した(〇)

 スチュアートは、首相官邸内に丁寧に案内された後、すぐにハーヴィー=ワットと会います。そして、彼に困惑されながらも手紙を受け取ってもらいました。イギリスの秘密主義により、スチュアートがこの手紙のチャーチルの反応を知るのは、およそ40年後でした。



7.スチュアートは、帰り道でポーランドの亡命政府の建物を見た(×)

 筆者の創作です。ロンドンのポーランド大使館は、ユーストン駅の西側でダウニング街10番地の北北西にあります。今のポーランド大使館が当時の亡命政府の本部だったとすると、タクシーが距離を稼ぐためほんの少し遠回りをしたら、帰り道に見かけることになります。ただ、今のポーランド大使館の場所が当時の亡命政府の本部であったかわかりませんでした。


8.チャーチルは手紙を受け取った時、『邪悪なオジサン達』を金のガチョウだと言った(×)

 特にそのようなことは言った記録はありませんが、後に、ブレッチリー・パークのスタッフ達をそのように言い、その重要性を表現していました。ちなみに、チャーチルは、手紙を読んだ後、「彼らが欲しがっているものがすべて揃うように最優先で取り組み、その完了報告をするように」と言ったことが記録に残っています。それ以外は筆者の探した限り、会話の記録は見つかりませんでした。そのため、チャーチルとハーヴィー=ワットの会話は、そのこと以外は創作です。

 

9.アランは上司のトラヴィスの前で台バンした(×)

 特にそのようなエピソードはありません。ここでの会話はすべて創作です。ただ、手紙に書いていた通り、アラン達は人員不足で困っており、その上司であるトラヴィス副長官はアランたちのために尽力し、アラン達もそのことに感謝していました。その関係性をこの場面で表現してみました。

 アランの性格ですが、参考となる主なエピソードは、先に書いたガスマスクを含む変人エピソードのほか、次のものがあります。



・リーダーでありながら、Hut8では「Prof(教授)」と呼ばれていました。Hut8では、アランの他、一人だけ姓で呼ばれていた以外は、全員ファーストネームで呼び合っていました。教授肌のスタッフが多い中、リーダーであり、教授と呼ばれるアランの位置づけがいまいち掴めません。


・基本、一人作業を好み、無口でシャイなタイプでしたが、チームメンバーとチェスを楽しみ、ジョークも言ったりしていました。また、ASD(自閉症スペクトラム障害)気質だと言われています。ただ、仕事やその人間関係に支障がでるようなエピソードは筆者は見つけられませんでした。実際、GC&CSでは、周りと協業し、かなりの成果を出しています。まあ、婚約したジョーン・クラークや、副リーダーのヒューのサポートもあったと思いますが。


・あまり管理業務をせず、副リーダーのヒューがサポートしていました。


・Hut8のメンバーで数学者アービング・ジョン・グッドは、夜勤で寝ていました。初めてそれを見たアランは、病気かと思い、心配しましたが、グッドは、仮眠を取っていただけだと言いました。アランは、サボっていたと思ったのか、腹を立てて、翌日から口をきかなくなったそうです。また、グッドが部屋に入ると、アランは出ていき、あからさまに避けるようになりました。しかし、ある日、グッドはアランが見つけきれなかった暗号改良方法を発見し、アランからの信頼を勝ち取り、その後は避けられることなく一緒に仕事をしました。


・戦後、アランはコンピューターを開発しようとするも、予算が降りず、その関係者を手紙でこき下ろしています。


・同性愛者であり、イングランドは1967年まで同性愛を法律で禁じていました。しかし、アランは同性愛をそこまで隠そうとせず、チームの何人かは彼が同性愛者であることを知っていました。

 後年、1952年、39歳の時、19歳で無職だった青年と金銭的援助をして交際し、その知り合いがアランの家で窃盗を働きます。その際、警察に同性愛の関係を知られ、逮捕されます。彼は裁判で罪を認め、入獄を避けるため、保護観察と同性愛を矯正するために有効と思われていた女性ホルモン注射の投与を受け入れました。


・アランは41歳で自殺とみられるシアン化物中毒(青酸中毒)で亡くなります。死去する前年、アメリカから学会の参加を依頼を受けましたが、「その会議への旅程は好きじゃない。アメリカは絶対に嫌だ」とシンプルに拒否しています。



 以上のエピソードと合致するかわかりませんが、小説では、上司にも横柄で気難しい性格を表現してみました。



10.Hut3は成果を出していなかった(?)

 調べましたが、そのような記載はありませんでしたが、当時、上位4人の人間関係が破綻し、のちに3人が異動させられ、再編成されたのは事実です。上位の人間関係が破綻するともちろん成果を出すのは難しくなります。

 Hut3の成果ですが、調べたところすべてがその再編後でした。再編後リーダーとなったエリック・マルコム・ジョーンズは称賛され、後に、GC&CSの後継組織GCHQのトップになっています。



11.アランは手紙をほとんど書いた(?)

 特にそのようなエピソードはなく、作者の創作です。しかし、アランは、一番最初に名前があり、要望もHut8のものが比較的多いです。そのため、アランがほとんど書いた可能性が大いにあると思っています。



12.チャーチルは赤い貼り紙「ACTION THIS DAY」を貼った(〇)

 題名にもしましたが、チャーチルは貼り紙を貼りました。ポストイットのようなものでしょうか。この事実は、40年後の1981年に公表されました。



 以上がファクトチェックになります。エニグマ解読に関することを紹介したいと思い、この小説ではできるだけ事実に則するように書きました。


 この小説は、筆者の別作品「各位、魔法装置で予期せぬエラーが発生しました」の「2-13 自宅学習」の後書きにある【万能チューリングマシーン】の項目を書くときに調べたことをもとに作成しました。こちらは、エニグマを含め、アラン・チューリングの人生を紹介しています。よかったら、こちらも見てください。


ここまで、読んでいただきありがとうございました。この小説は、暗号機エニグマというマイナーなものにスポットを当てました。後書き含め、説明文が多く、読みにくい文かもしれませんが、創作事項を極力なくし、できるだけ事実を紹介するようにしました。この小説の評価・感想をいただけると嬉しいです。

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