ちっぽけ島の運び屋さん
ばらばらばら。
ばらばらばら。
力強い音をひびかせながら、広い海の上をヘリコプターが飛びます。
海のかなたに小さな島が見えました。おわんを引っくり返したみたいな形をした、とても小さな、絶海の島です。小さいけれどもそこには青々と木々がしげり、鳥たちが舞い、人々の住む家や畑が見えます。
「もうすぐ到着だ」
コックピットの機長さんは、ちょっぴり目を細めて操縦かんを動かしました。着陸態勢に入ったヘリコプターは、みるみる島に向かって高度を下げてゆきます。ヘリコプターに気づいた島の人たちが寄ってきて、おーい、おーいと手をふっています。
『当機はまもなく青ヶ島に着陸いたします。機内にお忘れ物のないよう、ご注意ください──』
アナウンスがしゃべり終わるとまもなく、とん、とタイヤが地面にふれました。すぐにドアが開かれ、乗っていたお客さんが次々と出てきます。機長さんもヘリコプターを降りて、のびをして、島にあいさつをしました。
「ただいま」
空は晴れ、心地のいい風が吹きわたっています。
時刻は九時四十分。
ヘリコミューター便『くろしおシャトル』は今日も定刻通り、目的地の島に着きました。
太平洋の真ん中にうかぶ、この小さな島には、たったの一三〇人しか人が住んでいません。なんでも日本でいちばん小さな村なのだそうです。人々は愛情をこめて、島のことを『ちっぽけ島』と呼んでいます。
機長さんの名前は高村さんと言いました。ちっぽけ島で生まれ育った高村さんは、島の人たちが大好きでした。今はちっぽけ島の近所にある大きな島で暮らしていますが、ちっぽけ島の人たちの役に立つ仕事がしたくて、こうしてヘリコプターのパイロットになりました。
ちっぽけ島は周囲を海に囲まれています。海は波が高くて、荒れているときは船が島に近付けません。そうなると島の人たちは孤立してしまいます。そこで、どんなに海が荒れていても島に行けるように、ヘリコプター便を運航することになりました。日本でたったひとつの、ヘリコプター定期航路のパイロットとして、高村さんは働いているのです。
「ヘリコプターを運航するようになってからは、島の外からもたくさんお客さんが来てくれる。島のみんなもうれしそうだ」
楽しそうに帰りのヘリコプターへ乗りこんでくるお客さんをながめるたび、なんだか高村さんまでうれしくなります。パイロットをやっていてよかったと心の底から思います。晴れの日も、雨の日も、休まずみんなを島へ送り届けていられることは、高村さんの何よりの誇りです。
このままいつまでも、この島に暮らすみんなのために、運び屋さんを続けていきたい。ヘリコプターから島を見下ろすたび、高村さんの思いはつのるのでした。
その日は、ヘリコプターに立派な背広を着た男の人が乗ってきました。男の人はどっかりと席に座って、窓の外をながめていました。ちっぽけ島の上空にさしかかると、ぽつんとうかぶ島を見て、男の人は暗い笑顔を光らせました。
「本当にちっぽけな島だ。嵐が来たら吹き飛んでしまいそうじゃないか」
操縦かんを動かしながら、高村さんは少しムッとしました。男の人の口ぶりは、まるで島をバカにしているみたいだったからです。
ヘリコプターはゆっくりとヘリポートへ降り立ちました。出むかえの人たちが出口へ集まっています。けれども男の人は、島のみんなの歓迎の声を無視して、すたすたと歩いて行ってしまいました。みんなは男の人を見て「いやなやつだ」と口々に言いました。
「何をしに来たんだろう」
「観光ではなさそうだね」
「悪い話を持ってきたのかもしれない」
みんなの気持ちはもっともだと高村さんは思いました。せっかくあたたかくむかえようと思ったのに、あんな態度で無下にされたらだれだって怒ります。パイロットを始めて二十年くらい経ちましたが、あんなお客さんを乗せたのは初めてでした。
「島のみんなが心配だな」
心が暗くなりましたが、高村さんはすぐに準備を整えてヘリコプターにもどりました。ヘリポートの入り口では、お客さんが乗りこむ順番を待っています。あと少ししたら、次の大きな島へ向かわなければなりません。ちっぽけ島をふくむ六つの島を一日で飛び回るくろしおシャトルは、それぞれの島でのんびりするわけにはいかないのです。
仕事を終えて家に帰ると、高村さんのもとに電話がかかってきました。電話をかけてきたのは、ちっぽけ島で『十銀屋』という商店をいとなむ佐々木さんという男の人でした。佐々木さんは高村さんといっしょに生まれ育った、高村さんの一番の友達でした。
「聞いてくれよ高村。あの男、ひどいやつなんだ」
佐々木さんはたいそう腹を立てていました。あの男、というのがヘリコプターに乗っていた男であることに、高村さんはすぐに気がつきました。
「あいつ、このちっぽけ島にでっかい地熱発電所を作る気なんだ」
「どうして知ってるんだ」
「あいつがみんなを集めて説明会を開いたのさ。ジェイ・ジェネレートとかいう電力会社の社員で、名前は秋元っていうらしい」
うーん、と高村さんはうなりました。いやな予感がしていましたが、やはり男の人──いえ秋元は、島のみんなにとってよくない話を持ってきたようです。
ちっぽけ島は火山島といって、海底火山が噴火をくり返すことで生まれた島です。地面の底にはマグマがあって、地熱にあたためられた高温の水蒸気がたまっています。地熱発電所というのは、その水蒸気の力を利用して電気を起こす、とても大がかりな施設なのです。
「秋元は発電所の予定地に住んでいるみんなを追い出して、そこに大きな発電所を作って、海底ケーブルで本州に電気を送るつもりなんだ。おれたちは本州で暮らすやつらのために、大事な家を失うんだ」
佐々木さんはため息をつきました。
「きみの営む十銀屋も追い出されるのか」
「いや。おれの店は予定地には入っていないみたいだ。でも両親の家は入っているんだ。追い出される人と追い出されない人がいるから、みんなは賛成と反対で真っ二つになって、今にもケンカが起こりそうになってる」
「きみは反対なんだな」
「もちろんそうだ。高村だってそうだろ」
高村さんは「うん」とうなずくのをためらってしまいました。けれども少し悩んで、やっぱり「うん」と言いました。ほっと佐々木さんが胸をなで下ろしたのが分かりました。
難しい問題だ、と高村さんは思っていました。
ちっぽけ島の人口はどんどん減っています。島に仕事がなく、みんな島の外へ出てゆかなければ生きられないのです。ちっぽけ島の周りは波も荒くて、漁船に乗るのも一苦労です。野菜は育ちますが、ちっぽけな島なのでたくさん収穫することはできません。でも、発電所ができれば、発電所の運営という仕事が増えます。みんなは元のように、ちっぽけ島で暮らしてゆけるようになります。
発電所を作れば、大好きなちっぽけ島は元気を取りもどせる。
だけど、発電所を作るためには、人々が島を出てゆかなければならない。
どうしたらいいんだろう。高村さんは頭をかかえてしまいました。秋元の暗い笑顔が頭の中をよぎりました。あの男の人をちっぽけ島に運んだのは、果たして、まちがいだったのでしょうか。
秋元は何日も島にとどまり、くり返し説明会を開きました。島のみんなは悩みに悩みましたが、結局、秋元の意見にしたがい、発電所を作ることに決めました。
「大人しく我々に従っていればいいんだ。金はたくさん落としてやる」
苦しみぬいた末に結論を伝えた島のみんなを、秋元はそういって笑い飛ばしました。
秋元は翌日のくろしおシャトルで帰ることになりました。もちろん、秋元が島を出ていったところで、発電所の計画がなくなるわけではありません。みんなの気持ちはゆれていました。佐々木さんは相変わらず腹を立てていて、毎日、毎日、電話をかけてきて高村さんに不満をぶちまけました。
みんなが暗い顔をしていると高村さんも不安になります。
この島はどうなるのだろう。
みんなはどうなるのだろう。
いくら不安でいっぱいでも、運び屋をやめるわけにはいきません。いつものように高村さんは操縦かんをにぎり、島に向かって飛び続けました。こんなにも島のみんなが悩んでいるのに、ヘリコプターからながめるちっぽけ島は、まるで何事もなかったかのように素知らぬ顔で、青い海にぽつんとうかんでいるのでした。
秋元の帰る日が来ました。
暗い雲のたれこむ中、高村さんの操縦でヘリコプターは出発しました。空港のある大きな島を飛び立ち、ちっぽけ島に向かいます。片道二十分の旅はすぐに終わり、行く手にちっぽけ島の姿が見えてきました。
「波が高いな……」
高村さんは海をながめながら思いました。嵐が近づいているのがすぐに分かりました。貨客船を運航する会社は、今朝、ちっぽけ島行きの船を運休にすると発表していました。こういうときはヘリコプターだけがたよりになります。でも、あまり風が強くなると、ヘリコプターも飛ぶことができません。ちっぽけ島は孤立してしまうのです。
ヘリポートの周囲にも強風が吹き荒れていました。いつもより慎重に操縦かんを動かして、十数分おくれでヘリコプターを着陸させました。入口に立っていたスーツ姿の秋元が、高村さんを見つけるなり歩いてきて、「遅いぞ」とうなりました。
「わたしは急いでとなりの八丈島へ戻らなきゃならんのだ。本州行きの飛行機に乗りかえそこなったらどうしてくれるんだ」
「申し訳ありません。安全第一なものですから」
「いいからさっさとヘリを出せ。他の乗客も待っているだろうが」
秋元はいらいらと怒鳴りました。
釈然としませんでしたが、しかたなく高村さんはヘリコプターへ戻りました。コックピットに座って準備をしていると、とつぜん、無線の連絡が入りました。
──『くろしおシャトル、こちら本社運航部です。聞こえますか』
「こちら、くろしおシャトルパイロットです」
──『青ヶ島付近の天候が急激に悪化しています。くろしおシャトルは当面の間、青ヶ島ヘリポートで待機とします。御蔵島方面へのフライトは欠航となる見こみです』
無線で話しかけてきたのは、ヘリコプターの運航を管理する管制担当の人でした。顔を上げると、ヘリポートの周りの木々が風を浴びて倒れそうになっています。このまま無理に飛び立つと、ヘリコプターも風にあおられて墜落してしまいます。
入り口で並んでいたお客さんが、スタッフの指示で待合室へもどされてゆきます。やむを得ず、高村さんも後を追って待合室に向かいました。びゅうびゅうと風が泣き叫んでいます。真っ黒な雲が空をうめつくして、ちっぽけ島は完全に外の世界から閉ざされてしまいました。
「じょうだんじゃない。こんなことがあっていいのか」
待合室にもどされた秋元は、たいへん腹を立てていました。スタッフをつかまえて怒鳴りつけようとしたので、あわてて高村さんは割って入りました。
「わかってください。無理なものは無理なんです。この嵐ではヘリは出せません」
「わからんな! たかが嵐じゃないか、飛べないことはないんだろう」
「ヘリコプターは安全運航が最優先です。墜落したら元も子もありません。大事なお客さんの命を危険にさらすことはできないんです」
負けじと高村さんも言い返しました。高村さんをふくめて、くろしおシャトルのパイロットは一度も事故を起こしたことがありません。でも、くろしおシャトルを運航する東国航空では、過去に何度も大きな事故で人を亡くしています。自由に空を飛べるヘリコプターは、それだけ危ない乗り物でもあるのです。
「むぅ……」
秋元は腕組みをして、座りこんでしまいました。
嵐はちっとも収まりません。
窓の外をうかがうと、木々が悲鳴を上げています。ごうごうと吹き寄せる風にあおられて、ヘリコプターも激しくゆれています。あのまま無理に出発していたら、本当に落ちてしまうところでした。
じっと息をひそめて待つうちに、一時間が過ぎ、二時間が過ぎました。待合室のお客さんはぐったりしていました。あんなに文句を言い続けていた秋元も、時計の長針が二周するころにはすっかり大人しくなって、暗い顔で窓の外を見つめるばかりになりました。
高村さんは待合室のはしに立って、管制担当からの連絡を待ちました。離陸の許可が出ればすぐにでも出発したいですが、この状況では出発はおろか、待合室の外へ出ることもままなりません。
どうしようもないなら、待つしかない。いつかは晴れ間がのぞくはずだ──。うつむいて祈りをささげていると、不意に、秋元が口を開きました。
「なぁ、パイロット。ちっぽけ島ではこういう嵐はめずらしくないのか」
「めずらしくないですよ。わたしたちのヘリも、十回に一回はこの島に来られません。船のほうはもっとひどくて、冬になると十回に三回しか島にたどり着けなくなるんです」
「飢えてしまうじゃないか。島の連中はどうやって暮らしているんだ」
「いつ孤立してもいいように、食べ物をたくさんたくわえておくんです」
「なるほどな」
秋元は肩を落としました。
「この島で生きてゆくのは大変だな。風は強いし、波も高い。船もヘリも来なければ、だれもたどり着けない孤島になってしまうわけか……」
高村さんは秋元のとなりへ腰を下ろしました。スーツに合わせてぴしっとのびていた秋元の背中は、いつの間にかネコみたいに丸くなっていました。
そうです。ちっぽけ島の歴史は自然との戦いでした。二百年前の江戸時代には、火山の噴火で島中が焼け野原になり、人が住めなくなってしまったこともありました。それでも人々は荒れくるう海を必死にわたり、荒れ果てた地面を耕して、大きなぎせいを払いながらも豊かな島を取りもどしたのです。そうした苦難の末に、いまのちっぽけ島があります。
「われわれの作る発電所に土地をゆずってよそへ引っこせば、もっと楽に暮らせるじゃないか。どうしてみんな、そこまでして、このちっぽけな島に住むんだね」
秋元がたずねました。
高村さんは窓の外を見つめました。
「それでもここで暮らしてゆくことが、わたしたちの誇りだからです」
ちっぽけ島は美しい島です。青々と木々がしげり、鳥たちが飛び交い、海は白波を立て、深い地の底ではマグマが赤く燃えています。暮らしてゆくのは簡単ではありませんが、その美しさと豊かさにひかれたからこそ、人々はちっぽけ島をすみかに選び、自然の厳しさと戦い続けてきました。たくさんの苦難を乗りこえ、ちっぽけ島の住民であり続けることは、みんなにとっては何よりも喜ばしいことなのです。たとえ発電所が島の真ん中に建っても、きっとそれは変わりません。
「誇りは覚悟の裏返しということか。わたしにはないものだな……」
秋元は静かにつぶやきました。
風の轟音が次第に落ち着きを取りもどしてきました。高村さんを見つけたスタッフがかけ寄ってきて、「運航部からの連絡です」と言いました。
「天候の回復が見こまれます。三十分後に運航を再開するとのことです」
高村さんは立ち上がりました。
つらい時間は終わりました。島民の命をつなぐヘリコプターの出番が、とうとうやってきたのです。
くろしおシャトルは三時間おくれで、ちっぽけ島を出発することになりました。風が弱まるのを待って荷物が運びこまれ、九人のお客さんが座席につきました。ばらばらばら、ばらばらばら。高速で回転するメインローターが、大きな音で空気をかき混ぜます。
「離陸します。ゆれに気をつけてください」
高村さんは機内に声をかけました。お客さんはみな、固い顔でうなずきました。
ヘリポートの入り口には島のみんなが集まってきました。入口をロープで閉鎖したおまわりさんが、ヘリコプターに向かって敬礼します。それを待って、ゆっくりと機体を浮上させました。島のみんなはいっせいに手をふりました。そのなかには佐々木さんの姿もありました。
「手をふってくれるのか」
おどろいたように秋元が言いました。ええ、と高村さんは笑いました。
「ちっぽけ島の伝統なんです。ヘリが出発するときには、ああやってみんなで手をふるんです。無事に着きますように、また来てくれますようにって」
「わたしが乗っていることを連中は知っているはずだ。どうしてわたしのことまで……」
「みんなにとってはあなたも、この島を訪れてくれた大事なお客さんのひとりなんだということだと思いますよ」
高村さんの胸には確信がありました。そうでなければ、あんなに秋元をきらっていた佐々木さんがヘリポートまで来て見送りをするはずがありません。どんなに秋元がいやなやつでも、みんなは秋元に気持ちよく帰ってほしかったのでしょう。
でも、その期待にこたえるのは、秋元ではなく高村さんの役目。
安全優先の航行で、秋元を次の島まで無事に送り届けてみせます。
だって、ちっぽけ島で暮らしてゆくのがみんなの誇りであるように、みんなの暮らしをヘリコプターで支え続けるのが高村さんの誇りなのですから。
「……そうか」
秋元は答えました。三時間も待たされて島を出たというのに、その口ぶりは、なんだかとても満足げでした。
あれから何か月もの日々が過ぎました。
くろしおシャトルは相変わらず、十日に一回ほどは嵐で足止めをされながらも、ちっぽけ島に人々を送り続けていました。
高村さんのもとには意外な報告が入りました。秋元の勤める電力会社が方針を変え、ちっぽけ島への地熱発電所の建設を取りやめたというのです。
「定置式波力発電所、とかいうのを代わりに作るらしい。波の力で電気を作るんだそうだ。おれたち島民にも、島の自然にも、ほとんど迷惑がかからないんだと」
電話で事の次第を教えてくれた佐々木さんはうれしそうでした。地熱発電所の計画がなくなったことで、佐々木さんの両親も、知り合いも、計画地から引っこさなくて済むことになりました。
「よかったじゃないか。これで仕事も増えるし、みんなの暮らしもこれまで通りだ」
高村さんが答えると、「ああ」と佐々木さんも笑いました。
「秋元の態度は気に入らなかったが、ちょっとばかり見直してやってもいいな」
その明るい声を聞いて、高村さんはほっとしました。佐々木さんの気持ちはみんなの気持ちでもあるのでしょう。ちっぽけ島をゆるがした大騒動は、これでどうやら一件落着しそうです。
波力発電所の計画はどんどん進みました。ふたたび説明会が開かれることになったと聞いてからしばらくしたころ、いつものように高村さんが大きな島でヘリコプターの出発準備をしていると、見覚えのあるスーツ姿の男が乗りこんできました。
男の正体は、秋元でした。
背筋をのばして腰かけた秋元は、ヘリコプターの小さな窓から海をながめていました。二十分のフライト時間はまたたく間に過ぎてゆきました。やがて、青い海のかなたにちっぽけ島が見えました。木々におおわれた小高い島の周りを、鳥たちが心地よさげに舞っています。波もおだやかで、このぶんなら船も港につけそうです。
「本当にちっぽけな島だ」
秋元がつぶやきました。
「……だが、美しい島だな」
高村さんの胸は急にあたたかくなりました。なんの根拠もありませんが、地熱発電所の計画をやめさせ、影響の小さな波力発電所の計画を立てさせたのは、この男なのではないかと思いました。働き口の生まれた島はにぎわい、観光業はますます盛んになるでしょう。運び屋さんの役目も当分は安泰になりそうです。
吹きぬけた風が笑っています。
行く手のヘリポートがぐんぐん近づいてきます。
操縦かんをしっかりとにぎり、高村さんは声を上げました。
「まもなく着陸です。ようこそ、ちっぽけ島へ!」
……冬の童話祭に提出する気満々で書いたのにテーマがまったく合わなかった。
童話はやっぱり穏やかに落ち着く物語がいいなと思います。
作中の「ちっぽけ島」のモデルになっているのは、太平洋の沖合に浮かぶ実在の島。作中にもちらっと名前が出ています。くろしおシャトルにも実在モデルが存在します。国内唯一のヘリコミューター便によって結ばれた小さな島の歴史の中に、こんな一幕があればいいなと思って書いてみました。
最後まで読み通していただき、ありがとうございました!
2021.12.15
蒼原悠