処女の対価
現代恋愛ジャンル初挑戦の作品です。
よろしくお願いいたします。
「おとうさん……」
隣の部屋で寝ていたはずの少女に起こされる。時計を見れば午後十一時二十分、明日の日曜日は水族館に行くので、お弁当を作るために早起きする自分の都合もあって、早く寝るように二時間ほど前に言っておいたはずなのだが。
「どうしたんだい、あかりちゃん。トイレに……」
眠い目をこすりながら声をかけてきた少女の方を見て……瞬間的に目が覚める。
「ちょっ、パッ、パジャマはどうしたの!何で裸なの?!」
恥ずかしさで真っ赤になり、うつむいて彼女は言う。
「おとうさんは私のためにいろいろしてくれた。ご飯を食べさせてくれて、お風呂に入らせてくれて、服とか靴とかいろいろ買ってくれて……。お母さんにいらないって言われた私を引き取ってくれて……でも私は何にも持ってなくて……おとうさんに差し出せるのはこの体しかないから……やったことないからお母さんみたいに気持ちよく出来るかはわからないけど……一生懸命頑張るから……」
とりあえずパジャマを着させて話を聞くと、以前夜中に目が覚めた時に母親と彼氏が繋がっているのを覗いてしまったことがあるらしい。そしてその時の母親と彼氏の気持ちよさそうな顔を思い出して、せめて俺に気持ちよくなってもらおうと思ったようだ。
少し考えた後、俺はあかりちゃんにこう言った。
「わかった。保護者になる対価としてあかりちゃんの処女は俺がもらう。ただし……」
俺は路里 正義。四十歳独身彼女なしの会社員だ。大体想像はつくと思うがあだ名は「ロリさん」。まあこの歳でストライクゾーンが周囲にいた人たちより少し、そう、ほんの少しだけ下方向に広めだったのは否定しないがロリコンではない……はず。今、忠野市立黒龍小学校の「生活指導室」と書かれたパイプ椅子と折り畳み机しかない空き教室で、先日の出来事を思い出していた。少子化による児童数減少でクラス数が減り、空き教室を利用しているらしい。ここで担任の秋山先生に、生活指導担当の蝶野先生を交えて話があるからと呼び出されたのだが、職員会議が少し長引いているらしく待ちぼうけをくっていた。そして指定時刻を十五分ほど過ぎ、窓から放課後の校庭で遊ぶ子供達を眺めていたときに「遅くなってすみません」といいつつ両先生が生活指導室に入ってきた。数日前に担任の秋山先生とはあかりちゃんの保護者を彼女の母親から引き継いだ連絡と、正式に保護者になるために児童相談所への窓口となってもらうようお願いしたときに会っていた。ということは、もう一人のちょっとキツそうなカマキリみたいな感じに見える人が蝶野先生なのだろう。「蝶なのにカマキリかよ」と心の中で突っ込んだら睨まれた。「……どうせ蝶野なのにカマキリよ……」と小声でつぶやいている。心の声が口から出ていたのかわからないが、とにかく必死で謝った。
余計な前振りはあったが「それでは本題に入らせていただきます」という秋山先生の言葉で話し合いが始まる。
「単刀直入に聞きますが、路里さんが山本あかりさんの保護者になる対価として彼女の処女を要求した、というのは本当の話でしょうか」
俺が保護者を引き継いだ件であかりちゃんからも話を聞いた際に、処女を対価に、と言ったことも話してしまったらしい。
「結論から言ってしまえば、確かに言いました」
両先生とも驚き、そして犯罪者を見るような目で俺を見ている。カマ…蝶野先生は「名前の通りYESロリータ…」などとつぶやいている。カマキリ発言でこちらが謝っているので、この発言については後で文句を言ってやろうと心に決めた。
「ただそれは今じゃないんです。先生方は俺が小学生のあかりちゃんを抱くところを想像したかもしれませんが、今ではいけないんです。俺の真意は……多分彼女との出会いから話したほうが分かってもらえると思いますので」と、前置きをしてから、俺は話を始めた。
俺は高校卒業後、地元にある大企業の工場の下請けを主な仕事にしている中堅企業に入社したのだが、大企業が事業再編により地元の工場を閉鎖することになったため、うちの会社も事業縮小をせざるを得なくなってしまった。俺はいろいろな事情により早期退職に応じざるを得なくなったのだが、上司の伝手で今の会社を俺に紹介してくれて、俺はこの町に引っ越して来ることになった。引っ越すにあたり不動産屋に「会社に近く、古くてもいいから安い所」で探してもらい、今のアパートに決めたのだが、ここで彼女と出会うことになる。
彼女、山本あかり。うちと二つ離れた部屋に住む小学五年生の女の子。俺が会社へ行くのと、彼女が学校へ行くのに家を出る時間がほぼ同じであるため、アパートの前でよく顔を会わせていた。最初は目礼だけだったのだが徐々に挨拶をするようになっていて、最近では「いってらっしゃい」と声をかけると「いってきます」と言って手を振ってくれるようになっており、子供を授かるなら女の子がいいななんて想像をしたりしていた。もっとも子供を産んでくれる奥さんどころか彼女もいないのだけれど。
そして、とある三連休前日の夕方、俺が会社から帰るとあかりちゃんが自分の部屋の前で茫然と座っていた。気になり声をかけると泣きながら事情を説明してくれた。
彼女の家は母子家庭で、母親には彼氏がいてこの連休で旅行に行ってしまったこと。母親は家の鍵を彼女に渡し忘れており、家に入れなくなっていること。そして学校帰りでお金もなく、おなかもすいて途方に暮れていたとのことだった。今までも身だしなみの整ってなさとか何となく気にはなっていたのだが、どうも育児放棄なのではないかと思い至っていた。そんなこともあって大家さんに鍵を借りるのが最適解だと思いつつも、
「じゃあ、うちにおいで」
そう言ってしまった。あかりちゃんは少しためらった後、
「いいの?」
と言って立ち上がり、俺についてきた。後から考えると、傍目に見れば少女誘拐の疑いをかけられていた事案かもしれない。
彼女は学校の制服にランドセルと体操服等の手荷物しか持っていないため、その日は車で隣町のショッピングモールへ行き、夕食と連休をうちで過ごすためのあれこれ、寝間着代わりのスウェットや下着、外出用の服などの衣料品、歯ブラシ等の日用品などを買った。関係ないけど、自分の服はいい加減でいいのに、女の子の服を選ぶのはすごく楽しかった。あかりちゃんは遠慮してここまでしてもらわなくていいと言っていたが、俺は楽しくてついつい二着も買ってしまったので、外出するときに着てもらうのが楽しみだ。
家に帰って風呂に入り(一緒に、ではないよ)、布団をあかりちゃんに譲ったために連休中に俺が寝るための寝袋を押し入れから出していると、あかりちゃんが俺の傍にやってきた。
「おじさん。私、こんなによくしてもらっていいのかな。おじさんに迷惑かけているだけなのに、何にもお礼できないのに……」
と、泣き出してしまった。まあ普通そう思うよな。何か対価になるようなものでもあればいいんだけど……。あ、そうだ
「じゃあさ、この三連休の間、あかりちゃんは俺の娘の役をするアルバイトをしないか?報酬は君のお母さんが帰ってくるまでの生活全般を俺が面倒みるということで。俺もこの三連休にやることがなくてさ。それに会社の同僚が娘がかわいいってのろけるもんだからうらやましかったんだよ。どうだろう、このアルバイト、やってもらえないかな」
あかりちゃんは驚いたような顔をしたあと、笑顔になって
「わかった。やります。おとうさん!」
と答えてくれた。
翌日からの三連休は、父娘(という設定)で、一緒に出掛けたり、料理を作ったりとあかりちゃんも終始笑顔でいてくれた。しかし楽しい時間はあっという間に過ぎ、あかりちゃんの母親が帰宅したことでこの父娘ごっこも終わってしまった。あかりちゃんも帰宅していったのだが、事件はそのあとすぐに発生した。
「うわーん!ごめんなさい、ごめんなさい!」
女の子の泣き声、叱りつける女性の怒鳴り声、パシパシという体を叩く音。
俺はあわてて音のした勝手口側から彼女の部屋へ行ってみると、勝手口の外であかりちゃんが泣いており、勝手口には仁王立ちで怒鳴っている彼女の母親が。
「あんた、何やってんだ!」
母親に向かって怒鳴ると、彼女は関係ない奴が口出しするなと怒鳴り返す。
不毛ともいえる怒鳴りあいの結果わかったのは、この母親が旅行に出る前に連休中の食料としてカップラーメンなどを買っていたのだが、連休前の夕食用に特売品で安くなっていたお弁当を買っていたらしく、家に入れなかったあかりちゃんは当然食べていなかったために傷んで異臭が出始めていたのが気に入らなかったらしい。
「こんな子要らなかった。いなくなってしまえばいいのに!」
などとほざいているので、俺は頭にきて
「あんたが要らないならあかりちゃんは俺がもらってやる。ウチの娘として嫁に出すまで面倒見てやるから俺によこせ!」
「ああ、いいさ。こんな子くれてやるよ。ただやっぱり返すといっても受け付けないからね!」
そう言って彼女はあかりちゃんの荷物を勝手口から放り出し、乱暴に勝手口を閉めて鍵をかけた。
とりあえず母親との間で勝手に話をして、当事者なのに蚊帳の外になってしまったあかりちゃんに謝った。
「あかりちゃん、勝手な事を言ってごめんね。まあ少し時間をおけばお母さんも頭が冷えてまた一緒に暮らせると思うからさ、もうしばらくうちにいなよ」
その後話し合いを持ちかけるもなかなか会ってもらえず、ようやく二週間後に再度母親と話をしたが、あの子は要らないというのは変わらなかった。彼女は高校卒業後すぐにできちゃった婚で前の旦那と結婚したが、二年前に彼の浮気が原因で離婚。その後一年ほど前から付き合い始めた今の彼氏と交際するのに、行動の制約になるあかりちゃんの事が段々とじゃまに思えてきたらしい。あまりに勝手な理由に怒りをこらえながら最終的な意思確認をした俺は、正式にあかりちゃんの保護者になれるように動くので、今後の手続きへの協力だけはお願いして彼女との話を終えた。そしてあかりちゃんに話し合いの結果を話した日の夜、冒頭の一件が発生した。
「だから彼女に言ったんです。報酬として処女をもらうと。ただし成功報酬として、です。具体的には成人してから……成人年齢が十八歳になった後のはずなので高校卒業後ですね」
両先生の頭上に?マークが見えたので、その理由を説明する。
「一番の理由は彼女が自分の体をあまり大切にしようとしていないことなんです」
そう、一緒に生活していて気になったのだが、彼女は育児放棄な扱いを受けていたせいで、自分の体を大切にしていない。それこそ生活費代わりに体を差し出してしまう様に。なので、彼女の体には大切にするべき価値があり、とりあえず報酬の支払いまでは大切にしなければいけないという理由付けにしたかった。
「それに、彼女のためにお金を使うことを遠慮させないためです」
彼女の性格からして、自分にお金を使われるのに引け目を感じるのはわかっていた。なのであくまでも報酬をもらう際に俺がいいコンディションの彼女を抱くため、そして彼女の付加価値を高め、イイ女を抱いているという俺の自己満足を高めるため、そう、あくまでも彼女のためでなく俺のための投資、ということにしておきたかった。
「まあ、理由としてはそんな感じです。もちろん彼氏ができて成人までに非処女になってしまっても追い出すつもりはありません。歳の差とか考えればそっちの方が自然かなという気もしますしね。まあ、そういうことを軽々しくやらないようにする縛りとしても処女を対価としているんですが……」
先生方も一応納得してくれたのか、そのあとは改めて正式に俺が保護者になるための協力依頼とかの話をした。協力を求めたりした関係上「YESロリータ発言」への追及は出来なかった。
その後、俺は正式に彼女の保護者となった。慣れないことばかりで大変だったが、PTA活動を通して知り合った二組の父娘家庭の親子と同盟を組み、三人の父親と三人の娘で協力する体制を作れたのは大きかったと思う。そして笑ったり、泣いたり、ケンカしたり、仲直りしたりしながら七年の月日が過ぎた。
俺は今、会社のある町から電車で三駅のところにある、この周辺で一番大きなホテルのスイートルームでこの七年を思い返していた。小学校では遅れ気味だった勉強も、何とか高校受験までには追いつき、高校では上位を三年間キープ、その高校も三日前に卒業し、4月からは介護の専門学校へ通うことが決まっている。実は先生からは大学への進学を勧められていたのだが、結婚を理由に断っていた。もっとも最初は歳の差のある俺と一緒に過ごす時間を少しでも長くするために専業主婦になるつもりだったのだが、先生の説得と将来の俺の介護の事を考えての選択だった。
そう、俺とあかりは保護者の関係を解消し、今日このホテルで結婚式を挙げた。
結婚を決めたのは、彼女が高校二年になってすぐ、進路について二人で話をしたとき。俺は成績から見ても大学進学を希望するものだと思っていた。しかし彼女からの返答は進学せず結婚だった。最初は遠慮して言っていると思っていたのだが、彼女としては小学生の頃から決めていたことだった。最初は俺も戸惑ったが彼女の必死さ、そして俺が将来彼女を手放すことが出来るのかという自問自答の末にその場で彼女にプロポーズし、高校卒業後に結婚することに決めた。そして高校三年生の夏休みを利用して式場等を決め、卒業旅行や進学、就職先への引っ越しを考慮して卒業式直後に結婚式を行うための準備に入った。そしてこのホテルのウエディングプランにはスイートルーム宿泊券が入っていたので、初夜兼報酬の支払いの場として活用することにした。やっぱり雰囲気は大事だよね。
新婚旅行は、春休み本来の行事である卒業旅行などあかりの友達付き合いを優先した関係で夏休みに行くことにしている。なので明日は一度家に帰って婚姻届を出しに行く予定だが、同盟の皆が立ち会ってくれるそうだ。そういえば同盟の娘二人が「父娘の組み合わせを変えてしまえば他人同士だからOK」みたいなことを言っていたのだが、まさか、ね。
そんなことを思い出していると、「おと……正義さん……」と、昨日までのおとうさんから呼び方を変えたあかりが少し照れながら声をかけてくる。俺は今夜、彼女とここで結ばれる。小学五年生からの保護者としてのゴールであり、夫婦としての俺たちのスタートとなる。歳の差があるのでさすがに金婚式までは無理かもしれないけど、俺が生きている限り彼女……いや、妻を幸せにするため頑張ってみるつもりだ。
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