幸せ研究会
僕が台所で即席ラーメンを作っていると、突然ドアがノックされた。
「何か荷物を頼んでいたかな?」
ペットのカメに聞いても、彼女は首を伸ばしたまま動かないので、僕は黙ってドアを開けることにした。
「どなたですか」
「はい。私どもは、幸せ研究会のものです。実は今、このマンションに住まわれている方々に、サンプル品を配らせていただいているのです。ぜひ、あなた様にもお試しいただきたく、訪問しました。いかがですか」
「結構です」
このような怪しい人たちに耳を貸すとロクなことはない。実際、先月もこのような形で青汁のサンプルをもらったせいで、あとあと、高い商品を買わされたのだ。だから、早めに引き下がってもらうのが最善だろう。
「素敵な夢を見たくないですか?」
その言葉を聞いた途端、僕は扉を閉める手を止めてしまった。
最近、朝まで続けて眠ることができない。毎日、夜中の三時ごろに必ず、もやもやとした嫌な気分とともに起きてしまうのだ。おそらく嫌な夢でも見て言うのだろう。これが、四時だとか五時だと、そのまま起きておこうと思うのだが、三時となると起きておくのにも中途半端であるし、また寝るにしても寝過ごしてしまいそうで、なかなか寝付けないのだ。
「そんなことができるのですか」
僕は思わず質問してしまっていた。
「ええ。もちろんです。私ども、幸せ研究会が作り出したこの薬を寝る前に飲むだけで朝までぐっすり眠ることができます。はい。一週間続けて服用するだけで効果はずっと継続されます。ですが、この薬も完ぺきではないので、これから一生涯、悪夢を見なくなるというわけにはいきませんが、毎日悪夢に悩まされるということはなくなります。ええ」
結局、僕は怪しい男たちから怪しい錠剤を貰った。袋の中にはサンプルの錠剤とともに『幸せ研究会』と書かれたカードが入っていて、その裏には『試供品につき、一晩のみ有効。購入をご希望の方はお電話を!』といった如何にも胡散臭い文言がかかれていた。本当に効果があるのかわからないし、もしかすると身体に害があるかもしれない。しかし、今の僕には、どうしても安眠が欲しかったので、その日のうちに服用し、眠ることにした。
「こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりです。ありがとうございます」
翌朝、カードの裏に書かれた電話番号に電話をかけて、さっそく薬を買うことにした。幸せ研究会の人たちも喜んでくれて、すぐに送付するとのことだった。
いつもより体が軽くて頭も痛くない。鼻歌まじりに朝食を済ませ、仕事へ向かった。
「いやいや、今回は大当たりだな」
移動中のキャンピングカーから男たちの笑い声が聞こえる。
「ほんまに、あの男もすっかり薬のおかげやと信じてもうて、傑作やな。同士よ」
「まあまあ。そのようなことを言うものではないよ。同士よ。あの者おかげで我らはうまい酒を飲むことができるのだから」
「そうですな。まさか彼の者も我らが生み出したものが、不快な夢を見させることのできる電波だということはわかるまい」