03
美亜と彩名と別れ、帰路の途中の住宅街を歩く。
血のように赤い夕焼けの空。無言で立ちつくす電柱。同じ形の住宅。
それらに夕焼けの光が当てられ、哀愁漂う影を作り出している。
人通りの多いはずの住宅街。それなのに今日は、買い物帰りのおばさんも小中学生も、人っ子一人もいない。
普段は明るく和気藹々とした雰囲気の住宅街。
今日に限っては、酷く寂れて、不気味な雰囲気に感じる。
「一輝と帰れば良かったな」
ふと、幼馴染み兼クラスメイトである飯塚一輝が脳裏に浮かんだ。
一輝とは家も隣同志で、家族ぐるみで仲の良い。妹の秋那なんか、一輝の事を兄弟みたいに扱っている。
けど、最近は美亜達と一緒にいて、一輝とはあんまり喋らない。
これが思春期とかいう奴なんだろうなぁ。そんな事を考えていても、気味の悪いメールの事は頭の片隅にこびりついてはなれない。
でも、メールを削除してしまえば、それで終わり。
私はケータイを取りだしたあのメールを開いた。
「あれ?」
よく見てみると、あの文には続きがあった。
『 “ ×× ”メール受信者<桃瀬夏樹様>。
“ ×× ”メールを受信したあなたには、死なない程度の不幸が訪れます。
又、このメールは削除することが出来ない。 』
「なにそれ?」
呟きが外に漏れた。
どうして私の名前を知っている?
薄ら寒い悪寒と吐き気、立ちくらみに襲われる。
立っていられなくなり、近くの家の塀に手をついた。
大丈夫、消せば、それで、終わり。
暗示をかけるようにくり返し、繰り返し、そう頭の中で唱えて、削除のボタンを押した。
でも、ケータイの反応は私を嘲けわらうような返答だった。
『削除できません』
「え?」
どうして?
もう一度ボタンを押す。
『削除できません』
押す押す押す押す押す押す。
『削除できません』
現れるのは、同じ文面。
気味悪い。気味悪い。気味悪い。気味悪い。
強い風が吹き抜けてきて、私の髪とスカート、電線を揺らした。
直後
何かが、目と鼻の先に落ちてきた。
その何かは、ガシャン、と煌びやかな音をたて、粉々に砕け散った。
それと同時に右足に痛みが走る。
え? え? 何?
数秒遅れて、混乱する私は後ろに後ずさった。
痛みが走った右足を見てみると、浅く皮膚が裂け、赤色の血が傷から滲みでている。
地面に視線を移すと、ホームセンターに売っている、メルヘンの世界に出てきそうな小人の置物が―――頭が粉砕している状態で転がっていた。
塀の上を見上げると、薄気味悪い笑みを浮かべた小人の置物が五体、ならんで置いてある。
そう内の一体が、さっきの強風に煽られて落ちたらしい。
「あぶなっ……」
もし、あの置物が落ちてきた所に私が立っていたら……。
右足の軽い傷では済まなかったかもしれない。
そう考えると、身震いしてしまう。
一瞬、“ ×× ”メールのことを思い出した。
――――――偶然。これは偶然だ。
そう言いつける自分がいた。