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ユウとアサの告白トーク

作者: 兎谷あおい

「ねえ」

「何さ」

「私ね、さっきね、告白――」

「ああ、されてたな」

「……されたね」

「どんな気分だ?」

「別に」

「そこそこイケメンだったじゃん」

「べつにー」

「なんだよふてくされて」

「ふてくされてないわ」

「はいはい」

「……」

「で、どうした」

「『付き合って』って言われたのね」

「そりゃ告白されたらそうなるだろ」

「そうなの?」

「そうなんじゃない?」

「まあいいや。言われたのよ」

「はあ」

「アサにも聞きたいんだけどさ」

「何?」

「『付き合う』って、何だと思う?」

「『付き合う』」

「そう、付き合う」

「……なんだろな? いちゃいちゃする?」

「私らのこれいちゃいちゃじゃないの」

「これ?」

「女子がソファに寝っ転がってスマホいじってさ」

「男子が膝枕をしつつスマホをいじってるな」

「うん」

「いちゃいちゃ?」

「いちゃいちゃじゃない? えいっ」

「こら」

「えー」

「やめっ! くすぐったい!」

「ちぇー」

「まあ俺には分からんよ、付き合ったこともないし」

「そうだねー」

「おいかわいそうな目で俺を見るな」

「かわいそうなものを見る目だよ?」

「言い間違えただけっす」

「はんっ」

「……まあいい。で。ユウはどう考えるんです?」

「……考えてたんだ、何なのかなーって」

「帰り道静かだったのはそれでか」

「それもある」

「それ以外もあるのかよ」

「う……ひとまず置いといて」

「ういっす。で?」

「でね。悟っちゃった」

「ブッダか?」

「世界全部を悟ったわけじゃないから」

「じゃあお坊さん」

「髪切りたくないわ」

「俺も切ってほしくない」

「好きだねえアサも……」

「好きだよ」

「まあ好きにいじるといいよ」

「いじるわ」

「で。悟ったんですよ」

「お聞かせ願おう」

「正直ね、あの先輩ね、私をめちゃくちゃ好きなわけじゃないよね」

「そうだね。俺の方が好きなくらい」

「アサはなんかもう……まあいいや。とりあえず、そこまで好きじゃない相手のはず」

「だな」

「でもね、熱意は感じたの」

「熱意」

「『私を好きになりたいな』的な熱意」

「好きに、なりたい?」

「今は大好きってわけでもないけれど、これからあなたのことを好きになります、的な」

「何それ」

「ま、アサには分かんないかあ」

「分かんないわ」

「知ってる」

「さいですか」

「うん」

「いじるのもいい加減にしてくれよ……それで? 続きは?」

「お、鋭いじゃん」

「悟ったって言ってたし」

「あー言ったね私」

「続き」

「はいはい。でもね、よくよく考えてみると、先輩の気持ちも分かるんだ」

「分かる?」

「というか、恋人って制度が構築されたワケが」

「マジで悟ってるじゃん」

「だから悟ったって言ったでしょ?」

「お聞かせください、ユウ様」

「えへ」

「にやけてるんじゃないよ」

「いいじゃん」

「いいけど」

「あのね。付き合うってのはね、きっと」

「きっと?」

「仲良くなるための、近道なんだよ」

「仲いいから付き合うんじゃないの?」

「違う違う、因果が逆なの。そこに私は気付いたの」

「ほう、詳しく」

「いい? 人と人が仲良くなるためにはね?」

「相性」

「も、そうなんだけど、その相性を判断するためにはね?」

「時間が必要と」

「分かってるじゃん」

「……普通に積み上げて、仲良くなったら告白すりゃいいんじゃ?」

「その普通に積み上げるのにどれだけ時間がかかると思う? 告白OKまで」

「……さあ?」

「相当だよ、わかんないけど」

「わかんないんかい」

「そこはわかんないけど、告白ってのがそれをショートカットできることはわかる」

「ほう」

「ここで話が最初に戻るのです」

「最初」

「『付き合う』ってのはね。たぶん、『お互いがお互いのことを割と優先します』という契約なんだ」

「優先契約」

「そ。よっぽどのことがない限りはあなたとがんばって予定を合わせますよって約束」

「見えてきたぞ」

「さすがアサ。つまり?」

「時間を合わせるってことは、一緒にいる時間が増やせるわけだ」

「一緒にいる時間が増えるってことは」

「仲良くなれる、か」

「少なくとも、信頼をおけるかどうかの判断ができる」

「ほー、なるほどなあ」

「どうよこの見方」

「悟ってんなあ」

「色恋に興味ないクセによく言うよ」

「……まあ、それは」

「つまり付き合うってのは、単純接触効果で、お互い好きになるため、接触する努力をし合いましょうっていう契約なわけ?」

「身も蓋もない言い方をすれば」

「先に『悟った!』って騒ぎ出したのユウの方だからな」

「わかってるよ」

「はい」

「で、また最初に話を戻します」

「はあ」

「私ね、さっきね、告白――しようと思ったんだ」

「ほ?」

「アサに」

「朝?」

「ちゃう。アサト。お前や」

「……俺? なんで?」

「……好きだから」

「…………ユウ、それ反則。かわいい」

「あー! かわいいって言った!」

「かわいいんだからしょうがないだろ!」

「むぅ……」

「ほらまたかわいい」

「かわいいって言うな!」

「はいはいかわいいかわいい」

「むー!!!」

「……」

「……」

「はい」

「はい」

「え? 俺?」

「うん。アサ」

「なんで?」

「……ループしそうになった、危ない。とりあえず最後まで聞いて」

「うん」

「告白、しようと思ったんだ。帰り道で」

「だからさっき静かだったのか」

「でも、やめたんだ」

「察しがついてきたぞ?」

「うん。『付き合う』意味を考えたらさ」

「なるほどなー」

「私とアサ、これだけ仲いいのに、今さら付き合う意味ないなあって思って」

「会おうと思えばいつでも会えるもんな」

「家隣だし」

「学部一緒だし」

「研究室まで一緒で」

「飯も1日2食は一緒に食べてるし」

「もう時間合わせなくても自然に視界に入ってるレベルでしょ」

「だな」

「付き合う意味、なくない?」

「ふむ」

「だって別にわざわざ付き合わなくたって、好きな人といつでも会えて話せるんだよ」

「確かに」

「うれしいことじゃん」

「そうだね」

「むしろ恋人なんかよりよっぽどピュアな関係とも言える」

「ピュア?」

「理由がなくたってくっついてられるんだから」

「こら、頭すりすりするなくっつきたいのは分かったから」

「ね? そうじゃない?」

「まあそうか。お互い好きでわざわざくっついてるんだもんな」

「あ、好きって言った」

「好きだが?」

「……はい」

「何だよ」

「いや別に。もちろん、付き合ってるうちにめちゃくちゃ好きになるカップルとか、ちゃんと積み重ねた結果付き合うカップルとかもあるんだろうけど」

「なんだいきなりまとめに入って」

「疲れちゃった」

「そっか」

「それに負けないくらいには、アサのこと大切だなーって。だから告白しなかったんだ」

「ふむ」

「うん」

「で。それを今俺に言ったら意味なくない?」

「……今それめっちゃ気にしてたんだけど」

「俺もめちゃくちゃ気になってた」

「言わなかったことには?」

「なるか」

「ならないかあ」

「いっそちゃんと言ってくれ」

「はあい」

「お、起き上がるのか」

「ちゃんと言えっていったのそっち」

「でしたね」

「ちゃんとフッてよ?」

「なんで?」

「え」

「え?」

「付き合う必要ないんでしょ」

「……だからって、付き合わない必要もないんじゃないか?」

「え」

「え」

「え?」

「だって」

「そう、だけど」

「だけど?」

「今はごめんなさいする流れでしょう!」

「えー」

「なんか急に恥ずかしくなってきたんだけど!」

「知らんわ」

「アサトのせいだよ! だから付き合って!!」

「勢いで告白すんな、落ち着けユウナ」

「なに?」

「俺もテンパってるから」

「ダメじゃん! 落ち着けない!」

「そりゃテンパるわいきなり幼なじみからこんな話されたら!」

「で? どうすんの! 付き合う?」

「どっちがいい?」

「どっちでも!」

「なんだそりゃ」

「だって結局一緒にいることは変わんないし」

「……だな」

「ねえ、アサト」

「なんだいユウナ」

「ずっと、一緒にいようね」

「おう。約束だ」

「うん!」

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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのでいいんだよ定期。
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