最強とお人よしには分からない
ドロークが学園に入り、教室である2-Aに向かうと、入り口にはアネッサが仁王立ちで立っていた。
周りの生徒は物音一つ立てず、アネッサを刺激しないように必死のようだ。
「この間の御前試合、勝ったのは私よね?」
アネッサはドロークの目をじっと見る。
「あぁ。」
「なのになんでアンタの方が評価が高いのよ。皆が認めるべきなのはアンタに勝った私でしょうが!なんでなの!?」
そう言われてもドロークから言葉が出ることは無かった。自分の評価が高いだなんて露ほどにも思っていなかったから意表をつかれたのだ。
「答えなさいよ。答えないとまた御前試合の時のようにボロボロにするわよ?」
ドロークは明らかに困っていた。なんと返せば良いのか分からないからだ。自分はただ戦っただけで、それ以上でもそれ以下でもない。アネッサが評価されない理由など分からない。
「今貴様なんと言った?」
ドロークが返事に困っていると、クラスメイトの一人であるエルメスが立ち上がり口を開いた。その瞳はじっとアネッサを見つめている。
そしてクラスメイト達が明らかに殺気立っていた。
「それはこの2-Bに対する宣戦布告と受け取るぞ?」
「へぇ。アンタら腰抜けの集団の割には良い殺気出すじゃない。雑魚が群がったところで私には勝てないわよ?」
「だとしても、私達はもう二度とドロークだけを戦わせることは無い。貴様のような奴に大事なクラスメイトを潰されてたまるか。」
エルメスの言葉に他のクラスメイトも頷いた。
「貴様、なぜ自分が評価されないのだと喚いていたな?そんなもの当たり前だろう。誰が貴様のような自分の事しか考えていない奴を評価するか。貴様を評価するのは精々教官か貴様を利用したい薄汚い権力を持っただけの豚だけだ。」
「なんですって?」
「気づいていないのか?貴様は嫌われていると言っているのだよ。それもこの学園にいるほぼ全員からな。」
アネッサの瞳が揺れる。
「気づいてもいなかったか。それはそうだろう。貴様の周りには貴様に対し媚びへつらうだけの腰抜けしかいないのだから。皆貴様を刺激しないように必死さ。現に私たちもそうだった。だがな、お前はこの2-Bの、いや二年生の地雷を踏んだのだ。」
エルメスの言葉が発せられた瞬間、殺気はクラス内からだけではなくクラス外からも放たれるようになる。
ドロークはこれらの様子を見てただワタワタ慌てていた。
「地雷って何よ...。」
「ドロークを侮辱したことだ。こいつはたしかに貴様より弱い。だが貴様の何倍もこの学園の為に、私たちの為に貢献してくれている。」
エルメスはアネッサを見ながら剣を抜いた。
そして他のクラスメイトも各々武器を準備する。
「止めて。」
ドロークは思わず声を出した。本当に戦いが始まってしまえば多くの人が傷ついてしまうと思ったからだ。
「皆、ありがとう。大丈夫。」
「どこがだ!ドローク!お前はいつもそうだ!大丈夫という一言だけ残して後は何も言わない!」
「でも、これは俺の問題だから。」
ドロークはアネッサの方に向き直る。
「俺には、分からない。」
「分からないって何よ...。これだけの人間がアンタの為に動いているのよ!?何か特別なことをしたんでしょう?」
「してない。」
「もう何なのよアンタ!!!」
そう言ってアネッサは走り去っていってしまった。
悪いことをしてしまっただろうかとドロークは思ったが、内心心臓がバクバクだったためアネッサが去ってくれてほっとした。




