青薔薇
どうも、星野紗奈です(*'▽')
去年の夏に書いたものを投下します。
ミステリーじゃないミステリーとか書けたりしないかなあ、一人語りのやつ書いてみたいなあと思い、挑戦したらこんなことになりました(笑)
殺人現場に関する表現がありますが、直接的なものではありません。ですが一応苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでは、どうぞ↓
はあ、やっぱり薔薇は綺麗だね。沢山の薔薇が咲き誇っているのを見渡すのも良いけれど、僕は一輪が気高く咲いているのを眺めている方が好きだな。それにしても、微かに匂う香り、葉陰に見え隠れする棘、全てが実に美しい。庭師の手入れが隅から隅までしっかりといきわたっていることがわかるよ。ただ、一つ残念なのは、白い薔薇が無いことだね。今度、相談してみようか。
おや、君、こんなところで一体何をしているんだい。散歩をしていたら綺麗な薔薇を見つけて、夢中になって見ていたらいつの間にかここに、ああ、迷子か。別に、君が謝る必要はないだろう。この洋館もそれなりに広いから、仕方がないよね。僕だって、まだ迷子になることがあるからさ。あれ、これは君の落とし物かい。それは良かった、あまり見かけないカードだね。とても高価な物に見えるし、悪人なんかに見つかったらすぐに売り飛ばされてしまうだろうから、気を付けるんだよ。ところで、少し時間はあるかい。まあ、ちょっと縁があったと思って、僕の話を聞いてはくれないか。
君は、推理小説は好きかい。そうかい、僕はどうもあれを好きになれなくてね。だって、作者の考えることが単純かつ明白で、ちっとも面白くないんだもの。あんなの、事件なんて呼べやしないさ。きっと、書いた奴の脳内もたいそうつまらないに違いない。どうして物語の謎が解けるのかって、それは、これでも僕は探偵をやっているからさ。
だが、そんな僕でも面白いと思った人物がいてね。僕の友人で、作家のSと言うやつなんだ。Sも推理小説を多く書いているんだが、彼の考え方が実に興味深いんだ。ある時に、彼が新しい小説を書き終えたという報告をくれたから、僕はようやく完成したんだね、お疲れさま、って返事をしたのさ。そうしたら彼、なんて言ったと思う、「小説は読者が読むことで完成する、だからまだ完成していない」って言ったのさ。逆に言えば、誰にも読まれることがなければ、それは小説にならないってことだ。その言葉がどれだけ僕の芯に突き刺さったか。その時は高揚して、全身に鳥肌が立ってね、僕が求めていたのはまさにこの人だと瞬時に分かったよ。そこらの作家だったら、きっとこんなこと言わない、いや、言えないだろう。だから、実に興味がわいたのさ。
しかし、この話を知人にしても、誰も興味を示さない。ましてや聞いてくれない奴さえいるくらいだ。だが、どうやら君はわかってくれるようだね。そうだ、良かったら僕の部屋でもっと話をしないかい。中庭じゃあ、騒音が多いし、そろそろ寒くなってくるだろう。最近ここらで面白い事件があったんだ。またつまらない推理小説の話になる前に、早く行こうじゃないか。
いい具合に部屋も温まってきたことだし、レコードでも聞きながらゆっくり語ろう。ふふっ、いや、何でもないよ。表情が乏しいと思っていた君があまりにもきらきらと目を輝かせるものだから、おもしろくって。曲は、なんでもいい、そうかい。じゃあ、事件の内容について話そう。これはね、「青薔薇連続殺人事件」と呼ばれるものなんだが、聞いたことは、そうか、ないんだね。
第一被害者は町医者の男性、齢は二十九。病院の一室で死んでいたそうだ。遺体は、壁にもたれかかりながら、座り込んでいたよ。第二被害者は一見普通の会社員の男性、二十三歳。この男は普段あまり使われていない倉庫で遺体が発見された。だが、一般人なら倉庫なんて行くことは滅多にないだろう。不審に思って調べてみたら、彼が闇取引に手を出していたことがわかったよ。第三被害者はここから近い中学校の男性教師。二十五歳なんて随分と若い教師だけれど、彼はすごく仕事熱心だったようだ。彼の死に方は、これがまた奇妙で、体育館の中心のサークルの中で、ぽつんと倒れていたのさ。
ちなみに、被害者三人の共通点は、二十代の男性であることと、全員首を切られていたことだ。いや、僕が見た限りでは、切られていたというよりは、鎌か何かで刈られていたようだったよ。遺体の横に生首がごろりと転がっている惨憺たる光景を見た時は、さすがに僕も参ったな。それから、各犯行現場には、四日前に予告状が届いていたらしい。もっとも、四日後にその場所にいる者一人を殺害する、としか書かれていなくて、ターゲットは明記されていなかったけどね。だから、皆ただの悪戯だろうと思ったらしいのさ。
そうそう、この事件で一番重要なことを言っていなかった。今説明した三つの犯行現場には、青い薔薇が一輪ずつ落ちていたんだよ。きっと犯人が置いていったものなんだろうけど、おかしいんだよ。青い薔薇は存在しないはずなんだ。研究を始めた人はいるようだけれど、まだ成功したなんていう発表はどこにもない。はじめは造花じゃないかと警察も疑ったようだけれど、数日経ってそれが枯れたことからは、一般人でもそれが生花だとわかるだろう。生花を青く染色したんじゃないか、それも視野には入れていたけれど、茎は青く染まっていなかったから、染料を吸わせたわけじゃなさそうだったよ。それにしても、貴重な事件の資料をそんな風に扱うなんて、ちょっとどうかしていると思わないかい。まあ、僕にデメリットがあるわけじゃないから、いいか。
そんな奇妙な事件がなぜ解決しないのか、それはね、証拠が一つも残っていないからだよ。手掛かりになりそうなものは何も落ちていないし、死因はわかっても詳しい殺害方法は不明、そして何より、誰も犯人の姿を見ていない。動こうにも動けないから、文字通りの八方塞がりだよ。
今日からちょうど四日前、この洋館にも同じ予告状が届いてね、警察が周りを警備しているんだ。僕は危なくないのかって、この洋館には僕以外にも数人、条件にあてはまる人物がいるけれど、僕が被害者にならないとは言い切れないね。じゃあなぜ逃げないのか、警察がここを出させてくれないんだ、必ず犯人を捕まえるから、って。それはつまり、僕たちを餌にするってことさ、信じられないよね、最近の警察は、まったく。
そんなわけで、館の中に閉じ込められて退屈だったものだから、彼らの目を盗んで部屋から抜け出してきたんだ。だけど、これといってすることもないから、事件の推理をしながらふらふら歩いていたら、君に出会ったのさ。なんだい、僕の推理を聞きたいか、いいよ、話してあげよう。証拠が見つかっていないから、根拠はないけどね。
僕はね、この事件は不可能犯罪だと思うんだ。ようするに、別次元の人じゃない限りできない、ということだよ。まずね、警備がいるにもかかわらず、誰にも見つからずに首を切るなんてほぼ不可能だ。四回目の犯行ともなれば、警備が厳しくなるのは犯人も承知のことだろう。小型のナイフや毒を使うんだとしたら成功する可能性があるかもしれないけれど、前に僕が言った通り、鎌のような大きなものを持ち込まなければいけないとしたら、話は別だ。それでも予告状を送ってきたということは、犯人には殺害を成功させる相当な自信があるんだろう。それから、青い薔薇が存在していないことも妙だけれど、花言葉にも少し引っかかるところがあってね。青い薔薇の花言葉は「不可能」。どうも出来すぎたシナリオだとは思わないかい。まるで、これこそが不可能犯罪だ、と言っているみたいじゃないか。
しかしながら、僕は、こんな不可能犯罪にも犯人は存在すると考えているんだ。ここからは完全に推測だけれど、一応説明するよ。もし、本当に犯人が別次元の人物なら、この犯行は不可能じゃないかもしれないんだ。例えば、次元を超えて犯行現場にやって来たなら、それこそ瞬間移動が実現可能なら、大きな鎌を持ち込んでも見つからずに殺害できる。その後、異次元から持ち込んだ青い薔薇を置いて帰ったなら、証拠は残さず、事件のシンボルのみを現場に残すことができる。周りにこの推理を話したら、とんだ空想小説だと笑われたり、頭がおかしくなったんじゃないかと心配されたりしてしまうかもしれないけれど、君なら信じてくれるだろう。
だって、犯人は君だからね。
会ってすぐ、君は高価そうなカードを落としただろう。子供のゲームのカードでもなければ、機械の部品でもなさそうだった。僕は今まで、あんなものを見たことがないよ。受け取る時に慌てていなかったところを見ると、そこまで珍しいものではない、つまり、普及していて使い慣れているものだと考えられる。その後、僕の部屋に行った時は、小さい子供がいつも売り切れている新しい玩具を見つけた時みたいに、レコードをまるで珍しいもののように見ていたね。確かに、貧乏な家の子だったのなら珍しいものかもしれないけれど、君の身なりはとても貧しいようには見えない。むしろ、金持ちの部類に入るんじゃないかな。それを踏まえると、もしかしたら、君のところにはレコードが存在しない、もしくは、あまり使われていないのかもしれないと思ったのさ。そもそも、おかしいんだよ。この洋館の周りはずっと警察が警備しいて、全ての出入り口は封鎖されている。それなのに、君は、自分は迷子だと言って、この洋館に入って来た。壁をのぼったりすれば侵入できなくはないけれど、そんな奴がいたならとっくに警備員が捕まえて、馬鹿みたいに喜んでいるだろう。
君が犯人だというのは、あくまで、僕の空論上の話だ。もちろん、それを裏付ける決定的な証拠を、僕は持っていない。だから君が犯人でないと言うなら、君は犯人ではない。逆に、君がここで鎌などを取り出して、僕を殺害したならば、僕の推理は正しかったことになるが、君が捕まることはない。特殊な能力を持っている人物でもない限り、さすがに、異次元まで君を追いかけることはできないからね。どちらを選択するも、君の自由だよ。
それを取り出したということは、僕の推理は間違っていなかったんだね。探偵として、とても誇りに思うよ。なぜ抵抗しないのか、確かに、普通の人だったら、必死で生き延びようとするかもね。例えば、命乞いをしてみたり、金で交渉してみたりさ。でも僕は、自らの死を拒んだりはしないよ。何故かって、君でもそんな風に驚いた顔をするんだね。君はとても面白い人物だ。気に入ったから、その理由を話してあげよう。いつだったか、随分と昔だった気がするけれど、僕は気がついてしまったんだ。僕らが生きるということは、目の前に広げられた他人の物語を読んでいるだけにすぎないのだ、とね。だから、その誰かの物語に僕の死という要素が必要ならば、僕は喜んで人生の終わりを受け入れようと思うんだ。
しかし、最後に言っておきたいことがある。僕がこうして君に殺害されてしまうということは、受け入れるとは言ったけれど、決して僕自身の願いではない。読者である「君」がここまで読まなければ、僕が死ぬことはなかったんだからね。つまり、この事件を完成させた真犯人は、まぎれもなく「君」で、全ての責任は君を動かした「君」にあるんだ。だから、絶対に忘れてはいけないよ。
僕を殺したのは、「君」だ。
ありがとうございました('ω')