お見合いだったはずがもはやフェス~Fireball~
アイのギターにすっかり魅せられていた。ライトの瞳が、今は爛々とサーチライトのような強い光を帯びていた。鼓動が早鐘のよう。胸の奥からほとばしり出た情熱は、今や炎となって燃え上がっていた。
ライトの瞳をアイが見つめる。延々とギターリフを続けながら、彼女が微笑んでいる。それと同時に、垣間見える挑戦的な色。アイの瞳が問いかけてくる。
(そっちで見てるだけのキャラじゃないんでしょう?)
ライトの中に、焼き付くような衝動が生まれていた。無意識に握りしめられた拳に、一気に力がみなぎった。アイの唇が微かに動く。
(こっちにおいでよ)
パチィン!と、大きな音が部屋に響いた。ライトはが、おもむろに指を鳴らしたのだ。
すると今度は、ライトの背後の襖が、やはりスパァン!と大きく開かれた。
こちらは鶴と亀、昇り竜に鯉の滝登りが描かれた、まことに縁起のいい襖だった。
その奥に控えていたのは、黒いTシャツを着たシュッとした若者たち。お洒落ひげに丸眼鏡だったり、長い髪を後ろでまとめていたり、やはりちょっと浮世離れした彼ら。
ライトが、勢いよく立ち上がった。
スーツの上着を勢いよく投げ捨て、ネクタイを引きちぎり、シャツのボタンをおおむね4個くらいぶっ飛ばした。
彼のテンションは今、最高潮に達していた。
隣の間にいた黒いTシャツのうちのひとりが、おもむろに入室してきた。彼が持っていたのはスタンドマイクだった。
ライトが頷くと、黒Tシャツの若者は親指を立てて戻って行った。
こちらの部屋には、再びアイとライトだけ。
大きく息を吸い込むライト。この部屋の酸素と言う酸素を全部持ってくんじゃね?ぐらいの勢い。
そして、いきなりのシャウト。天を仰ぎながら、長く尾を引く彼の叫び。
天井がバリバリっと破れて、木材がバラバラ降ってくるんじゃね!?てなぐらいの強烈なやつを一発お見舞いした。
そんな彼の姿に、アイが目を見開く。
(たしかに、音楽が趣味とは言ってた。言ってたけど!!ここまでとは!!)
アイの鼓動が加速していく。
ライトはスタンドマイクを握ったまま、テーブルに片足を乗せた。そして、そのまま、おもむろにテーブルの上を横切りアイの隣にやって来た。最短距離を行く男。テーブルに湯呑が乗っていようが、茶菓子が乗っていようが、そんなものはおかまいなしだ。それとなく避けたけど。
アイがリフを引き続ける。そして振り返った。そこには、いつの間に来たのか、ドラムセットやシンセサイザーがセットされていた。ベースを持った渋い男がベンベンと鳴らしている。
アイはギターの手を止め、ライトと共に後ろを振り返った。時代錯誤の長い髪をした、タンクトップ姿のドラマーがスティックを翻すや否や、激しい調子で叩き出した。
そして、ドラムの合図を皮切りに、アイがギターを掻き鳴らし始め、ライトは腹の底から歌い出した。
全開フルスロットル、アイのギターから、ライトの口の中から、燃え盛るファイヤーボールがぶっ飛びだして、庭木という庭木を全部焼き尽くすようだった。
激しいロックナンバーが和室に漂う静ひつな空気をぶっ壊し、和風庭園の情緒あふれる眺めにヘッドバットをくらわす。
ふたりが放出するサウンドは、壁を揺らし、空気を伝って、あちこちの部屋に伝播していった。
それぞれの部屋の中にあった、それぞれのカラー。寛ぎであったり、黒い渦のようであったり、はたまたマダラ模様のピンク色であったり……。
それらが一瞬にして、深く濃ゆい紫色のハードなロックンロールに塗り替えられたのだ!
皆が皆、思わず立ち上がり、障子の外に飛び出した。
気がつくと、部屋の前の縁側には人だかりができていた。
「なんだなんだ」
と廊下のあちこちから、同じようにお見合いに来ていた人たち、密会に来ていた訳ありカップル、談合に来ていたヤバい系の人たち、などが我を忘れて集結してきたのだ。
庭には、怖い系のスーツを着た男たちが百人。談合に来ていたヤバい系の人たちのお仲間であったり、ボディガードであったりした。
その向こう、はるか彼方のビルの一室にはゴルゴサーティーン的なスナイパー。人間離れした凄まじい集中力で照準を合わせたまま、まんじりともしない。太い眉が、ただ、ほんのわずかにピクリと動いた。
そして今。ゲリラライブ会場となった部屋を中心として、ざわめきの集合体は、やがてひとつの熱狂したかたまりへと変貌した。
アイはライトを見、ライトもまた、アイを見た。これは愛の歌だ。激しく叫ぶ心のサウンドだ。
お前の瞳の中の不思議な力が、見つめられたものに魔法をかけていく。火の玉のように、何もかもを燃やしながら駆け抜けていく!
やがて、曲が終わった。静寂はすぐに打ち破られる。割れんばかりの拍手喝采、口笛、歓声によって。
もはや、和風庭園のさらに向こう、長々と続く塀の向こうにも、なんだなんだと人ごみができていた。「音漏れ」を聴くために、コンサート会場の外に集まるファンのような光景だ。
原曲を知らないような若い世代も心を揺さぶられ、ドストライクの世代は感激に打ち震えた。まるで、フェスの一コマのようになっていた。
道路には、長々と車の渋滞。ライブが始まると間もなく、走行中の車が窓を開け、徐行を始めたためだった。
非常事態に、かけつけるパトカー、鳴り響くホイッスルに飛び交う無線。しかし、気が付くと警察官たちも職務を忘れてしまっていた。
無線の電源なんか切っちゃえ!エイ!てな勢い。
(次は何をやってくれるのか。やらかしちゃってくれるのか!!)
高まる期待が熱量を増し、上昇気流となって雲を呼び、突風を巻き起こした。
キャアッとめくれ上がるスカートに、伸びる鼻の下。
すっ飛ぶおっさんのヅラと、それを見てケンカをやめ笑い出すカップル。
アイとライトは頬を紅潮させて見詰め合った。バンドメンバーも満足そうに頷き合っている。アイとライトが連れてきたスタッフたちも表情を輝かせていた。
(次は何をやる?)
たぶん、これ以外のブラック・ナイトとかスモーク~のほうがCMとかトーク番組で使われて有名かも……と思うのですが、直感で降ってきたのがこの曲でした。




