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昭和二十一年 夏
熊本県・小国
上城家の七人兄弟の長女、麻生計佐治の妻、麻生イヨ。二十一歳。
故郷にて母と再会後、一度嫁に出た娘が実家へ足を踏み入れることは許さないという父の言葉を母から受け、母と共に夫の実家へと赴く。
冷淡かもしれないが、この時代、こういう考えがあるところはよくあったのだ。イヨは嫁いだ。それが、こういう形で表されていたことはイヨ自身からすれば少し寂しかったのだが、それでも麻生家の人間として、潔く嫁ぎ先の実家へと足を運んだ。それが父のいう事なのであればなおさら。
昭和二十二年
夫、計佐治がロシアのウラジオストックから帰還。それはまるで奇跡であった。ロシアに連れていかれて戻ってこれた者はほとんどいなかったのだ。神様が二人を再び引き合わせてくれたのは、二人の強い縁だろう。そう確信したイヨは涙を浮かべた。
抱き合う計佐治とイヨ。二人の感動の再会であった。それもそうなのだ。二人は夫婦なのだから。
「イヨ・・・。」
計佐治は今、イヨ子ではなく、イヨと呼んでくれた。
イヨはとても心を打たれ、涙があふれ、嗚咽した。
その後、これから始まる新しい人生の旅路のために、イミと計佐治の二人は、次なる第一歩を踏み出していった。
そう、常に『思い出』を出発点としながら。
完
戦時下の夫婦の話を楽しく書かせてもらいました。ありがとうございます!!ご感想などよろしければ頂ければ嬉しいです!!