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思い出  作者: 大隈健太郎
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 陸に上げられた日本人捕虜たち。

イヨと谷崎さんは一緒にロシア軍のトラックに乗った。

「イヨちゃん、もし奴らに何かされそうになったら、どうしよう?」

「わたし、リュックに果物ナイフ入れてあるんです。もしロシア人が何か乱暴なことしてきたら、ひと思いに死にます。」

「そうね、一緒に死のう。あなたとなら寂しくないわ。」

「でも、どこに連れていくんでしょうね?わたしたちを。」

 トラックの行き先はまだ分からなかったが、軍人もその家族も何台かの軍用トラックで整備された道を走っていく。


 イヨたちは、清津にある元小学校の校庭に連れてこられた。そこは今、仮日本人収容所になっていた。

 何列かに並ばされる日本人捕虜たち。

 初めて見る外人にイヨは驚いた。自分たちとは違う!

背がとても高く、色白で堀の深い顔立ちを皆していた。

これがロシア人?

その中でイヨはロシア人に、従軍看護婦だと思われていた。


 日本人たちはロシア人たちから丁重に扱われた。

彼らは何かと親切で、一応監視はされていたが、食事や服が与えられた。

 イヨは計佐治とは離されていたが、ある時、ほんの数分だけだが、小学校の渡り廊下で会うことを許された。

「イヨ子、俺は軍人だ。だからお前と違ってこれから日本人捕虜としてロシアに連れていかれるだろう。たぶん、会うのはこれが最後かもしれない。」

「そんな・・・。」

「生きろ。絶対に生きるんだ。そして日本へ帰れ。俺のことは案ずるな!」 

「はい!」

 二人は抱き合った。そして時間が来ると、ロシア兵に計佐治は連行されていった。それを見送るイヨ。途端に涙がぽろぽろとこぼれてきた。だが、どうすることもできなかった。イヨはその場で泣き崩れる。しかし、イヨの耳には計佐治の言葉が力強く残った。

 絶対に生きて日本へ帰ると。

 自分がこれからどうなるか分からないけれど、イヨは生きる決心をした。

 

 翌日、民間人であるイヨたち軍人の家族らは、すぐに釈放された。ただし、約一週間ロシア人憲兵による取り調べを受けるため、収容所である小学校へは通わなければならなかった。

 そんな時、一緒にいた谷崎さんは心強い友であった。

「イヨちゃん、こんな時わたしたち一緒で良かったね!」

「そうですね、谷崎さん。」

 

 憲兵のところへ通う間だけ、清津に在住している日本人家族の一軒家のところに谷崎さんと一緒にやっかいになった。

 その日の夜、夜中に突然ロシア兵二人が来て、イヨたちを探していた。尾けられたのだろう。日本人の家族が話に行って、その間にイヨと谷崎さんは便所に隠れた。息をひそめる二人。

 しかし、強引に家に入ってくるロシア兵たちに、ついに発見された。

怯える二人。

 恐ろしいことに、ロシア兵たちは手に手榴弾を持っていた。そしてもし抵抗すれば、その手榴弾を投げて爆発させると脅しているらしかった。

 イヨたちは両手を上げて便所から出てくる。

ロシア兵たちはイヨたちに水を飲めとか膝の上に座れなど、よく分からない命令をしてきたが、死にたくないので二人とも素直に従った。そうこうしているうちに、ロシア兵たちは引きあげていった。

 イヨたちは肝が縮む思いをした。彼らにしてみれば、ただの遊びみたいなもんだったんだろうと思った。この日はとても怖い夜だった。

 生きて日本に帰るには、まだまだ先が長そうだと思うイヨであった。

     


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