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思い出  作者: 大隈健太郎
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 清津 日本軍基地


一日がかりで旭日旗が掲げてある軍の基地へとやって来た。軍の関係者はほとんどが集まっている。数十人の軍人の家族が近くの高台にある深くて大きな防空壕へと連れていかれた。

「君らはそこに隠れているんだ。出てくるんじゃないぞ。」

 ロシアの参戦で、日本もこれからどうなるか分からなかった。

軍人たちは家族を防空壕に残し、基地へと戻っていった。イヨの夫もである。ロシア軍が来たらしい。計佐治も海軍の下士官なので、現場の指揮でも取るのであろう。


 数時間後、もう日が暮れて夜になっていた。突然、照明弾の音がして、防空壕の外がパッと明るくなった。

 イヨは怖いもの見たさを隠し切れずに、数人の人たちと外へ出た。

何が起こっているのか知りたかったのだ。

「危ないぞ!」

「戻りなさい!」

 そんな他の人の声を振り切り、広く見渡せる高台から身を乗り出すイヨ。

 すると、すごい数のロシア軍の戦闘機が北のほうから飛んでくるのが見えた。そしてイヨたちの頭の上の上空を日本軍の戦闘機がたくさん通過していく。

 基地の方から対空砲火が空に浴びせられた。それを爆撃していくロシア軍爆撃機。空では日露の戦闘機同士が空中戦を展開している。イヨはそれを夢中で見ていた。こんな光景初めて見た。まるで花火大会のように空に地上に弾幕の光がたくさん照らされていた。そしてこれが戦火であり、戦争なんだと思い、心が動揺していた。今までの日常というものがまるで嘘のように思えてきた。

 それから戦闘機同士による戦闘はすぐに終わって、ロシア軍機も日本の攻撃機も双方引き揚げていったが、イヨはふと思った。

 生きて帰れるだろうか?


 翌日、ロシア人の手に渡らないように、たくさんの武器を入れていた基地の弾薬庫が軍人によって爆破された。ズドーンという爆発音とともに火柱が天を貫くように舞い上がる。それは耳に残るほど激しい爆発であった。そして黒煙と共に、すごい焼ける音と火薬のにおいが立ちこめて、その場を片づけていた。


 その後、軍人とその家族の一行は海のほうへ向かった。そして近くの島へ渡ることになった。なんでも日本に帰るための長距離船が来るという話で、その乗船の手配をしたらしいのだ。

 船に乗って島まで向かう一行。

しかし、島に着くと、ロシア軍の偵察機に見つかってしまった。

「ロシアが来た!」

「女子供だけで山に登るんだ!早く逃げろ!」

 と、叫ぶ軍人たち。

 

 言われた通り女子供だけで小高い山の山頂を目指して走った。しかし、数時間もしないうちに山のてっぺんで銃を持ったロシア兵たちに取り囲まれて、結局逃げきれずにその場にいる全員が捕まり、捕虜となった。抵抗しても無駄であることは重々わかっていたので、みんなおとなしく山を下った。

 島のそばにはロシア軍のものであろう数十隻の大型軍艦がずらりと並べられていた。その光景の禍々しさなるや、とても不気味であった。捕虜は全てロシアの軍艦に乗せられて、朝鮮半島へと戻されていった。

 周りの都合で右へ左へ。考えてみればイヨはなぜ、今ここにこうしているんだろうと自分にささやきかけた。

 世界はややこしい。


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