5話 サッカーとハードトレーニング!
「素蓋さん、一緒にサッカーしませんか?」
ティフシーが朝一で部屋に飛び込んできた。
ちなみに朝の五時だ!
「オレはパス。まだ寝てたい」
「そんなこと言わないで一緒にやりましょうよー! 睡眠より運動の方が大事ですよ!」
「そんなことないよ!?」
本気で思ってそうだから困るぜ!
「そもそも、なんでサッカー? 筋肉鍛えてればいいじゃん」
「サッカーだってプリティマッスルに役に立ちますよ! ハードなスポーツなんですから!」
「嫌な予感がしてきたー! 絶対やらない!」
「やりましょう!」
「やらない!」
「やりましょうよー! 私と一緒にやりましょう? ね?」
「クッ……!」
「お願いします! 一緒にやってください! ね? いいですよね?」
別の意味に聞こえてきたぜ!
「じゃあ、ティフシーが『私とエッチしましょう!』って言ってくれたらやるぜ! あ、ちなみにエッチっていうのはフットボールの頭文字だから。別にいやらしい意味じゃないよ」
「あ、一緒にやってくれるんですね! じゃあ、『私と』」
とティフシーが言いかけた瞬間。
「フットボールの頭文字はエフよ?」
シュリカさんが微笑を浮かべながら、ドアのところに立っていた。
クッ……今日は一段と冷えた目をしてるぜ! こんなに暑苦しい世界なのに寒気を感じるほどだ!
ティフシーは首をかしげると、いい笑顔で言い直した。
「素蓋さん。私とエフしましょう!」
「……うん」
こうしてオレは早朝からティフシーたちとサッカーをすることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハッハッハ! よく集まってくれたな諸君。では、ルールを説明しよう!」
色黒のブラジル人ぽいマッチョが言った。
ここは天然芝の公園だ。コートは本物のスタジアムと同じくらい広い。
「初心者もいるかもしれないので、一から説明しよう。いまから行うのは『サッカー』という筋力トレーニングだ」
「筋トレ!? スポーツじゃないのか!?」
「ハッハッハ! どちらも大差ないさ!」
マッチョはニカっとオレにスマイルを向けてきた。
本当に大丈夫か? 朝から筋トレはいやだぞ。
「まず基本的なルールだが、サッカーは手を使ってはいけないのさ!」
そこから!?
「つまり、下半身を重点的に鍛えるトレーニングだ!」
やっぱりトレーニングって言ってる!
「次に特殊なルールだが、ゴール前にいる『キーパー』というポジションは、手を使っていいぞ! 腕を鍛えたい人にオススメだ!」
キーパーの選出方法そんなんでいいのか!?
チームの守護神、最重要ポジションだぞ!?
「最後に注意点だが、これは十一対十一のチーム戦だ。敵と味方がわからなくならないように、ちゃんと名前を把握しておくんだぞ?」
名前わからなくても、見た目でわかるだろ! 誰目線でしゃべってるんだコイツは!?
ちなみに、二十二人の内のほとんどは色違いのマッチョなので、見た目を覚える必要もない。
「では、チーム分けを始めるぞ!」
「オーッ!」
というわけで、グッパーをして、オレはティフシーと同じチームになった。
もう一人、高校生くらいの女の子も同じチームだ。
金髪のポニーテール。グリーンの瞳。まだあどけなさのある顔だけど、雰囲気は美人系だ。そして胸はティフシーよりデカい。
そんなポニーテールの子が、元気に手を挙げた。
「あのっ、これって罰ゲームとかないんですか? 勝った方にはご褒美で、負けた方には罰ゲームってしたら、みんな燃えると思うんですけど!」
勝つ気満々だーっ! なんだこのスポーツ大好きっ子は!
朝から罰ゲームなんてやりたくないぞ!?
「せっかくの休日なんだし、まったりやろうよ!」
『え、やる気ないの?』みたいな顔をされた。
この子、休日のサッカーにどんだけ本気なんだ!?
「ハッハッハ! 私はソフィアの案はいいと思うぞ!」
「私も賛成です!」
マッチョとティフシーが声をあげた。
仕方ない!
「ソフィア、罰ゲームってどんなことするんだ? あんまりハードなのはいやだよ」
「大丈夫、そんなにハードじゃないわ。たとえば、勝った人はご褒美に一時間トレーニングで、負けた人は勝った人のトレーニングをサポートをするのはどうかしら?」
「勝った方がトレーニングするの!?」
「当然でしょ!」
どんだけトレーニング好きなんだよ!
負けた方が楽そうだ……!
「ちなみに筋トレのサポートって、どんなことするんだ?」
「ええとね。例えば、腕立て伏せしてる人の背中に乗ったり、腹筋してる人の頭を押したり、スクワットしてる人の肩に体重をかけたりするの」
嫌がらせだろそれ!?
どう考えても勝者の方が罰ゲームだ!
「絶対に勝ちましょうねっ!」
「う、うん」
ソフィアはやる気満々の顔で、オレの手を握ってきた。小さくて可愛い手に、大理石のようにスベスベの肌。
しかし、めちゃくちゃ力が入ってる。
これは握手という名のプレッシャーだ。
仕方ない、ちょっと本気でやるか!
「キックオフ! ハッハッハ! まずは僕たちからさ!」
「へ?」
「フンヌァアアアアアアアアアアア!」
試合開始直後、マッチョがいきなりシュートを撃ってきた。
嫌な予感的中!
しかもボールはそのままネットに吸い込まれた。
「あーんっ! やられちゃったーっ!」
スフィアの声がちょっとエロい。
いいぞ、もっとシュート撃てマッチョたち!
「ねぇ、素蓋さん!」
「ん?」
スフィアが悔しそうにほっぺたを膨らませてる。
この子、負けず嫌いだーっ!
「ねぇ、素蓋さんも勝ちたいでしょう? いい作戦を思いついたの! 協力してくれないかしら?」
「うん、いいけど、どんな作戦?」
「ええとね。私がボールを持ったら、みんな私がシュートを撃つと思うでしょう? でも、私は素蓋さんにパスを出すわ! そしたら、素蓋さんがゴールの近くでシュートを撃つの! どうかしら!?」
「わー、すごいさくせんだね」
地球では常識である。
「あっ、でも……」
「ん、どうかした?」
「これって反則にならないかしら……」
「あとでさりげなくしんぱんにきいておこうかー?」
「本当!? ありがとうっ! けっこう頼りになるわね!」
スフィアは上機嫌で走って行った。オレにぱちっとウインクをしてくる。
めちゃくちゃかわいい。
でもアホだ!
マッチョたちのサッカーって、パスがトリッキーな戦術なのかよ!
まあ、とりあえず試合再開だ!
「ほいっ!」
オレは味方の色白マッチョに軽くパスを出した。
「ハッハッハ! こんどはこっちの番さッ!」
色白マッチョはいきなりシュートを撃つ。
「ふん!」
相手のブラジル人ぽいマッチョが軽々そのシュートを防いだ。
そして。
「イエスッッッッ! マイパワァアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
相手もすぐシュートを撃ってくる。
って、こいつら全力シュートしか撃たないのかよ! やっぱりサッカーじゃないだろコレ!
「アッ!」
その瞬間。
ブラジルマッチョの全力シュートが、レーザービームのような軌道でソフィアの顔へ向かっていった。
ソフィアは怯えた表情で立ちすくむ。
周囲のマッチョたちは息を飲み、蹴ったブラジルマッチョ本人は『やってしまった!』という顔になる。
「……まったく」
オレはソフィアの前に飛び出した。華麗な胸トラップでそのボールを受け止める。
「どいつもこいつも本気出しすぎだぜ!」
この世界に来る前に強化した言語能力で、やれやれ系主人公っぽいキメ台詞を言うと、マッチョたちが沈黙した。
そして。
「ワ、ワ、ワーオッッッッッ!? あのシュートを止めるなんてッッッッッ! なんて強靱な大胸筋を持ってるんだキミはッッ!」
「それに、ジャンプしたときの大腿四頭筋! すごいわっ! 彼はいったい一日何千回スクワットしてるのかしらっ!」
「さらに、彼はさりげなくソフィアを守っていたぞ! ボディだけじゃなく、ハートまでビューティフルマッスルじゃないかッ! まさに筋肉の中の男ッ! パーフェクトマッチョマンだッ!」
「素蓋さん! さすがです! カッコイイですよーっ!」
マッチョたちが次々に賞賛の声をあげ、ティフシーは黄色い声援を送ってくる。
ソフィアは顔を赤らめて、ぼーっとオレを見つめていた。
「ソフィア、反撃開始だな!」
オレはソフィアの前にボールを転がし、前方へダッシュした。
「え? あ、はいっ! お願いしますっ!」
ソフィアはポーンと前へボールを蹴った。
オレはそれをかかとで蹴り、ボールはディフェンスマッチョたちの頭上を越える。
さらに、スライディングしてきたマッチョを、クルッとターンして避けると、その遠心力を利用してシュートを撃った。
「ほいよっ!」
ボシュッ!
オレのシュートはマッチョの股の間を抜けて、ゴールネットに吸い込まれた。
「キャーっ! ファンタスティックマッスルですよ! 素蓋さん!」
「ノォオオオオッ! 彼はいったいどれだけの部位を鍛え上げているんだァアアアッ!」
「あんなふうに体を回転させるなんて! 内転筋までストロングよ! 一度でいいから彼のマッスルを触ってみたいわ!」
「相手チームにプロフェッショナルマッスルがいるなんて、想定外だぜボーイッ!」
ブラジルマッチョが気合の入った表情で、前に出てきた。
「ハッハッハ! こうなったら、全員のマッスルパワーでキミを止めるしかないなッ!」
「やれるもんならやってみな。オレを止められるのは、オレだけだぜ!」
オレは人生で一度はいいたいセリフ、スポーツ部門ナンバーワンを言って、自軍の陣地へ戻った。
そしてその後。
マッチョたちを圧倒したオレたちは、二時間で七十五対八というえげつない大差で勝利した。
試合終了のタイマーが鳴ると、ソフィアがオレの方へ駆け寄ってきた。
「あ、あのっ! 素蓋さんっ! よかったら、筋トレお手伝いしますよ!」
「え、いいよ別に。オレは筋トレしないから」
「そんなこと言わないで、鍛えましょうよ! お手伝いしますからー!」
そう言って、ソフィアはオレの背中に飛び乗ってきた。
「うぉおおおおおおっ!?」
汗でピッタリとしたティーシャツ同士が密着し、ヌルヌルでスベスベな感触が背中から首筋まで伝わってくる。
さらに、トランポリンだったら宇宙の彼方まで飛んでいけそうなほど、弾力のあるおっぱい!!!
二つの塊は柔らかく密着しながらも、オレの背中をグイグイ押してくる。
なんだこの元気っ子のおっぱいは! 弾力のあるモチかよ!
「まずはスクワットからですよ! その後はランニングと、腕立て伏せです!」
「うぉおおおおおおお! みなぎってきたぁああああああ!」
こうして、至高のおっぱいに興奮したオレは、ソフィアと足腰が立たなくなるまで、エッチ(ハードトレーニング)をすることになった。