19話 銭湯と遭遇!
「素蓋さん! シュリカさん! 大変です! お風呂が壊れてしまいましたー!」
夕方、ティフシーが一階のリビングに飛び込んできた。
今は閉店してお客さんもいない。シュリカさんは店の片付けの最中。オレはまったり夕食後のプロテインドリンクを飲んでたところだ。
「壊れたって、どんな風に?」
「こ、こんな風にです……」
そう言って、ティフシーは蛇口をひねるところのパーツを見せた。
まさかの壊れた(物理)!
「ティフシー、それ取っちゃったの!? どんなパワーでひねったの?」
「え、えへへ♪ 嬉しいですけど、私のパワーのせいじゃないと思いますよ? 触ったらポロっと取れちゃったんです」
怪力扱いされて喜んでる!
照れてるティフシーは可愛いけど、それどころじゃない。オレは今日汗べったべたなので、風呂入れないのは緊急事態だ。
「シュリカさん、いまから風呂の修理業者って呼べる?」
オーナーのシュリカさんはシェイカーを一つ一つ丁寧に拭いてる。妖艶な雰囲気の巨乳美女。こんなときでも落ち着いてるぜ。
「あるけど、この時間は呼べないわ。呼べるとしたら明日の朝一ね。修理屋のダックさんに、四時くらいに来てもらうわ」
「早いな!」
そんな早朝に来てくれるのに、夕方は駄目なのか。まだ六時くらいなのに。
「私は明日の朝入るけど、素蓋くんはどうする? 今夜入りたいなら、銭湯に行ってもいいわ」
「銭湯!?」
そんな日本っぽいものがこの世界にあるのか! 嬉しいぞ!
「銭湯行きたいな! オレってこう見えて、最強の銭湯民族なんだよね~」
「そう、じゃあ地図書いてあげるわ。明日一緒に入るのはナシね」
「ちょ!? 一緒に入る!? オレとシュリカさんが!? そんな話聞いてないけど!」
「ふふっ、明日の朝だったら、時間ないから二人で一緒に入ったけど。素蓋くんは銭湯行くんでしょ? 銭湯民族だものね」
「クッ……なんということだぁあああーっ!」
冗談だとわかっていても悔しい!
巨乳美女と一緒に風呂>>>>>>>>>銭湯
オレの中で銭湯の価値が急降下したぜ!
「素蓋さん、銭湯行くんですよね? 道わからなければ私が案内してあげますよ? 私はもうお風呂入っちゃいましたけど、一緒に行ってあげてもいいですからね? あと、タオルも用意してあげますからね。ちょっと待っててくださいね!」
「え、うん。ありがとティフシー」
なぜかティフシーは早口だ。
オレが銭湯行くのをこんなにサポートしてくれるなんて……。
風呂壊しちゃったから、責任感じてるのかもしれないなぁ~。
「じゃあ行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃ~い!」
こうして、オレはこの世界で初めて銭湯に行くことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「混浴はありますか!?」
オレは受付のお姉さんに確認してみた。
銭湯はログハウス風のお洒落な感じだ。グラマラスな美女もたくさんいる。
普通の混浴なんておばちゃんばっかりだけど、この銭湯なら若い美女も期待できる!
「ありませんよ? 銭湯をなんだと思ってるんですか? 遊び目的ならお帰りください」
「辛辣だな!」
銭湯ってこんなシビアなのか。ダメ元で聞いてみただけなのに、めっちゃ怒られた。
「銭湯は筋肉を癒やし、血行を促進し、肉体を艶やかにする場所です。つまり、大切なのは『湯の心』です」
受け付けのお姉さんは語り出した。
よく見ると美人だ。この世界ではレアな浴衣姿。顔は和風で銭湯によく似合ってる。毒舌だけど、声は穏やかで心温まる感じだ。
「最近、不埒な目的で銭湯に来る人が多くて困っています。筋肉を見せびらかしたい気持ちはわかりますが、銭湯は心と体を落ち着ける場所です」
「いや、オレは筋肉を見せびらかすつもりはないよ?」
ちゃんと心を落ち着けるつもりだ。下心だけど。美女と一緒に混浴できたら、心身ともに120%回復するはず。
「ふーん、そうですか? では、ごゆっくりくつろいでくださいね、素蓋さん?」
受付のお姉さんは会員カードの名前を見た。『名前を覚えたから悪いことはできないですよ?』という脅しみたいだ。
「それと、もしも不埒な行為を見かけたら、私--セリナに教えてくださいね。犯人を女湯に沈めますので」
「お、オーケー……」
ご褒美なのか罰なのかわからないな……。と思ったけど、黙っておいた。これ以上目をつけられたらアウトだ。
オレは大人しく風呂に向かう。
そして。
「な、なんだこの行列! めっちゃ混んでるじゃん!」
男湯に入った瞬間、マッチョたちが一列に並んでた。格闘漫画のフィギュアコレクションみたいな光景だ。こんなに混んでたら、いつ風呂に入れるかわからない。
後ろにいたオッサンに聞いてみる。
「オッサン常連の人? これってどれくらい待つの?」
「ハッハッハ! 私は毎日通ってるよ! ここのサウナは最高にホットだからね! 君もここのサウナが目当てかい? いまなら三時間待ちさッ!」
「USAのハリポタのアトラクションか!」
サウナ大人気だな! 蒸し暑い密室でマッチョたちと一緒なんて、ただの地獄だぞ。
「てことは、普通の風呂はそっちの列?」
「いや、そっちは水風呂さ! みんな先に水風呂の整理券を取ってからサウナに並ぶのさ! この方法がオススメだぞ!」
「ディステニーアイランドの通っぽく言われても!」
整理券まであるのか。もう銭湯じゃなくてサウナ行けばいいのに。
でも、普通の風呂はスムーズに入れそうだな。よかったぜ!
オレはサウナと水風呂をスルーして、体を洗った。この世界では関係ないかもしれないけど、日本人としてのマナーだ。
そしていよいよ、銭湯に突撃!
「おぉ~! 生き返……アッツ! めちゃくちゃ熱い!」
やけどする一歩手前だ。何度に設定してるんだこれ!?
「ヘイ、ボーイ! こんな温度で怯んでたらダメさッ!」
先に入ってたマッチョが声をかけてきた。なんかやたら声がデカい。体もデカい。
「んなこと言われても、これ相当熱いぞ?」
「甘いなボーイ! 気合いで入るのさッ! 温度なんて関係ない! 大事なのは気持ち! ハート! 情熱! 熱い気持ちをぶつけるのさッッ! キミならやれるッ! さぁ、湯船に飛び込むんだッッッッ! レッツトライッッッッ! カモーンッッッッ!!!」
「お前が犯人だろ!」
このオッサン熱すぎるだろ! 温度上げてるのコイツだろ!
「まあ、ゆっくりならなんとか入れるかな……」
オレは足先からゆっくり湯船に入った。体がじんわり温まる。
「お、おぉ~! これはいいな!」
湯は緑茶みたいな色で、なんとなく体がほぐれる気がする。疲労回復みたいな効能があるのかもしれない。
「そうだろうボーイ! この風呂には薬草が入ってるのさ! ちなみに、奥の風呂には別の薬草が入ってるらしいぞ!」
「へぇ、そうなんだ。そっちも入ってみようかな~」
「そこをまっすぐ行って突き当たりを右に曲がって岩を越えて左から三番目の湯は特にオススメさ! 眺めも最高だぞ~!」
「道複雑だな……。でもサンキュー! 行ってみるよ」
「いいってことさ! 銭湯をエンジョイしてくれ!」
オレはオッサンの言った通りに、奥の方へ進んでみた。
まっすぐ行って右に曲がって……岩を越えて…………岩?
目印の岩が見当たらないけど、とりあえず適当に進んでみる。
そして、オーシャンブルーの風呂を見つけた。
見たことない綺麗な色だ。
「おぉ! これはすごいな!」
さっそく入る。
シュワシュワして炭酸っぽい。
適度に温かくて、湯は肌に優しい感じがする。
「こんな穴場スポットを見つけられるなんて、ラッキーだな~!」
誰もいないし、秘湯みたいだ。極楽だぜ!
と思ったそのとき。
「キャーッ! 誰かっ! 誰か助けてっ!」
「えっ?」
竹でできた柵の向こう側から、女の子の悲鳴が聞こえた。何かあったみたいだ。
「誰かいないの!? お願い! 誰かーっ!」
向こうは女湯だ。オレは助けにいけない。
「どうしたんですかー! 大丈夫?」
声をかけてみた。
ひょっとしたら、誰かがのぼせて倒れてるのかもしれない。心配だ。
「あっ、人がいるのね! お願い、こっちに来てくれないかしら!」
「えっ、でもそっち女湯だよね!?」
「緊急事態なの! お願いっ!」
「いや、さすがにマズいって! 店の人呼んでくるから!」
「それじゃ間に合わないかもしれないわっ!」
なかなか引き下がらない。よっぽど緊急事態みたいだ。
仕方ない……。
「わ、わかった。じゃあそっち行くけど……本当にオッケー?」
「大丈夫よ。私は目をつぶってるわ」
それより、ちゃんとタオルで隠してるかどうかが気になるけど……エロいこととか考えてる場合じゃないな。
「じゃあ行くよ」
「うん、ありがとうございますっ」
オレは湯船から出て、竹の柵に向かってダッシュした。
高さは三メートルくらい。
普通は上れない作りになってるけど、オレの技術を駆使すればギリギリ届く!
「おりゃっ」
オレはジャンプして柵のてっぺんを掴み、ジャッ◯ーチェンみたいなアクションで、華麗に柵を飛び越えた。
そのまま反対側の女湯に着地! と思ったら……
ドボンッ!
湯の中にダイブしてしまった。
柵のすぐ近くが湯船だったみたいだ。
「ぷはっ!」
湯船から顔を出すと、美女が同じ湯船に入ってた。
全裸だ。
目を隠してるけど、他のところがけっこう見えてる。
よりによって、湯の色が透明なので、隠してない下が丸見えだ。
一番見えたらいけないところが肌色。
ってことは……。
いや、何考えてるんだオレは! それどころじゃないぞ!
「大丈夫? 助けに来たけど…………って、あれ? 君は……」
よく見ると、目の前にいる美女は、受付にいたセリナだった。和風っぽい髪のまとめ方。整った小顔。さっき見たばっかりだ。服を着てなくてもわかる。
あの毒舌美女がなぜ風呂に……?
「あの、実は私は従業員なんです。お風呂の見回りに来たんですけれど……」
セリナは目を隠してるので、相手がオレだと気づいてないみたいだ。
これ、オレだってバレたらどうなるんだ……? また怒られる気がするぞ……。
「それで、何があったんだ?」
「あの、そこにサルがいるんです……。怖くてお風呂に飛び込んだんですけど、サルが出て行ってくれなくて……」
「サル?」
たしかに、よく見ると桶のところにサルがいた。
銭湯に似合ってて、気づかなかった。こいつ野生のサルだったのか。
「おっけー、オレが追い払うよ」
「いえ、危険ですので……ムリしないでください」
「大丈夫、なんとかするよ」
オレは湯船から出て、全裸でサルと向き合った。
本気出さないとな……。
相手は野生動物だ。
身体能力は人間の比じゃない。
おまけにこいつらは、飛びかかってくる。
テレビで見たことあるけど、二~三メートルくらいジャンプして、噛みついてくるのだ。
スピード、俊敏性、凶暴性。どれをとっても犬より手強い。ヘタすると一瞬で大けがしてしまう。
オレはゆっくり近づいた。
「ギシャァアアアアアアアアアッッッッ!」
サルは牙を剥きだして飛びかかってきた。
すごい迫力。映画のプレデターみたいだ。
でも、オレの目にはサルの動きが止まって見える。
「よっと」
オレはサルをよけて、後ろから首を掴んだ。
そのまま風呂の外へポイっと投げる。
「……」
サルは何が起きたかわからないみたいな顔で、柵の向こうへ飛んでいった。
ガサッと音がしたので、木に掴まったんだろう。怪我はしてないはずだ。
何事もなく済んでよかったぜ!
「追い払ったよ~」
と、振り返ると、セリナは目をまん丸くしていた。
ガン見してる。
「えっ、ちょ!?」
美女に全裸を見られた件。
「あっ……あの! すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません!」
セリナは顔を真っ赤にして、後ろを向いた。
顔を両手で隠してるけど、いまさら遅い。
「本当にごめんなさい! 声に驚いてつい見ちゃったんです! 私のせいで大けがさせちゃったんじゃないかと思って……」
まあ、サルの叫び声は狂暴だったからな……。驚いてつい見てしまうのも無理はない。
「大丈夫、気にしなくていいよ。セリナ怪我はない?」
「は、はい……ありがとうございます。素蓋さん、すごい方なんですね。まさか飛びかかってきたサルに対応できるなんて……」
「まあ、鍛えてるからね~」
技術を使いまくってるので、オレの体も少し筋肉がついてきた。筋トレはしてないけど、鍛えてるというのはウソじゃない。
「本当に素敵でした! 勇気があって、筋肉もかっこよくて……って、ごめんなさい! 今のはそういう意味じゃないんです!」
一人でテンパるセリナ。最初に見たときのツンツンキャラとのギャップがかわいい。
「大丈夫だよ。オレはそろそろ男子風呂に戻」
と言いかけたそのとき。
「ねぇ、こっちですごい声したよね! 野生のサルかな?」
「ええ、大丈夫かしら? 人の声も聞こえた気がするけど……」
「怖いわぁ……。サルだったらどうしよう」
!!!!!!!
若い女の声がこっちに近づいてくる。
「や、ヤバイ……」
「素蓋さん、こっちへ来てください! 私がごまかします!」
「わ、わかった」
オレは湯船に入って、セリナの後ろに隠れた。
「もっと近づいてください」
「って言われてもな……」
セリナはピッタリ背中をくっつけてきた。
まさかの全裸混浴。しかも密着。
後ろに全裸のセリナがいると思うと、下半身が危険だ。
理性を保てオレ!
「素蓋さん……小さくなってください!」
「いや、小さいよ!? 大きくなってないよ!?」
「何を言ってるんですか? もっと体を小さくしてください!」
「あ、体のことね。オッケー」
隠れろって意味か。下半身のことかと思ったぞ。
「絶対に出したらダメですからね?」
手足のことね! 主語言って! 別の意味に聞こえるから!
「勝手に動いたらダメですよ……?」
火照った声で言わないで! 痴女っぽく聞こえるから!
「あっ……いきますっ……いきそうですっ……」
女性客がね!? 主語大事! ホント大事!
「素蓋さんっ……ああっ……素蓋さんっ……またっ……ああんっ」
うぉおおおおおおおおおおおおおおい! わざとやってるだろ!?
その後、女性客が次々とオレたちの方へ来たせいで、オレはしばらく理性と戦うことになった。
短編のつもりで書いてたTSモノが3万字超えてしまいました。
それでマッスルちょっとスローペースになってます。スミマセン!
今回は感想もらえたので、一話追加で書いてみました(テーマと時間さえあれば1日1話書けるんです)
別の短編とか連載も投下すると思いますが、萌えコメディで別の連載を始めるまでは、マッスルも継続していきます。
エタることはないので、ご安心ください。
よかったら今後もお付き合いおよろしく願いします(*- -)(*_ _)




