17話 入れ替わりとドッジボール!
「ん……? 朝かな?」
目が覚めると、知らない部屋にいた。ベッドはいつもより一回り小さい。布団はピンクで可愛らしい感じだ。
しかもこの布団。めちゃくちゃいい匂いがする!
ラベンダーみたいな癒やし系の葉の香りと、フルーツみたいな爽やかな香り。その二つをほんのり太陽光で温めたような、元気いっぱいの癒やし系フレイバーだ!
どこかでかいだことがある気がする。
「とりあえず起きるか~!」
と、体を起こしたとき。
オレは三つの異変に気づいた。
◯その1.声が女の子っぽい。
人気女性声優みたいな可愛い声になってる。しかも、それが自分の声として頭の中に響いてくる。ヘッドフォンで耳元に囁かれてる以上の強烈なインパクト!
「えっ!? 何コレ!? かわいっ!!」
思わず叫んだ声もめちゃくちゃ可愛い。なんだこれ!? 声優デビューできるんじゃないか!?
◯その2.体が小さくなってる。
手足が細くて色白だ。いつもの骨張った武道の達人みたいな体から、一夜にして生まれ変わってる。CMのオファー来るんじゃない? ってくらい肌が綺麗だ。もはや異次元のきめ細かさ&潤い。神に愛された肌だ。
◯その3.おっぱいがある。
ぽよんとした丸い膨らみがある。明らかに女子のおっぱいだ。しかも、寝間着の首元から谷間が見える。さっきの異次元の肌との組み合わせで、もはや神聖な感じすらする。奇跡のおっぱいだ。
「や、やばい……! 下を見るとおっぱいがあるだと!?」
おそるおそる触ってみる。
「お、おぉ……っ!!!」
めちゃくちゃ柔らかい。そして、触られてる感触もマッサージを受けてるみたいに気持ちいい。
敏感な体質なのか!?
「クッ……これは、やばいっ! ウッ!」
思わず声が漏れる。その声もめちゃくちゃ可愛い。なんだコレ!? どうなってるんだ!?
「素蓋さんっ! 大変ですっ!」
ボカーンッ!
と、ロケットのような勢いで、ドアから人が飛び込んできた。
オレだ。
オレの目の前にいるのは、オレだ。
ってことはまさか!
やっぱりこれは!
「君の名は!?」
「私はティフシーですっっ!」
や、やっぱりそうか! 体が入れ替わってる!
オレはティフシーになってるんだ!
「ティフシー! オレは素蓋だ! オレとティフシーの体が入れ替わってるっ!」
「はいっ! で、でも安心してくださいね? 私は素蓋さんの筋肉を触ったりはしてませんからっ!」
「それはどうでもいいよ!?」
ティフシーのおっぱいに比べたら、オレの筋肉なんて、グラム三十円の価値もないだろう。ティフシーが触りたいなら、いくらでも触ってくれて構わない。
それにしても。
「なんで突然入れ替わったんだろう? 元に戻れるのかな、コレ」
「大丈夫です。たぶん元に戻れますよ! これは『オーバーワーク』です!」
「オーバーワーク?」
それっぽい単語がでてきた。この世界ではよくおこる現象なのか?
「はいっ! 簡単に言うと『筋トレのしすぎ』です!」
「筋トレの効果すごいなっ!!!」
どんな効果だ!? 筋トレでこのレベルの超常現象起こせるなら、一歩間違えたら筋トレで世界救えそうだ!
「昨日、私と素蓋さんで一緒に筋トレしたじゃないですか? それが原因ですよ!」
「たしかにティフシーの特訓とかで、一緒に筋トレしたけどさ。筋トレで体が入れ替わるなんて、ありえるのか?」
「たま~にありますよ! 筋肉痛が痛すぎて、近くにいる人と入れ替わっちゃうんです」
「なるほど、体の痛みに耐えかねて、魂が抜け出すのか。その理屈なら納得」
なわけあるかーっ!
ってツッコミたいけど、話が進まないので黙っておこう。
もう受け入れる。
オレにとってはある意味ラッキーなイベントだしな~!
「筋肉痛が原因ってことは、これってしばらくすれば元に戻るの?」
「はい、適度に運動して、血行をよくして、ゆっくり休んでいれば戻りますよ!」
「そっか。じゃあ今日は家でのんびりしよう」
元に戻れるなら安心だ。オレはこのままでもいいけど、ティフシーがオレの姿になってるのは違和感があるからな~。
「あの……実は今日、素蓋さんにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい! 実は私、幼稚園の頃からずっと皆勤賞なんです。なので、できれば素蓋さんに」
「ま、まさか……!」
「私の姿で、学校に行ってほしいんです!」
「な、なんだってーっっっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ということで、ティフシーの通ってる女子校にきた。
ちなみにこの世界の学校は『スポーツジム』だ。なので、ティフシーの通ってる学校は女子専用の『ガールズジム』ということになる。
「ぜ、絶景だ! 女子ばっかりだ!」
ジムの敷地内は、元気な感じの女子中学生でいっぱいだった。校庭で朝練をしてる子もいる。
眩しい! 眩しすぎるぜ!
半袖短パンのトレーニングウェアから素肌が見える。しなやかな体と、汗で輝く綺麗な肌。どこを見てもキラキラ輝いてる。
「ティフシーッ! おっはよーっ!」
「お、おはよー!」
金髪ショートヘアの子が近づいてきた。顔は丸っこくて小さい。人形みたいな感じだ。ティフシーと同級生みたいだけど、童顔でロリっぽい。そして、おっぱいはけっこう大きい。
「ティフシー、今日のテストの準備してきた?」
「えっ、テスト!? そんなのあったっけ!?」
ティフシーからなにも聞いてない。オレはこの世界ではそれなりに頭いいと思うけど、マッチョたちの筋肉に関するテストは苦手だ。筋肉の名前とか一つも知らない。ヘタするとティフシーに赤点を取らせてしまうかもしれない。
「ドッジボールのテストだよ! ティフシー、準備してないフリして、実はやってきてるんでしょ~? 頑張り屋さんだもんね~!」
「え、ま……まあね~?」
テストって、実技テストか! それならティフシーから聞いてた。昨日、オレはティフシーに特訓という名の筋トレに付き合わされて、腕立て伏せとかしまくっていたのだ。
「朝一でテストやるみたいだから、早く行こう!」
「う、うん!」
オレはティフシーのロリ系の友達と一緒に、芝生の校庭に行った。
ちなみに、この子はリルカというらしい。他の子がそう呼んでた。さりげなく名前が聞けてよかったぜ。
「では、いまからA組とC組でドッジボール対決をしてもらいます! 勝った方は成績A判定です!」
「おぉっ!」
これは責任重大だな。ティフシーのために頑張っておかないと!
「そして、負けたクラスは成績F判定になります。がんばってくださいね」
「落差が激しいな!」
勝者と敗者の扱いが極端すぎる! たった一回の勝負でAかFって! 人生をかけたギャンブルか!?
「ティフシー、がんばろうね! 私たちのクラスはいつも『ファイン(いいね!)』だもん。今日こそ『アンビリーバボー(信じられない!)』が欲しいもんね!」
意外と大差なかった!
生徒の成績に『アンビリーバボー』はどうかと思うけど、どっちも褒め言葉だ!
「オッケー。がんばろう、リルカ! オレ……じゃなくて、私も本気出すよ!」
「うんっ! グッドラック! ティフシー!」
オレはリルカとパンッと両手を合わせた。女子のハイタッチだ。
リルカのおっぱいが目の前でプルンッと揺れる。
お、おぉ……無邪気な童顔と巨乳のコンビネーション、エロかわいいな!
友達同士ならではの光景だ。ティフシーの体になってから、ラッキーイベントだらけだ。ティフシーは毎日こんなキラキラした世界を見てるのか! 女子中学生、羨ましいぞ!
「では、両チーム整列してください」
「「「「「「はーい!」」」」」
みんな一斉にコートの左右に並んだ。ティフシーのクラスはみんな普通の女子中学生って感じだ。一瞬、マッチョの世界にいることを忘れそうになる。
しかし。
「みんな! C組はマッチョな子が多いから気をつけてね! 向こうのエースは真ん中にいるミレンダだからね!」
「ミレンダ?」
相手チームの方を見ると、一人ずば抜けてデカい子がいた。身長二メートル以上! 体格もがっちりしていて、顔もゴツい。明らかに一人だけ、戦闘力がずば抜けてる。
なんだあの規格外の女子は!?
「ミレンダはね、マッスルに柔軟性があるの! 長座体前屈でいつもトップなの。みんな気をつけてね!」
「気をつけるポイントそこ!?」
長座体前屈で一位になってる理由は、たぶん身長だと思うぞ!? あれは柔軟性とか以前に、背が高い方が有利なんだ。
「あと、右端のフレアもすごいマッスルを持ってるわ。C組の二番手ね」
「フレア?」
右端を見ると、身長百七十センチくらいの子がいた。髪は黒髪のショート。女子バレーの選手みたいで可愛い。この子も女子中学生としては規格外だけど、ミレンダに比べると普通に見える。
「フレアはベンチプレス百キロ上げられるらしいわ! 百メートル走は十四秒だって。それと垂直跳びで1メートル180センチ飛べるの」
「ミレンダよりすごいっ!」
なんだそのエリートアスリートは!? 運動能力の塊じゃないか!?
「あと、これは内緒にしてって言われたんだけどね……フレアはきゃりーぽむぽむの曲を振りつきで歌うのが趣味らしいわ」
「可愛い! けど関係ない!」
内緒なのになんでバラしたんだ!? このタイミングで言う必要なかっただろ!
「そして一番左のリリスだけど、あの子も要注意ね。C組で三番目に強いの」
「リリスって、あの美人な子?」
巻き髪のお嬢様っぽい感じの子だった。鼻が高くて、プライドが高そうな感じ。美人系だ。この世界には珍しい上品な雰囲気。
「リリスは三歳からバレエを習ってるの。家がお金持ちで、顔が可愛くて、スタイルも抜群。髪型もクルクルしてて可愛いくて……羨ましいわ」
「あれ、リルカ、注意点は?」
ほとんどリルカの主観だった。リリスは体格は普通だし、そんなにスポーツできそうな雰囲気もない。規格外のミレンダとフレアに比べたら、なんとかなりそうな感じだ。
「油断しちゃダメよ。リリスもきゃりーぽむぽむの振り付けを完璧に踊れるんだから」
「きゃりぽむ大人気だな!」
ドッジボール関係ない。
リルカの解説、三割くらいしか役に立たなかった気がするぞ。
「では、A組もC組も、みなさん準備はいいですね? 試合開始ですっ! ディップオフッ!」
「それバスケの合図じゃない?」
というツッコミはさておき、試合スタートだ。
ジャンプボールで、身長二メートル以上のミレンダがボールを奪った。
まあ、予想通りだ。あの子とジャンプボールをしたら、元の姿のオレでもたぶん負ける。
「いくわよっ! 私のしなやかなマッスルから繰り出される繊細なボール! 避けられるものなら避けてみなさい! まずはティフシーッ!」
「えぇえええ! なぜ!?」
ミレンダはオレをロックオンすると、巨人のような腕を振り回し、ボールを力任せに投げた。
ボールはでたらめな方向に飛び、他の女子たちにヒットする。
「きゃーっ!」
「あーん! もーうっ!」
「アウチッ! やられたわあのクソビッチ!」
最後にガラの悪い子がいた気がするけど、それはスルーしておこう。
とにかくミレンダは一投で三人を仕留めてしまった。とてつもないパワーだ。
「繊細さは!?」
オレを狙ってたはずなのに、関係ない三人に当たってるぞ。完全に見た目通りのパワー型じゃないか。
「フッ、敵をあざむくのも作戦の内よ?」
といいながら、ミレンダは手を振ってフォームを確認してる。
狙い外しただけだーっ! 素直に認めればいいのに!
「さぁ、次は私の番ね」
相手チームのフレアにボールが渡った。可愛い子だけど、こう見えてバーベル百キロ持ち上げるパワーの持ち主だ。油断はできない。
「私、球技は得意じゃないんだけどね。こんな感じかしら?」
そういってフレアが振りかぶった瞬間。
フレアの手からボールが消えた。
ズバシュッッッッッッッッッッッッ!
校庭の芝生が抉れて、ボールが土にめり込んでる。
おい、ちょっと待て。
「ナニコレェエエエエエエエエエエエエエ!」
バーベル百キロとかいう次元じゃないぞ!?
インフレしたスポーツ漫画でしか見たことない穴が空いてる!
「ちょっと狙いが逸れちゃったわ。次はちゃんと狙うわね」
「人に当てない方がいいと思うよ!?」
あんなのに当たったら、腹にドーナツみたいな穴が空くぞ!
「そうよ、フレア。ティフシーの言うとおりだわ。フレアには繊細さが足りないのよ」
と丸太のような腕を組むミレンダ。
キミはちょっと静かにしててくれる?
「フフッ。二人とも騒がしいですわね。いよいよ真打ち登場ですわ」
お嬢様っぽいリリスがボールを持った。さっきからずっと相手のターンだ。
たしか、リリスはバレエを習ってたんだっけ? 前の二人に比べたらぱっとしない。でも、そこそこ運動神経はよさそうだ。油断しないようにしよう。
「私の球に当たりたい人はいるかしら? もしもいたら、特別に狙ってさしあげましてよ?」
高飛車な口調のリリス。可愛いけど、性格に難アリだ。この子、エロゲだったら、付き合ってからデレデレになるタイプだなきっと。
「誰もいないようですわね。そうしましたら、私の独断と偏見で狙ってさしあげましょう」
そう言うと、リリスはバレリーナのようにクルクルその場で回り始めた。
床屋の前にあるクルクル回るやつより速い。
「え、狙えるの? その状態で狙えるの?」
リリスの回転はどんどん加速していく。
そろそろフィギュアスケートの織田◯成に匹敵する回転数だ。
この子もすごいな!
「では、私の一存で……リルカさん。ご退場させてあげましょう」
「えっ! 私!?」
リルカが驚いた顔になる。そういえば、さっきリリスのこと可愛いとか羨ましいとか言ってたな。聞かれてたんじゃないか?
「フフッ、ご容赦くださいませっ」
バシッ!
リリスが投げたボールは、完璧なコントロールでリルカにヒットした。
リルカは一瞬キャッチしたが、ボールに回転がかかっていたので、地面に落としてしまう。
「あっ、やられちゃった! ごめんね、ティフシー」
「どんまい! リルカ」
リルカがコートから出る。
気づくと、残るはオレ一人だ。
「うーん、いけるかなコレ」
外野からは「がんばれティフシー」コールが巻き起こっている。
そういえば、オレの技術って、ティフシーの体になっても使えるのかな?
オレの『魂』の力だから、たぶん体が入れ替わっても使えると思うけど……。
「よし、やってみるか!」
オレはボールを広い、まずはミレンダを狙う。
「ほいっ」
ボンッ!
オレが投げた球は、完璧なコントロールでミレンダのひざに当たった。
「オーマイガッッッ! アンラッキーだわ! もう。帰りにカラオケできゃり……ラッドウィンプスでも熱唱してストレス発散するわ!」
きゃりーぽむぽむ歌うんだな。相手チーム全員きゃりぽむファンか。まぁ、ラッド熱唱する女子中学生の方が珍しいけど。
「ナイス、ティフシー! もう一回ボールあげる! がんばって!」
「オッケー!」
その後。
オレは30分ほどの攻防を繰り広げ、ついに1対1まで持ち込んだ。
相手は残り一人。
スポーツ万能の美少女。というか、人間兵器に近いフレア。
ここまでフレアはオレのボールを全部キャッチしてる。
そして、オレはフレアのボールを一度もキャッチしていない。避けるので精一杯だ。もしもキャッチしたら、ティフシーの体にドーナツみたいな穴が空いてしまう。
「ティフシー! 残りワンチャンス! がんばって~!」
リルカが応援してくれる。リルカは童顔のわりに、けっこう投げるのが強い。
よし、いいこと思いついたぞ。
「リルカ。ちょっと強めにパスちょうだい」
「強めに? いいけど。……ハイっ!」
外野のリルカから、強めのパスが飛んでくる。
授業の残り時間は五分。このまま普通にやってたら引き分けで終わってしまうだろう。
ティフシーの体で強い球は投げられない。オレの技術を駆使しても、変化球を投げるので精一杯だ。
そして、フレアは運動神経抜群なので、スピードのない変化球はぜんぶキャッチしてしまう。
となればもう、意表をつくしかない。
「えいっ!」
オレはリルカからもらったボールを、手のひらで弾いた。
ボールは変なタイミングで、フレアに向かって飛んでいく。
「えっ! ちょっ」
フレアは動けずに、ボールを取り損ねた。
指先で弾いたボールが地面に落ちる。
「わぁああああああああ! ティフシー! ナイスマッスルーっ!」
「すごい! ミラクルマッチョだよーっ! 一人で全員倒しちゃった! 信じられない!」
「ナイスティフシー! 可愛いよーっ!」
「私たちのクラスで始めてのA評価よーっ! アンビリーバボー!」
「ふぅ、勝てた~」
女子相手に本気を出してしまった。けど、ティフシーの成績がアップしてよかった。体を借りたんだから、これくらいはしてあげないとな!
「ティフシー! さすが私の親友だよ!」
リルカがジャンプして、オレに抱きついてきた。
「ちょ、リルカ!?」
リルカのポヨンポヨンのおっぱいが、ティフシーの敏感おっぱいに押しつけられる。
癒やされるような、気持ちいいような、新体験!
汗でしっとりしたトレーニングウェア同士がピッタリとはりついて、リルカの肌の柔らかさやぬくもりが、そのまま伝わってくる。
こ、これはヤバイ! 魂が抜けそうだーっ!
「ねぇ、ティフシー!」
リルカがオレを見上げた。
運動後なので、火照った顔が可愛い。
「次の授業まであんまり時間ないから、一緒にシャワー浴びよっか?」
「え!!!」
「いつもシャワー室埋まっちゃうでしょ? 一緒に入れば早く終わるよ!」
「そ、それは……!」
最高だけど! たぶんあとでティフシーにバレる!
オレは『今日はシャワー浴びないから、また今度ね~』と爽やかな笑顔で断ったが、残りの授業、リルカとのシャワーという天国を想像しながら悶々と過ごした。




