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16話 花見と桜餅



素蓋(すぶた)さん! お願いがありますっ!」


 朝、俺の部屋に飛び込んできたティフシーが、ベッドに手をついて、プチ土下座みたいなポーズをとった。


 ちなみに、ティフシーの服装はいつものワンピースだ。


 胸元が広がって、わずかに谷間が見える。


 お、おぉ……朝一でこんな光景を見れるなんて、最高だぜ!


 あの神秘的な谷間の暗闇に手を入れたい!


「ティフシー、お願いって何?」


「あの、できたらでいいんですけど、お花見の席をとって欲しいんです!」


 へぇ、この世界の住人も花見とかするんだ。てっきり体を動かすことしかしないと思ってたのに。花を楽しむなんて、意外と繊細な感性も持ってるんだな。


「いいよ。それくらいなら余裕で引き受けるよ~。場所はどこ?」


「ありがとうございます! 場所は侍公園というところなんです。あとで地図を渡しますね」


 侍公園?


 なんか古風な名前だな。そもそもこのマッチョだらけの世界に侍なんて文化があるのか?


 ちょっと興味が出てきた。


「ティフシー。オレはその侍公園にブルーシート敷いておけばいいの?」


「はいっ! お願いします! あっ、あとダンベルもお渡ししておきますね」


「なぜダンベル!?」


「だって、ブルーシートを止めるのに必要だからですよ! 二十キロの四つ、素蓋さんのリュックの中に入れておきますね」


「どんな強風が吹く前提なんだ!?」


 リュックにダンベル4つって、新手のイジメか! 適当な石で十分だーっ! この地域、ほとんど風なんて吹かないし!



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おぉ~! 桜はめちゃくちゃ綺麗だなぁ!」


 侍公園に着くと、桜っぽい木が公園のそこら中に生えていた。


 色は水色や黄色など、一本一本違う。珍しくて新鮮だけど。


「でも、やっぱり日本人としては、ピンクがいいな~」


 そう言いながら、オレは公園内を進んだ。すでに席を取ってる人が多く、そこら中にブルーシートが敷いてあり、四隅にはダンベルや鉄アレイが置いてある。


 ちなみに園内の風は、微風だ。扇風機でいったら『このボタン必要?』というレベルの微弱だ。


 ダンベルの必要まったくないな! やっぱり持ってこなくてよかった!


「オーマイガーッッッッ! なんてこったぁああああああ!」


 図太い男の悲鳴がきこえて、オレは思わず振り向いた。声のした方へ向かう。


「なんだ、アレ?」


 大勢のマッチョたちや美女たちが、一人の人物を囲んでいた。


 よく見えないけど、その人物は桜の木の下にいる。


 っていうか。


「桜すごいなっ!!! なんだこれ!!」


 人混みができている桜の木は、園内でダントツで大きい。他の桜の木を十本束ねたくらいの太さだ。そして色はピンク! いや、日本人なら桜色というべきか!


「あのさ、あの木の下って場所取ってもいいの?」


 オレは人混みの後ろの方にいた女の子に話しかけてみた。


 金髪にピンク色の瞳。エロゲに出てきそうな子だ。何人かいるヒロインの内のハーフ美少女枠。


 ゲームの世界ではそんなに好きじゃなかったけど、実際に目の前にいると、金髪もピンク色の目も神秘的で、めちゃくちゃ可愛い。


 これでカタコトな日本語を話してくれたら完璧だぜ!


「あのサクラの木の下は、サムライが守ってるんですよ! 毎年何人もサムライに挑戦してるんですけど、だれも勝てないんです!」


 思ったより流暢だけど、ちょっとだけ発音にクセがある。舌っ足らずな感じで可愛い。


「侍になにかの勝負で勝てば、席取れるってこと?」


「ハイ! いま挑戦する人がいますよ! あ、ちなみにワタシはチュリっていいます!」


「オレは素蓋だよ。教えてくれてサンキュー、チュリ!」


 オレは桜の木の下へ視線を戻した。


 牛のように大柄なマッチョがいる。すごい迫力だ。手にはブルーシートとバーベルを持ってる。しかも重さは百キロが二枚。二百キロだ。


「なぜバーベル!?」


 さすがにそんな重さは必要ないだろ! 他の席の人たちだって、せいぜい数十キロのダンベル四つだったぞ。


「見ていればわかりますよ! ちなみに、あの人は名門トレーニングジムのトップのレジェンズさんです! ひょっとしたらあの人なら、侍さんに勝てるかもしれません!」


「あ、さっきいってた侍ってのは……アレか!」


 桜の木の下には、まさに侍の格好をした人物がいた。ただし、女だ! 黒髪ロングの美女。後ろで結わえたポニーテールは、弓道とかでよく見る感じだ。


 凜とした感じの美女で、顔は和風。胸は大きい。和服の胸元がダイナミックに広がってる。


 おぉ、美しいぜ!


 胸のサイズや丸みも美しいが、桜の木の下で、日本刀を中段に構えている姿も様になってる。


「一体なにをするんだ?」


 オレが見ていると、牛マッチョが吠えた。


「今年こそ、黄金桜の下で花見をするぞォオオオオオオッッッッ! ここまで徹夜で運んできた二百キロのバーベルの重さ! 吹き飛ばせるものなら吹き飛ばしてみたまえッ! ウォオオオオオオオオオオオオッッッッッ! マイ! チェリーブロッサム! マッスルッッッッッッ!!!!」


「おぉっ!」


 マッチョがバーベルを持ったまま、侍美女へ向かってダッシュした。そしてブルーシートを敷くと、その上にバーベルを乗せる。


「ーーハッ」


 侍美女が刀を振り抜いた。


 一瞬だ。


 バーベルが吹き飛び、人混みから離れた場所へ落ちた。


 ドガッッッッッッッッッ!


 地割れのような音が響く。


 地面に大穴が空いただろう。っていうか。


 なんだアレェエエエエエエエエエエエッ!


「ちょ、チュリ。あの侍美女は何者なんだ!? 刀で風圧が起きるって、どういうこと!?」


「あのサムライさんは、桜を守るエンジェルですよ! 刀に込めたマッスルパワーで、近づく人間を武の道からフェイドアウトさせてるんです!」


「和洋折衷がすごいな!」


 侍とエンジェルとか、刀とマッスルパワーとか、真逆の文化が融合してる。和洋折衷というより、和洋混沌だ。


 それにしても、あの侍美女はすごいな!


「その程度の心の重さで、黄金桜を見ようなど甘いのです。あなたには覚悟が足りません」


 おぉ! しかもなんかカッコイイこと言ってる!


「黄金桜の元でプロテインドリンクを飲んだり、プロテインスナック菓子を広げたり、トレーニングをしたり、マッスルの話で盛り上がったり、あわよくば好きなマッチョと連絡先を交換したり、プロテインドリンクに酔った勢いで告白したり。そんなことはこの私クレハが許しません」


「和の雰囲気一瞬で消えたな!」


 マッスル系のワードで吹き飛ばされた。

 

 あの和風美女のクレハが言ってもマッスル系の単語は筋肉バカっぽい。


 っていうか、マッチョの花見つまらなそうだな!


 このあとオレ、ティフシーたちと花見する予定だけど、桜の木の下で筋肉について語り合うの!? 酒じゃなくてプロテインドリンクなの!? まったり系のイベント期待してたのにーっ!


「ハッハッハ! では、次は私の番だな!」


 今度はゴリラのようなマッチョが前に出てきた。


 巨大な岩を担いでいる。


 どこから持ってきたんだ!? この公園付近に岩なんてないよな!?


「素蓋さん、あの人は『水切り選手権』で優勝したビゼルさんですよ!」


 チュリが興奮した様子でオレの袖を引っ張ってくる。


 ちょっと待て。


「『水切り』って、川に小石を投げるアレか?」


 オレも子供の頃にやったことがある。オレは一度も成功しなかったけど、上手い奴は石を水面で四回くらい跳ねさせていた。マッチョたちもあんな遊びするのか。


「はい、それです! ビゼルさんは、重量三十キロの巨大な岩を、水面で五回跳ねさせて優勝したんです!」


「物理法則無視してないか!?」


 その重さなら、どんな速度で投げても沈むだろ! 大砲か。


「ビゼルさんはそれくらいスペシャルなマッスルを持ってるんですよ! それと、平べったい岩を探すのが上手です」


「水切り成功しやすいけど!」


 平べったくても岩はムリだろ。水切りって、小石でやる遊びだぞ。


「けどまぁ、それだけ凄いマッチョなら、期待できるな~」


 そう言いながら、桜の木の下に視線を戻す。


 ビゼルが巨大な岩とブルーシートを持って、吠えた。


「私は水切りチャンピオンのビゼルッッッッ! 毎日川に岩を投げ続け、このマッスルを鍛え上げてきたッッッッッッッッ! そして私が岩を投げ続けてきた川は、最近岩が詰まってしまい、水が私の家の庭まで溢れてきたッッッッッッッ!」


 悲惨だな! どんだけ川に岩投げたんだよ!


「しかし! 私は童心を忘れないッ! 初めて水切りをしたあの感動を忘れないッッッッ! 私は今日、あなたを倒し、この桜の木の下で、幼なじみのマリリンと花見をするッ! そして、大胸筋の話で盛り上がったあと、あわよくば、マリリンをお持ち帰りするつもりだッッッッッッッ!」


「童心どこいったーッ!?」


 下心しかないじゃないじゃないか! 百パーセント純粋なスケベな作戦立ててるぞ!


「その願い、絶ちます」


 侍美女はビゼルの岩を刀で受けた。


 そのまま押し返すように、一歩前へ出る。剣道でよく見るつばぜり合いからの攻防みたいな感じだ。


 しかし一つだけ違ったのは。


 グァアアシャッッッッッッッッッ!!!!


 侍美女が一歩前へ出た瞬間。ビゼルの岩が砕け散ったことだ。


 岩は見る影もなく、ほとんど細かな砂や小石になっている。


「さっきから物理法則どこいった!?」


 物理法則さん、休憩中っスか!? もう仕事始まってますよ!? 岩マッチョと侍美女がやりたい放題やってますよ!?


「ま、負けた……私の思いは届かなかったか!」


 ビゼルが地面にひざを折る。がっくりと頭を垂れた。


 ちょっと可哀想な感じだ。


「…………」


 侍美女はふいに、砕け散った岩の欠片を一つ摘まみ上げた。それをビゼルの前に差し出す。


「思いが届くかどうかは、伝えなければわかりません。平べったい小石でも、水に弾むことはあるのです。投げる勇気を持ちなさい」


「お、おぉ……! ありがとうッ! 侍美女! いや、クレハ殿ッ! 私はマリリンに思いを伝えてくる! ありがとう! あなたのおかげで、私は童心に返ることができたッ!」


 そう言うと、ビゼルはクレハの胸をチラ見したあと、去って行った。


 童心どこいった!?


「次の挑戦者はおりますか?」


 侍美女が言うと、マッチョたちが静まり返った。


 誰も名乗り出ない。


「レジェンズさんやビゼルさんがダメですと、誰もやりたがらないですね。やっぱり今年もダメそうです」


「いや、チュリ。オレはやるよ」


「え!?」


 オレがクレハの前に出ると、周囲のマッチョたちや美女たちがどよめいた。


「なっ、なにをしてるんだあのボーイはッ!? あの『ジムマスターのレジェンズ』や、『岩マッチョのビゼル』が負けたのを見ていなかったのか!?」


「しかもあのボーイ、なにもトレーニング器具を持ってないわよっ!? ブルーシートしか持ってないじゃない!? 重りも使わずに、どうしようと言うの!?」


「ほ、本当だッッッッ!? 信じられない! いったいなにを考えているんだ!? まさかクレハのビューティフルなマッスルを近くで見たいだけじゃないのか!?」


 オレは周囲からブーイングを浴びていた。


 それも仕方ない。これまで超重量の重りを持ったマッチョたちが、ここにブルーシートを敷こうとして、失敗してきたんだ。


 オレみたいになにも持ってない男が一人で、この黄金桜の下を場所取りできるはずがない。


 そう思ってるんだろう。


 でも、オレは無策で飛び込んできたわけじゃない。


「次はあなたですか。私は武器を持たない相手にも手加減はしませんが、よいのですか?」


「ああ、構わないよ。全力で来てくれ」


 クレハは一瞬、眉をピクッと動かした。


 オレがなにを考えてるのかわからない。そんな顔だ。


 しかし、すぐに集中した表情に戻る。


 余計な思考がそぎ落とされて、オレだけを見つめているような感じだ。


 凜とした佇まい。刀と体が一体になり、いつでも最大限の力を発揮できる。そんな雰囲気だ。


「後悔しないでください」


 クレハは容赦なくオレに刀を振ってきた。


 オレはその刀を躱し、ブルーシートを床に敷く。


 オレの横を、ものすごい風圧が通り抜けていく。


「ウワァーッッッッッ!」


「飛ばされるぞッッッ! 離れろーッ!!!」


「キャーッ! すごい風だわ!」


「しかし、あのボーイは避けたのか!? 初めてクレハが攻撃を外したぞ!」


 クレハは一瞬、驚いたような顔でオレを見つめた。


「どうした? これで終わりなら、オレはこの場所で花見をするけど」


 オレの足下にはすでにブルーシートが敷いてある。別に重りなんてなくたって、オレが足で踏んでるので、風で飛ばされることはない。


 重りは、オレ自身だ。


「本気を出します」


 クレハは刀を構え直すと、無数の剣技を放ってきた。


「八重桜ッ! 木の葉文字ッ! 咲き乱れッ! 夢乱舞ッ! 桜坂ッ!」


 オレはクレハの華麗な剣技をすべて紙一重で躱していく。


 さいごに福山◯治の歌が混ざってた気もするけど、気のせいだろう。


「な、な、なんでっ……」


 クレハは驚きの表情でオレを見つめた。


 オレの足下には、綺麗にブルーシートが敷いてある。場所取りは完了だ。


 クレハは首を振ると、刀を収めた。

 

永久(とわ)に散りゆくさだめ。さらば、ともよ」


 どこかで聞いたことのある森山直◯朗っぽいフレーズを言うと、クレハは桜の木の下から立ち退いた。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! なんということだァアアアアアアアアアアアッッッッ! なんのトレーニング器具も持たないボーイが、黄金桜の場所を取ったァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


「なんというマッスルだッッッッッッ! 彼はクレハの刀を強靱なインナーマッスルで躱していたぞッッッッッッッッ! まさに桜の木のように、芯の通ったボディ! ナイスボディッッッ! ナイスマッスルッッッッッ!」


「クレハが負けをみとめるなんて初めてよ! 最後に黄金桜の場所取りをしたのは、クレハの先代のオウマがいた頃でしょ!? それも、伝説のボディビルダー『グレマンズ』が十回挑戦して、一度だけよ!」


「なんてセクシーなマッスルなの!? 一度でいいから、彼と花見をしてみたいわ! そしてそのまま夜も一緒に過ごして、彼に私の桜の花びらを数えて欲しいわ!」


 すごいド下ネタを言ってる美女が一人いる気がするけど、まあ、とにかく場所取りができてよかった。これでティフシーたちと一緒に花見ができる。それにピンク色の黄金桜だ。こんな綺麗な桜は日本にもないかもしれない。


「あ、チュリも一緒に花見する? けっこう広いから、そっち側の場所使っていいよ」


「えっ、いいんですか!? 素蓋さん!」


「いいよ。これも何かの縁だからね~」


「ありがとうございます、素蓋さん!!! かっこよすぎます! サムライみたいですー!」


「私も同意よ」


 凜とした声。


 振り向くと、クレハがいた。


「素蓋殿。素晴らしい筋肉でした。完敗です」


「クレハの剣技も凄かったよ。胸熱だったぜ!」


「ありがとうございます、素蓋殿。では、ひとつだけお願いがあるのですが」


 クレハは刀を横にして、オレに差し出してきた。


「私は素蓋殿に大切なことを教えて頂きました。そのお礼に、素蓋殿に私の大切なもの二つの内、どちらかひとつを受け取っていただきたいのです。……そのひとつは、この刀です」


「え? 刀は受け取れないよ」


 クレハの大切なものだろう。それに、オレが貰ったところで使い道はない。


「そうですか……。では、もうひとつを受け取っていただけますか?」


「ああ、うん。いいよ」


 刀より貰いにくいものではないだろう。なにを貰えるのかわからないけど、クレハの気持ちは尊重したい。返事はイエスだ。


 クレハは少し嬉しそうな顔をした。


 そして。


「素蓋殿」


 色っぽい声でオレの名を呼ぶと、クレハはオレに抱きついてきた。


「!?!?!?」

 

 クレハの桜餅のようなおっぱいが、オレに押しつけられる。


 鍛えられた体の弾力と、女の子特有の柔らかさ。二つの魅力が合わさって、すさまじい衝撃だ!


 生命力に満ちあふれた豊満なおっぱい。オレの興奮が本能レベル刺激される。


 さらに、道着から漂う和風の静かな空気と、クレハの女の子らしい匂いが混じり合い、オレの鼻腔をくすぐる。


 うぉおおおおおおおおおおおおお!


 武道系の美女、最高だぁああああああああ!


「素蓋殿、私を好きなようにしてください。私の心の奥深くまで、満たして欲しいのです!」


「!!!!!!!!!」


 この直後、ティフシーたちが来たので花見が始まったけど、オレの脳内はクレハの桜餅ボディで埋め尽くされ、せっかくの黄金桜を見た記憶は残らなかった。



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