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14話 肝試しとサプライズ


素蓋(すぶた)さん! 今日は肝試しですよーっ!」


 夕方、ティフシーがオレの部屋に飛び込んできた。


 部屋が明るくなった気がする。ティフシーは朝でも夜でも太陽のようなハイテンションだ。


「きっもだめしっ♪ イェイ♪ きっもだめしっ♪ イェイ♪ K・I・M・O! きもだめし! イェイ♪」


「肝試しだよね!? 誕生日パーティーじゃないよね!?」


 このテンションで肝試ししたら、エンカウントした側から幽霊が成仏していくぞ!?


「だって、楽しみじゃないですか~! お店の一大イベントですよ!」


「そうなの? オレは肝試しで怖いと思ったことなんてないけどなぁ」


「ふふっ。大丈夫ですよ! 今日は本物の心霊スポットに行きますから! 人が脅かすわけじゃないんです。本物の幽霊が脅かしてくれるんですよ!」


「フッ」


 幽霊なんているわけないのに、ティフシーはときどき子供っぽいところがあるなぁ。可愛いけど!


「あ、いまバカにしましたね? 幽霊なんていないと思ってますね?」


「オレは幽霊なんて信じてないよ。いるなら見てみたいね」


「それなら今夜、きっと見れますよ! 楽しみにしててください!」


「妙に自信満々だね?」


 こうして、オレは久しぶりにまったりしたイベントに参加することになった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ハッハッハーッ! 肝試し大会を開始するぞォオオオオオッ! 準備はいいかいボーイズ&ガールズ!?」


「イェエエエエエエエエエエエエエエイッッッ! 肝試しだぜェッ!!! ヒャッハーッ!!!!」


 夏フェスかっ!


 幽霊ぜったい現れないだろ! なんだこの熱気!


「では、さっそくペア分けを始めるぞ! 二人一組でこのトンネルに入っていくのさ! ちなみに、このトンネルは『ブラッドホットチリペパーズ』や『ラッドウィッチーズ』などの幽霊が出ると言われているぞ!」


 夏フェスか!


 海外バンドも集結する最大級のロックフェスかっ!

 

「では、さっそくクジを引いてくれ! 早くクジを引かないと、『ブラッドメアリー』に血肉を吸い取られるぞ~?」


 それさっきいなかっただろ!


 後付けでガチのやつ出してくんな!


「あの、キミ『4』番? あたし『4』番なんだけど」


「えっ?」


 振り向くと、ボーイッシュな美少女がクジをオレに見せてきた。


 ショートパンツにTシャツ姿。キャップを被っていて、いかにもスポーティな感じだ。


 ショートの黒髪で、パッと見は男子にも見えるけど、声は可愛くて、胸も大きい。


 ギャップ萌え『あたし』っ子キター!


「オレも『4』番だよ。素蓋だ。よろしくな」


「よろしく、素蓋。あたしはテレサ。こういうの苦手だから、頼りにしてるよ? 素蓋」


「おー、オレはこういうの平気だぜ! それにしても、肝試しにバッチリな番号引いたよなぁ」


「う……ホント最悪だよ。だって知ってる? このトンネルって中に入ったら、周りから笑い声が聞こえてくるんだってさ」


「笑い声? そんな怖くないじゃん」


「明るい笑い声じゃないんだよ? 『ふふふ』みたいな声が聞こえてきて、少しでもその声に反応したら、帰って来れなくなっちゃうんだよ。トンネルから出ると、幽霊の世界に繋がってるんだって」


「テレサ、怖いの苦手なわりに詳しいね」


「う……」


 テレサはキャップのツバを触って、俯いた。


「あたし怖い話苦手だけど、聞き始めたら途中でやめられなくなっちゃうんだ……これって呪われてるのかな?」


「いや、それで呪われてるなら、全人類の半分が呪われてると思うよ」


「ちょ、えっ! 怖いこと言わないでよ!? 人類の半分が呪われてるの!?」


「ごめん、いまのナシで!」

 

 うかつにツッコミもできないぜ!


 たしかにいまのはオレの言葉のチョイスも悪かったけどさ!


「次は~っ! 四番の素蓋&テレサペアーッ!」


 司会のマッチョに呼ばれた。オレたちの番だ。


「行こっか、テレサ」


「うんっ」


「ハッハッハ! よくきたな! さっそく中に入ってもらうぞ! 恐怖のトンネルへようこそ! さあ、早く中に入りたまえ!」


 魔王か!


 ってツッコミたいけど、テレサがすでに顔面蒼白なので危険な単語は言えない。


「あ、あのさ? 素蓋、袖掴んでていい?」


「うん、別にいいよ~」


 っていうか、もう掴んでるけどな。


「そんなに怖いなら、引き返してもいいよ? ムリすることないって」


「うん、でもいまは恐怖心より好奇心の方が勝ってるから」


「そっか。じゃあいこっか」


 オレはテレサにトレーニングウェアの袖を掴まれたまま、トンネルの中に入った。


 広さはちょうど人が二人通れる程度だ。


 中に入ると周囲は草や苔やツタが不気味に周囲を覆っている。


 たしかに雰囲気はあるな。


「素蓋、ねぇ……いまの聞こえた?」


「えっ? なにも聞こえなかったけど」


 急にどうした!? まだ中に入って三歩くらいだぞ!


「う、ううん。聞こえなかったならいいの。気にしないで」


「いや、気になるんだけど!?」


「気にしないでって!」


「なにが聞こえたんだ!? 気になるって!」


「いや! 教えない!」


「教えろよ!」


「もう、察してよっ!」


 そう言ってテレサは顔を赤らめた。


 そして。


 ぐぎゅるるるるるるる。


 今度はオレにもハッキリ聞こえた。


「悪い、つい幽霊の声が聞こえたのかと」


 腹が鳴った音だったとは。


「あたしもどなってゴメン。肝試しが楽しみで、夕飯あんまり食べられなくてさ……」


 幽霊好きなのか嫌いなのか、どっちなんだ?


 と思ったが、幽霊というワードもNGになりそうなので聞けない。


「とりあえず先に進もっか?」


「うん、そうだね」


 オレたちはそのまま先へ進んだ。


 そして、今度こそ本当に、女の声が聞こえた。


「ふふふふふふふ」


「ぎゃぁああああああああああああああ!」


 オレにしがみついて絶叫するテレサ。


 いや、気持ちはわかるけど、幽霊の声に反応したらダメなんじゃなかったっけ?


「テレサ、落ち着けって。どうせ外にいる誰がの仕掛けだよ」


「ち、違うよ、素蓋! 本物だよ! もうダメだよぉ! 帰りたいよママぁーっ!」


 可愛いなっ!


 お母さんのことママって呼んでるのか。


「ふふふふふふふふふ」


 女の笑い声はまだ止まらない。


 外にいる誰かの仕掛けにしてはしつこい。テレサがこれだけ怖がってるんだから、普通少し手を緩めると思うんだが、大人げないな。


「テレサ、もうすぐ出口だ。とっとと外に出よう」


「う、うぅ……早くでる」


 可愛いなっ!


 オレはテレサを引っ張って先へ急いだ。


 そして外へ出ると、そこはまるで死後の世界だった。


 地面にはボロボロの十字架が何本も刺さっている。


 樹木はクマに引きちぎられたように折れていて、岩は異様なツタが覆っている。


 さらに、地面にはクギで打ち付けられた黒い布。


「こ、これは驚いたな」


「なにこれっ!? あたしたち、幽霊の世界にきちゃったの?」


「いや、たぶん違うと思うけど」


 これはたぶん店側の仕掛けだろう。


 不気味な樹木やツタは、自然にできたものだ。だからここが心霊スポットになっていたのだろう。


 そこに十字架や黒い布などの装飾をして、さらにそれっぽい雰囲気を作ったようだ。


 まさに、幽霊の世界。なかなかのクオリティだ。


 ティフシーが『店の一大イベント』と張り切っていたのもうなづける。


『幽霊の世界へ繋がっているトンネル』の噂話を聞いてトンネルに入り、出口を出たら『幽霊の世界だった!』というオチだな。


「素蓋、ごめん。あたしが幽霊の笑い声に反応しちゃったから、もう帰れなくなっちゃったんだ」 


「いや、そんなことないって」


 トンネルを戻れば二分で帰れるからな。


「素蓋、ねぇ……あたしとキスしない?」

 

「え!?」


 突然、テレサが暴走し始めた。


 オレの胸の辺りを掴んで顔を接近させてくる。


 ねだるような色っぽい表情。さらに、胸の谷間が丸見えだ。


 まさか、もう帰れないと思って開き直ってる!?


「こんなときに言うのもなんだけど、あたしはその……まだしたことなくて、素蓋は頼りになるし」


「いや、ちょっ」


 ガチモードに入ってるので止めづらい!


 しかもこの可愛さと色気のコンボは、本能的に受け入れそうになってしまう。


 これはまずい。


 ネタバレするタイミングを完全に逃した!


 たぶん店側の仕掛け人がどこかに隠れて聞いてるぞ。


「素蓋、じゃあおっぱい触る?」


「ちょ!? 落ちつけテレサ!」


 テレサが自分で自分のおっぱいを触る。


 谷間がプルプル揺れて、奇跡のような光景だ。


 これが平常時ならなんの問題もないんだが。


「テレサ、ネタバレするけど、たぶんこれは店の仕掛けで」


 と言いかけた瞬間。


 テレサがオレの背後を見て、目を見開いた。


 唇を震わせて、なにか言おうとしてるが、声が出てない。


「え、どうした?」


 振り向くと、そこには半透明な女がいた。


 白でも黒でもない無色。なのになぜか見える。


 ゾッとするほど美しいのに、まったく魅力を感じない不気味さ。


 感覚的にわかる。こいつは人間じゃない。


 こいつは間違いなく。


「幽霊だぁあああああああああああああああ!」


「きゃぁああああああああああああああああ!」


 オレとテレサの絶叫がこだました。


 幽霊がテレサの喉元に手を伸ばしてくる。


 オレはとっさに、地面に刺さっていたボロボロの十字架を引き抜いた。


 ホラー映画などでよく見る解決方法は3つ!


 幽霊に対抗できるのは、銀、聖水、十字架のどれかだ!


「おりゃっ!」


「!!!!!」


 剣の達人のような速度で十字架を振り抜くと、幽霊女はスパッと上半身と下半身にわかれた。


 そのまま霧状になり、風に流され、消えていく。


 気づくと、そこは普通の森になっていた。


 十字架や黒い布は消え、草木は綺麗に戻っている。


「あっ!」


 ドラキュラのコスプレをしたティフシーがオレたちを指さした。


 ガイコツを頭に被ったマッチョたちや、包帯を巻いたダイナマイトボディの美女たちも、オレとテレサを振り向く。


「オォオオオオオオッ! いったいどこにいたんだ素蓋&テレサペアーッ!」


「驚かせようと思ってたら、私たちの方が驚かされてしまったわ! さすが素蓋、なにをしても私たちの予想を超えてくるわね!」


「素蓋さん、さすがですー! すごいサプライズですよーっ! トンネルの両方からみんなで探したのに! どこにいたんですかーっ!?」


「インビジブルマッスルだぁあああ! さすが素蓋! ハンパねぇぜーッッッッッ!! ヒャッハァアアアアアアアアアアア!」


 若干一名、まだ肝試しテンションのやつもいるな!


 それにしても、どうやらオレたちは本当に幽霊の世界に行ってたらしい。


 よく考えたらオレは異世界転移したことがあるから、幽霊の世界に迷い混んだとしても不思議じゃない。


 無事に帰れてよかったぜ!


「素蓋ぁーっ!」


「えっ!?」


 テレサは突然、オレの腕に抱きついてきた。


 柔らかい感触がオレの腕を包み込む。


 オレの腕に押されたおっぱいはTシャツから盛りあがっていて、視覚的にもエロい。


 な、なんだこの天国は!? オレまだ死んでないよな!?


「素蓋、ありがとうーっ! 怖かったぁ。ドキドキしたよぉ~!」


「そ、そうだね。完全に同意する」


 こうして肝試し大会は、幽霊に会ったときの数十倍のサプライズで幕を閉じた。




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