7話 初陣
今回の昼食は俺も食べることにした。
ダンジョンコアに飲食や睡眠は必要ないらしいが、折角の体だ。単純に何か食べたい。
麦粥、焼き鳥、果物を3人前(DP150)用意した。
麦粥は昔カナダで食べたカーシャに似てるな。牛乳で煮込んであるようだ。
焼き鳥は日本のよりデカく、なかなかのボリュームがある。
デザートの果物は酸っぱい青リンゴだ。
118年ぶりの食事を楽しんだ俺にマリーが語りかけてきた。
「エトー様、よろしければゴーレムが完成する前に私とジョシュアのダンジョンモンスター登録をお願いします。」
「うん? モンスター?」
「はい。このままではゴーレムなどの自我がないモンスターから侵入者だと判断され、攻撃を受けるかもしれません。」
「そうか。わかった。」
俺はマリーとジョシュアを登録した。
……しかし、モンスター登録って表現はどうなんだ?
「二人とも登録したぞ。……そう言えばマリー、飽食のテーブルって知ってるか?
食事を選ぶときにリストで見かけてな。」
「はい。飽食のテーブルとは、1日に1度だけ、テーブルについた者が望む食事を生み出す魔道具になります。」
ほう、かなりの優れモノだな。
早速、飽食のテーブルを確認すると…小中大とサイズがあるようだ。
小が4人掛けでDP30000
中が8人掛けでDP60000
大が12人掛けでDP90000
小でいいか。残りのDPの半分を消費するのは痛いが、長い目で見ればお得のはずだ。
飽食のテーブルを設置した瞬間、俺は違和感を察知した。
……む、侵入者だ。ゴブリンが5匹。
俺はスケサンに侵入者の存在を告げる。
「ふむ、ゴブリン5匹か。主よ、腕試しといこう。」
「何? 俺か?」
「そうだ。新しい体の慣らしに丁度良い。ランク6ならゴブリンなぞ相手にもならんさ。」
「いや、俺、どうやって?」
するとスケサンはシャベルを俺に差し出した。
「コイツでゴツンとやればいい。」
「いや、俺、初めてで……戦うとか、その」
「やかましいっ! さっさと行かんかっ!!」
スケサンの大喝を受けた俺は弾かれたように居住スペースを飛び出した。
迫力に圧されて走りだしてしまったが、こうなれば腹を括るしかない。
モンスターとの戦い、殺らなければ死ぬ。
「死ぬ」と意識した途端、ドクンと鼓動が高鳴った気がした。
俺は「オオッ!!」と雄叫びを上げながら祭壇の間の手前でキョロキョロしているゴブリンの群に突っ込む。先手必勝だ。
「死ねぇぇ!!」
突っ込む勢いのまま先頭のゴブリンにシャベルを叩き込んだ。シャベルは肩から腹まで引き裂いてゴブリンの臓物をバラ撒く。
不快な臭いがムアッと漂った。
「ギギャッ」とゴブリンたちが驚きの声を上げた。
「死ねっ! 死ねぇぇ!!」
俺はすぐ左のゴブリンに狙いを付け、胸にシャベルをぶち込んだ。シャベルはゴブリンを貫通して抜けなくなる。
ゴブリンが抜けないのでシャベルを揺する俺。
それを好機と見たか、飛びかかってきた2匹に対し、突き刺さったゴブリンごとシャベルで殴り付ける。
ゴブリン2匹を吹き飛ばした一撃に耐えきれなかったのか、柄がボキリと折れた。
すぐにシャベルを捨てる。
「死ねえ!」
俺はまだ立っていた最後の1匹に駆け寄り、顔面を殴り付けた。
打ち下ろし気味に入った拳はゴブリンの頭蓋から上顎まで叩き潰す。
「ハアッハア……ハーッ」
ゴブリンを倒し終えた俺は呆然と周りを眺める。
「まだ、生きてるぞ」
後ろからスケサンが語りかけてきた。
「止めを刺さねばならぬ。窮鼠は猫を噛むぞ。」
その言葉に頷いた俺は息のある2匹に向かい合う。
そして、脅えた目をした2匹の頭を蹴り潰した。
びしゃりと血の花が咲いた。
「素晴らしい。初陣とは思えぬ戦ぶりだ。」
「ああスケサン……殺した、殺したよ。」
「うむ、見事! 戦場とは人の本性を剥き出しにするものだ。主の猛々しい戦士の資質をしかと見たぞ。」
「お……お」
「む?どうした?」
「おぼぉっ、げええっ」
腹の底から込み上げる不快感を堪えきれず、俺の118年ぶりの食事は全て床にぶちまけられた。
………………
暫く後、少し落ち着いた俺は返り血と吐瀉物を片付ける。
片付けると言っても、ゴブリンの死体は勝手に吸収されるし、返り血や吐瀉物も指定してダンジョンに吸収するだけだ。
壊れたシャベルの金属部は取っておこう。鉄が貯まればアイアンゴーレムを作る機会もあるだろう。世界に誇るMOTTAINAIの心だ。
折れた柄の部分はダンジョンに吸収だな。
……その後、新しいシャベルを2つ出してスケサンと二人で土を集めた。
マリーとジョシュアには石を拾ってもらう。まとまった量になったらストーンゴーレムを作るつもりだ。
ほどなくしてゴーレムメーカーが起動した。
土が規定量に達したようだ。マリーの説明によると完成は数時間後らしい。
………………
夕飯時、飽食のテーブルに着いた俺たち。
俺は「食べたいもの」のイメージをする。
「おおっ凄いな」
そこに出たのは「刺身定食」だった。ちゃんと人数分でてくるのが凄い。
若い頃は肉ばっかだったけど、年とったら魚の旨さが身に染みる。
実に旨そうだ。食欲を堪えきれずに食べ始めると、マリーとジョシュアの食が進んでいない。
「どうした?」
「いえ…その、このお魚…」
そこにスケサンが助け船を出す。
「我が主よ、マリーは魚を生で食べるのを躊躇っているのだ。」
ああ、そう言えば外人だったね、君たち。
マリーとジョシュアには別の食事をDPで用意することにした。
残った刺身定食? 俺が責任をとって3人前完食したよ。MOTTAINAIの心さ。
ちなみに超人の胃袋は3人前などペロリであった。
ごちそうさまでした。
その後、俺は居住スペースの空き部屋にベッドを出して転がる。ダンジョンコアに睡眠は必要ないが、 色々あったので横になりたかったのだ。
「大変な1日だった…」
俺は朝まで休むことにした。
※ダンジョンコアは食事や睡眠の必要はありません。
しかし、嗜好として楽しむことはできます。