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5話 マリー

 次の日、ジョシュアがオシッコをしたがったので大急ぎでトイレを作る。


 トイレと言っても個室に穴掘っただけだ。

 不要なものはダンジョンである俺が指定すればダンジョンに吸収してしまえるので、特に肥桶や下水は気にする必要はないらしい。これは便利。


 ついでに生活スペースも整えてしまおう。


 10畳間(祭壇さいだんと言うらしい)の奥に部屋を造る。


 真ん中に大きめの空間を造り、左右に小部屋をいくつか配置。

 小部屋の2つには湧き水(小)を設置し、水場を用意した。

 これは風呂や台所だな。


 湧き水(小)は蛇口程度の水が出しっぱなしになる設備だ。

 いちいち水を指定して消すのも面倒なので外に排水するようにした。環境破壊? 知らんな。


 小部屋の1つはマリーとジョシュアの部屋だ。

 昨日のベッドを配置し直しておく。


 小部屋はまだまだ空きがあるが、そのうち埋まるだろう。


 あとは照明だな。照明石という不思議な光る石を設置していく。

 照明石は日光のような性質があるらしく、大量に設置したらダンジョン内に密林を造ることも可能なんだとか。

 いや、造らんけどね。室内にジャングルとか不便なだけじゃね?


 最後に真ん中の広間にテーブルと椅子を置いてリビング風にしよう。

 壁や床、それに天井も土だが気にするな。

 壁や床はDPを消費すれば模様替えできるが、今後のDP消費を考えて今は様子見だな。


 以上の増築でDP4800だ。異常に安い気がするが、これはダンジョンの規模が小さいためらしい。

 無闇に拡張するよりコンパクトに暮らした方がお得ってことか。



 ふと、マリーを見ると何やらもじもじしている。


 なんだ? トイレなら勝手に使っていいぞ。


「あ、あの……いえ、じゃあ使わせてもらいます。」


 ん? なんだこの反応?



…………



 数分後、俺は大変なことに気づいた。

 俺はダンジョンの中が知覚できる。

 つまり、のぞくつもりがなくてもマリーの排泄シーンが見えてしまうのだ。


 いや、少女の排泄シーンとか、興味ない……はず。

 うん、俺は大丈夫、大丈夫だ。



 ……トイレから出てきたマリーは暫く俯いて何かに堪えていた。

 うん、なんかごめん。


 ちなみにマリーの排泄物はちゃんと吸収した。

 何故かDP1加算された。




………………




 気を取り直して、マリーとジョシュアに朝食を出す。


 果物と黒パンと牛乳を2セット。DP100だ。

 意外とパンが高い。

 白パンでDP60、黒パンでDP30だ。

 二人には黒パン生活をしてもらおう。すまんな。




………………




 二人が食事を終えた頃、俺はマリーに尋ねた。



 なあ、ここは深い森の中なんだろ。何でこんなところに、しかも子連れで来たんだ?


「……はい、それは……」


 マリーは少し言いづらそうに口籠る。


 言いたくなかったら別に言わなくてもいいぞ。


「いえ、先ず私の身の上からお話ししましょう。私はバッセル男爵の4番目の妾。ジョシュアは男爵との子です。」


 ……むう。


 ……衝撃の事実だな。

 マリー、人妻だったのか。

 俺は人妻の排泄シーンを……いやいや、そうじゃなくてだな……あれ?

 ジョシュアって5歳だろ?

 マリーって……? あれ?


「私は今年で21歳です。」


 えー、21歳で5歳で……16歳の子か……ということは仕込みは15で、男爵ロリコンかよ! ロリコン男爵か!

 いやいやロリコンでもマリーの夫であるから、その、なんだ。なんだな!


 混乱する俺を見かねてマリーが話を続ける。


「いえ、妻ではなく妾です。男爵は館で下働きをしていた私に戯れで手をつけたのです。そしてジョシュアを身籠りました。」


 ……むう。


 なんというか、俺の常識だと考えられないような話だ。

 それにマリーは納得していたのか?

 満たされた生活をしていたのか?


 マリーは少し考えてから言葉を紡ぐ。


「満たされていたのかはわかりません。妾とは言え、4番目ですから下女と変わらない生活をしていました。

ただ、子を産みましたので部屋を頂けたのは幸運でした。

貧しい家庭で育った私は、男爵から追い出されてもジョシュアを育てる自信がありませんでしたから……。」


 ……そうか、そうだな。


 何と言えば良いのかわからない俺は、適当な相づちを打つしかない。


 マリーは淡々と続ける。


「数日前、スコールズ子爵との大きな戦があると言うので、領民と砦に避難するところでした。

しかし、避難中に子爵軍の襲撃を受け、身を隠すために数人で森に逃げ込みました。」


 避難民を襲撃か……

 スケサン、軍隊が避難民を攻撃することは普通にあるのか?


「ああ、普通とは言わんが稀にある。略奪だな。

部下の欲望を満たすことは士気の向上に繋がる。」


 略奪……略奪か。

 バッセル男爵もロリコンだが、スコールズ子爵とやらもクズか。


 マリー、数人と言ったな。

 他の人たちはどうなったんだ?

  

「……わかりません。森に潜んでいた私たちはゴブリンの群れに襲われました。

私はジョシュアを連れて、ただひたすら逃げました。

2日ほど森をさ迷った私は、この洞穴ほらあなを見つけて……」



 そうか、あのゴブリンたちはマリーをつけ狙っていたんだろう。

 こんな細い体で、幼子を抱えてよく逃げ延びたものだ……母は強いな。


 ありがとうマリー。

 言いづらいこともあっただろうに。


 するとマリーは、自嘲じちょうするような薄笑いを浮かべながら俺に問いかけた。


「……軽蔑けいべつしますか?

私は体を売って生きてきました。

他人を見殺しにして、囮にして生き延びました。

自分とジョシュアが生きるためだけに。」


 それだけを言うと、マリーは黙り込んでしまった。



 ……。



 マリーも傷つきながら生きてきたんだな。

 若いのに、いや若いからこそか。


 ……人はきれい事だけでは生きれないさ。

 俺だって人間をそれなりにやってきたんだ。

 色々見てきたし、経験した。

 良いことも、悪いことも。

 だから、まあ、その~アレだ。気にすんな。済んだことさ。




 マリーがうつむいてしまったので、少し気まずくなった俺はチラリとスケサンに意識を向けた。


 スケサンは空気を読んでジョシュアと遊んでいた。

 ショートソードを振り回したジョシュアに「うわ~やられた~」とかやってる。


 それを見たマリーがクスリと笑った。

 なんだか救われた気分だ。


 あいつ、良いやつだな。骨だけど。




………………




 マリーの事情は大体わかった。

 これは人里に送り届けて「はい、お仕舞い」とはいかんだろう。戦争中みたいだし。


 長期滞在も視野に入れて食料が手に入るようにしないとな。

 俺は地下2階に畑を造ることにした。


 広めの空間を造って、照明石を多目に配置する。


 そしてふと、気がつく。

 誰が畑の世話をするんだ?

 人手が足りない。


 適当なモンスターを増やすか……あれ? そう言えば。


 なあ、マリー。

 生み出したモンスターってエサはいるのか?


「はい、必要です。

スケサンはアンデッドなので必要ありませんが、生きているモンスターは水や食料が無ければ死にます。

餓えたら共食いをすることもあります。」


 うーん、前途多難だな。






※マリーとジョシュアが幼く見えたのは食料事情があまり良くないため、栄養失調気味で発育が十分ではなかったからです。


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