3話 出逢い
「ハア……ハア……ハア」
荒い息が聞こえる。
俺の中に侵入者が来た……人間だ。
<オペレーターを設定します>
ん? なんだ? 今のは?
頭の中に不思議なアナウンス(?)が流れる。
幻聴にしては妙な……と考えながら俺は改めて侵入者に意識を戻す。
息を切らせた少女、高校生くらいだろうか。
そして、少女が抱える男の子の二人だ。
人間が入ってくるのは始めてだ。
俺は興味深く二人を観察した。
二人とも粗末な服装を泥で汚し、顔にべっとりと疲れを張りつけている。
疲労の色を強く滲ませた表情……特に男の子のほうは見るからに具合が悪そうだ。
外国人だろうか。二人とも明るい茶色の髪の毛に、ヘーゼルの瞳。
どこか似た風貌から推察するに姉弟かもしれない。
男の子のほうは、明や等よりも小さい……4歳くらいかなと想像する。
「ハア……ハア……ふう、ハア」
息を整えた少女は、じっと俺の奥を見つめていた。
そして、意を決したように薄暗い洞穴の中を進む。
不思議だ。
なぜ、この少女は暗い洞穴を進む選択をしたのか。
そして、なぜ少女はの瞳は俺(洞穴の最深部)を見つめるのか。
俺はいつの間にか少女から目が離せなくなっている。
そして、少女は俺の最深部に達し、俺に話しかけた。
「はじめまして。マスター」
瞬間、ボワッと明るくなる空間。
比喩ではなく最深部の10畳間が薄暗く発光し始めた。
なんだ? これは?
俺に話しかけているのか?
マスター?
この少女は一体?
しばし混乱していると、少女が改めて話かけてきた。
「はじめまして、マスター。私はオペレーターとなったマリアンデールと申します。マリーとお呼びください」
間違いない、この少女……マリーは俺に話しかけている。
しかし、わからない単語ばかりだ。
オペレーター?
オペレーターってなんだ?
「はい。オペレーターとはダンジョンである、マスターをサポートする存在です」
ダンジョン? 俺はダンジョンなのか?
「はい。あなた様はダンジョンです」
ダンジョンってなんだ?
「それは……すいません。質問が大きすぎまして、何と答えて良いのか……」
……この答えに暫く考える。
質問が大きい、か。
それはそうか。俺も「人間とは何か?」と質問されたら何を答えて良いのかわからんからな。
しかし、困った。どう質問したものやら。
「はい。先ずはステータスをご覧ください」
ん? ステータス?
そう意識すると――
■■■■
名前 : ノボル・エトー
状態 : ダンジョンコア
DP : 131068
■■■■
このように表示された。
ダンジョンコア? DP?
わからないことが増えてしまった。
重ねて質問しようとした、まさにその瞬間、俺の中に侵入者を知覚した。
数センチほどの角を額から2本生やした小柄な人間(?)。
これは犬の母子を殺したチビ鬼どもだ。数は4匹。
「マスター、侵入者です。モンスターを出して迎撃しましょう!」
マリーに促されるままにモンスター、モンスターと念じるとモンスターの一覧表がイメージされる。
よくわからん。
適当でいいだろうとスケルトンを選択すると――突然、骨格標本のような骨が出てきた。
少し頼りないが、こいつが戦ってくれるに違いない。
よし、お前はスケルトンのスケさんだ!
侵入者をやっつけろ!
俺が命令すると、スケルトンことスケさんがボワンと怪しく光った。
そして「承知」と呟き、一気に駆け出す――速い。
スケさんは凄まじい速度で通路を走り抜け、チビ鬼どもに襲い掛かった。
勢いのままに先頭のチビ鬼の顔面を掴み、後頭部を壁面に叩きつける。
えもいわれぬ嫌な音が響き、血の花が咲いた。
………………
スケさんの暴力は圧倒的だった。
チビ鬼(ゴブリンと言うらしい)4匹を数十秒で片付け、10畳間に帰還してきた。
表情のない骨だが、どこか誇らしげに見える。
スゴいな……スケルトンってメチャクチャ強いんだな。
するとマリーが答える。
「いいえ、スケルトンはゴブリンと同じDP300のモンスターです」
いや、明らかに強いだろ。
「それはスケサンはネームドモンスターだからです。スケサンのステータスをご確認ください。ダンジョン内の人間やモンスターはステータスの確認ができます」
ふむ、スケさんを意識してステータスを確認する。
■■■■
名前 : スケサン
種族 : ハイスケルトン
ランク : 5
スキル : [剣術2] [盾術2]
弱点 : [火属性] [聖属性]
■■■■
ん? ハイスケルトン?
俺は普通のスケルトンを選んだはずだけど。
「はい。スケサンはマスターによって名付けられ、ネームドモンスターとなりました。モンスターを名付けることにより、DPを10000消費してモンスターを強化できます。スケサンはスケルトンからハイスケルトンにランクアップしたようです」
ん? んん~?
スケルトンのスケサン……? さっきのが名付け、ね。
スケサンか……スケサンって名前になっちゃったのか。
微妙に気まずくなり、スケサンを見つめる。なんかゴメンな。
するとスケサンはこちらを見ながら「よろしく」と呟いた。