25話 エイダ
エイダは女冒険者だ。
10年以上のキャリアを誇るベテラン冒険者……年は聞かないでほしい。
燃えるような赤毛に引き締まった肉体、シャープな印象の美しい女冒険者、竿切りエイダと言えばそこそこ知られた名前だ。
もちろん、冒険者とは甘い仕事ではない。
冒険者とは金で依頼を果たすフリーランスの傭兵みたいなものだ。荒くれ者や犯罪者も多い。
エイダも死ぬような目にあったり、強姦されたのも1度や2度ではない。
……無論、エイダが今でも冒険者をやっているのは、エイダに無体を働いた男共にそれなりの落とし前をつけてきたからだ。「竿切り」とはその時についた異名だ。
エイダの仲間は彼女を含めて四人。
猿のレヴィン、こちらもベテラン冒険者だ。
なかなか整った顔立ちの軽薄な印象の小男である。
槍を巧みに操り、棒高跳びの要領で猿のような跳躍を見せるところが異名の由来だ。
若い頃にエイダが2度ほど抱かせてやったら情夫面をしてきたので半殺しにした。それ以来、エイダの子分だ。
あとの2人は経験のある冒険者では無い。
リタは美しい金髪の可愛らしい17才の少女だ。
バッセル男爵領の修道院で修道女をしていたが、修道院が略奪され、輪姦されていたところをエイダが 救った……とは言っても、事が済んだ後で介抱しただけだが。
それ以来、行くあてもない彼女はエイダが世話を焼いている。
仲間となってまだ半年ほどだ。
マチスは恐らく騎士だった。名前も偽名だろう。
バッセル男爵領がスコールズ子爵に併合された後に行き倒れになっていた所をエイダが保護した。
30がらみの凄腕の大男だ。
まだ仲間となって1ヵ月ほどでしかない。
エイダは親切心からリタとマチスを助けた訳ではない。
この二人は魔法が使える。
魔法とは専門の教育を受けた者でなければ、まず使えない(たまに例外もいるが)。魔法使いとはエリートなのだ。
よって、冒険者で魔法使いなど滅多にいるものでは無い。
エイダはこの二人に恩を売り、子分にしてやろうと目論んでいるのだ。
………………
【エイダ視点】
その男に会ったのは、アタシ達が旧バッセル男爵領から、自由都市ファロンに向かう途中のことだった。
スコールズ子爵領内の街道に、その男はいた。
茶色い外套を身に纏い、フードを目深に被っている。
……見るからに怪しい。
「我が主が諸君らをお招きだ。同行してもらいたい。」
低い、地の底から湧き出るような迫力のある声で男が語りかけてくる。
勿論、こんな誘いを受ける筈も無い。
「残念だけど、見知らぬ男性の誘いを受ける訳にはいかないわ。ごめんなさいね。」
アタシが気取って答えると、男の圧力が強まった。
男の放つ死の匂いが、辺りを支配する。
コイツ、どこの殺し屋よ!
……アタシはフードの男から濃厚な死の気配を感じた。
これは、駄目なヤツだ。戦っては駄目なヤツだ。
アタシの冒険者としての勘が全力で警鐘を鳴らしている。
「ならば、少々手荒な真似をせねばならぬ。」
フードの男が呟いた。
……その瞬間、突風が吹き付け、男のフードを巻き上げた。
男の面貌が明らかになる。
……それは、人では無かった。
「……ッ! スケルトン!?」
咄嗟に反応したのはリタだ。
修道院仕込みの聖魔法で浄化を仕掛けた。浄化とはアンデッドを弱化させる聖教会の秘術だ。
「……なんでっ! 効かない!?」
しかし、リタの浄化は全くの効果を示さなかった。
リタの顔が驚きに歪む。
「なんでスケルトンが喋るんだよ!?」
レヴィンが叫ぶ。アタシが知りたいわよ! この愚図め。
目の前のスケルトンが外套を脱ぎ捨て、剣を抜く。
「やれやれ。面倒なことだ。」
アタシは呆然とスケルトンの剣を見つめた。
魔剣だ。スケルトンの剣の柄頭に魔石が見える。
……だめだ、勝てるビジョンが全く見えない……!
「逃げろ!! 時間は俺が稼ぐ!!」
マチスが叫ぶ。
アタシはリーダーとして咄嗟にマチスを切り捨てる判断を下す。
マチスならあの化物相手に時間稼ぎができるかもしれない。
マチスは死ぬが3人は生き残る。
「すまないねっ! マチス! 頼んだよっ!!」
アタシは振り返った。
しかし、そこには絶望が広がっていた。
「そんな……」
そこにはスケルトンの群れが街道を塞いでいた。
「サージェント、殺さず拘束せよ。」
「ハイ」
「承知シマシタ」
……こっちのスケルトンも喋った!?
だめだ、勝ち目が見えない…!
「こっちのスケルトンも喋ったぞ!? どうなってやがるんだ!?」
レヴィンが絶望の声を上げた。アタシが教えて欲しいわよ! 役立たずめ!
……だめだ、勝ち目どころか逃げ切る目が……一か八かでバラバラに逃げるか……いや、それも難しいだろう。
……ならば……
「待って。降参よ。どこでも連れていって頂戴。」
「オイオイオイ! マジかよ!?」
レヴィンが異論を挟む。
「だったら、アンタが何とかして頂戴。アタシは死にたくない。」
そう告げると不服そうにレヴィンは押し黙った。本当に愚図ね。
スケルトンが剣を収めながら近づいてきた。
「ふむ、助かる。私も傷つけたい訳ではないからな。」
「少し教えて。主って誰? なぜアタシたちを招くの?」
降参はした。
しかし、少しでも情報を集めておきたい。
「ふむ、何者かと問われたら難しいが……。
強いて言えば、我らを統べる軍閥長であろうか。 他の疑問は我が主に尋ねよ。」
スケルトンを統べるウォーロード!?
それがなぜアタシ達を?
「それは、魔王ですか?」
リタがスケルトンに問う。
なるほど、魔王ならばこの化物を従えているのも道理だ。
「それは自らの目で確かめよ。
……そうだな、1つだけ助言をしよう。我が主は誠実を好む……忘れるな。」
………………
……そしてアタシたちは奇妙なゴーレムに乗せられて「暗き森」の中へと向かう。
暗き森はモンスターの巣窟だ。余程の理由が無ければ人は入らない。
仲間達の顔色は悪い……当たり前か。特にリタの顔色が青い。
「リタ、大丈夫?」
リタは僅かに頷いて、何かを考えている。
リタには教養がある。何か思わぬ糸口を見つけてくれるかもしれない。
スケルトンを統べるウォーロード……魔王……誠実を好む、か。
鬼が出るか蛇が出るか……
駄目だ。弱気になるな。アタシは竿切りエイダ様よ!
そう自らを励まし、アタシは暗き森の先をキッと睨み付けた。




