2話 プロローグ後編
どれ程の時間が過ぎたのだろうか。
長く、長く、退屈な時間だった。
無限とも思える時間の中でわかったこともある。
洞窟となった俺の形状もその1つだ。
構造は至極シンプルなもので、入り口が1つに成人男性が歩ける程のサイズの長い横穴。
そして横穴の先には10畳ほどの空間がある。
外のことはわからない。
入り口あたりから外の様子を伺った限りでは、深い森の中にも思える。
風に舞った木の葉が洞穴へ運ばれる様子は、俺が時の流れを測る数少ない機会だ。
そして洞窟の中で起こったことは知覚することができる。
なぜか理屈はよくわからないが、感覚として理解できるのだ。これはちょっと説明が難しい。
それにしても、いつまでこうしてなきゃいけないんだろうな……
………………
洞穴の中で大きな野犬の母子3匹が営巣を始めたときは嬉しかった。
変化のない日常に現れた彼らに、俺の心がどれだけ癒されたのか計り知れない。
子犬の成長や母犬の奮闘ぶりを間近で見られたことで、枯れたかけた俺の感情に起伏が戻ってきたのを感じた。
………………
しかし、楽しい時間は続かなかった。
襲撃者が現れたのだ。
可愛いモフモフたちが、鬼っぽい角の生えたチビの群れに全滅させられた。悲しかった。
悲しかったが、洞窟にはどうすることも出来ない。
ただ俺は愛でていたモフモフの死を見つめていた。
不思議なことに殺された母子の死体は短時間でスッと消滅した。
不思議といえば鬼の存在も不思議だが、自身が洞穴になる不思議体験を継続中の俺は「不思議なこともあるもんだな」とスルーすることにした。
気にしてもどうしようも無いからだ。
鬼っぽいチビどもは俺の中で住むこともなく、モフモフを殺した後に去っていった。
………………
……長い、長い時間が過ぎた。
時間と共に俺の心が枯れていくのがわかる。
季節の巡りをかぞえるのも、いつの間にかやめてしまった。
長い、長い、退屈な時間に変化が訪れる時が訪れたのは、俺が洞穴になってから118年後のことだった。