16話 ボルト
夜中に再度襲撃があった。
とは言え、ゴブリンとホブゴブリンが合わせて31匹だ。
あっという間に食人くんにパクつかれ壊滅した。
半分ほどは逃げた。
前回の規模で来られたら正直キツかったが、この数ならあまり意味が無い。ゴブリンの考えることはよくわからん。
スケサンも「はて?」と首を傾げていた。
………………
翌日
「……という訳でマリー、鍛冶が得意なモンスターっているか?」
俺とスケサンは事情を説明して、マリーに鍛冶ができるモンスターを尋ねる。
「そうですね、ノッカーでしょうか?
洞穴に住み、鍛冶を好み、鉱脈を探すことに長けた小人です。姿を見られるのを非常に嫌います。」
「うーん、悪くないが……姿を見られたくないってのはなあ。」
姿を見られたくないと言われても、洞穴にいたら俺から丸見えなんだよ。
「うーん、鍛冶となると……サイクロプスも得意ですが……一つ目の巨人です。槌を振るうのが得意です。」
「すまない。さすがに巨人はちょっとな……。」
さすがに巨人はなあ……単純にサイズの違う存在を人間の生活スペースに入れるのは気の毒だし、お互いに不便だろう。
「なかなか難しいですね……。」
マリーが考え込んでしまった。すまん。
「別に鍛冶に長けると限定しなくても良いのではないか?
我らに必要なのは鍛造よりも研ぎや防具の直しだ。
手先が器用で従順なモンスターに武器の手入れをしてもらえれば良いのだ。」
スケサンが助け船を出す。
なるほどな。詳しくは知らないが、鍛造ってのはカンカンやって剣を作るやつだろう。
今回、必要に迫られているのは武器を作るよりもメンテナンスだ。
スケサンの意見は的を射ている。
「それならばコボルトです。手先が器用で家事なども得意です。
人間より非力で非常に臆病な性格ですが、戦闘に用いないのであれば問題無いはずです。」
コボルトか…何か聞いたことあるな。それで行こう。
「よし、コボルトだ。何か注意点はあるか?」
「いえ、強いて言うなら……いたずら好きなことくらいです。
人間に近いので自我は強めでしょうが、臆病なコボルトがエトー様やスケサンに逆らうとは思えません。」
自我は強いのか。まあ、人に近いならマリーやジョシュアの話し相手にもなるだろう。
俺はコボルトを生み出した。弱いだけあってDP200だ。
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種族 : コボルト
ランク : 1
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………………
「ヒイイッ! 殺さないでっ、殺さないでくださいッ!!」
出てきたコボルトの第一声だ。
「いや、何を言って……」
「嫌、イヤァ! 許して! 殺さないで!」
なんだこれは?
足元に蹲り、ガタガタ震えるコボルト。
全く会話にならん。
「マリー、これは一体?」
「……私にもちょっと……臆病な性格なのは知ってますが……これは一体?」
マリーも困惑顔だ。
コボルトは蹲って震えるばかり。あっ、漏らしてやがる。
「我が主よ。恐らくコボルトは主の存在に怯えているのだ。私にも同様かも知れぬ。」
何で初対面で小便チビられるほど怖がられるんだ?
おかしいだろ。
「我が主よ、コボルトは弱い。弱い生き物は臆病でなければ生きられぬ。
臆病な生き物は強者の存在に敏感なのだ。」
ガタガタ震えるコボルトを見ながら考える……いくらなんでもこの状態では可哀想だが……。
「俺はお前を殺さないよ。友達になろう。」
「ヒッ! 許して……許して……」
……ダメか。まあ、ネズミが猫に「友達になろう」って言われても普通は無理だろう。仲良くケンカは出来そうもない。
「どうしたら良いと思う?」
「これは一つ提案だが……名付けてはどうか?
弱いから怯えるのだ。強くなれば良い。」
……DP10000か、どうしよう?
マリーの後ろでジョシュアが心配そうに見ている。
……そうだな。このままじゃ俺たちが弱いものイジメをしてるみたいだ。ジョシュアの教育にも悪い。
コボルトを見る。
……人間に近い。身長は蹲っているので良く分からないが、小学生くらいか? 130~140ってとこか。
顔つきは鼻と口の部分が少し出ている。耳の位置が人より少し上で耳たぶが無く、尖っている。ちょっと犬っぽいな。
毛の色は焦げ茶色で毛深い。人間の毛深い人くらいの毛深さだ。背中にも薄っすらと生えている。
目の色は分からないか……。
名前、ね。
スケサン、カクサン? ……俺はまだ爺さんじゃない。するとマリーはくの一か……入浴シーンが……いやいや、今はコボルトの名前だ。
コボルト……コボちゃん、コボ太、コボ介……うーん、しっくり来ないな。
コボルト……ボルト?
良いじゃないか。足も速くなりそうだ。
「お前はボルトだ。」
すると、コボルトがボワッと光り、少し大きくなる。
胸も……おおっデカいな。
お前は女だったのか、すまんな。
コボ太にしなくて良かったよ。ボルトもアレだけどさ。
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名前 : ボルト
種族 : ハイコボルト
ランク : 5
スキル : [魔法2]
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「……エヘヘ」
そこには可愛らしいショートヘアの女の子がいた。
身長は145センチくらい。
顔つきは、ぽちゃっとした印象で、コボルトの特徴である鼻や口の高さや耳の位置などがあるが、パッチリした目でなかなか可愛らしい。瞳はブラウンだ。
がっしりした体格でグラマーなタイプだ。池から出てダダーンとか言いそうだ。
毛深い。胸毛とかも薄っすらある。
わりと乳輪がでかい。
「あの、あんまり見られると……」
ボルトが体をくねらせる。
「痛えっ!」
なぜかマリーにつねられた。
別におっぱいに見とれた訳じゃないぞ。マリーが痩せているのも無関係だ。
「エトー様、服の用意を。」
異様な迫力でマリーが睨む……思考を読まれたか?
「ああ、うん。わかった。そんなに睨むな。」
睨んでませんと抗議をするマリーに気付かない振りをして服を出した。
マリーに気を使って色気の無い格好にしよう。
シャツにロングスカート、革の靴。エプロンもいるな。
…………
「ありがとうございます。旦那様。」
「ああ、よろしくなボルト。俺はノボル・エトーだ。こちらはマリーとジョシュア。」
ボルトはマリーに向かい合って深々とお辞儀をした。
「よろしくお願いします。奥さま。坊ちゃま。」
「あら……どうしましょう? エトー様。」
なんかマリーが変だ。そっとしておこう。
「こちらがスケサンだ。仲良くしてくれ。」
ボルトはスケサンと向かい合って再びお辞儀をした。
「よろしくお願いします。スケサンさま。ボルトです。」
「ああ、スケサンだ。よろしく。私のことはスケサンで良い。私もボルトと呼ぶ。」
「はい、スケサン。」
……大丈夫そうだな。
予定外のこともあったが結果オーライだな。
「たまには触っても良いですよ。」
おひとついかが? とボルトが胸を寄せる。
「悪いな。どれ……」
と手を近づけたらマリーが目を三角にしていた。
「冗談だよ。」
「知りません。」
……まあ、何とかなるだろ。




