1話 プロローグ前編
処女作です。
俺の名前は江藤登39才、地方勤めの会社員だ。
家族は俺と妻と二人の子供たちの4人家族。
年収は550万円で月の手取りは32万円。
もう少し欲しいが地方でこれなら充分とすべきだろう。欲を出しても仕方ない。
長男の明は6歳で、来年小学生になる。
次男の等は5才で幼稚園の年中さんだ。
妻の恵子は38才で専業主婦をしながら、たまに近所のお菓子屋さんでバイトしている。
仕事は家電メーカーの下請け企業の営業だ。
一応、係長をしている。
自宅はローンでマンションを買った。
自家用車は俺の通勤用と妻の軽ワゴンの2台……少し無駄な気もするが、地方で車なしでは生活ができない。
車のローンも厳しいが、軽を買うときは恵子の実家から援助があり本当に助かったな。
俺は幸せだ。
大切な家族がいて、仕事も満足している。
年1回の家族旅行と、風呂上がりの発泡酒が楽しみの小さな幸せ。
小さいヤツだと言われようが、この生活をしっかりと守っていくのが俺の夢だ。
そう信じ、今日も出勤した……はずだった。
そして――
何の前触れもなく、出勤中の俺は「洞穴」になっていた。
あ、ありのまま今あったことをそのまま話すぜ。
「おれは出勤するために車を運転していたら、いつの間にか洞穴になっていた」
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も訳がわからない。
全く説明も記憶も何も無い、気がついたらこのありさまだ。
今の俺は文字通りの「洞穴」である。手も足も口も無い。
目もないはずだが何故か洞穴の中は知覚できる。
一体何が起こったのか?
俺は死んだのか?
家族はどうしている?
職場に欠勤の連絡は?
どうすれば家に帰れる?
子供たちとのお出掛けの約束はどうなる?
ローンの返済は?
俺の保険金は家族に届くのか?
実家の母親は心配してるだろうか?
混乱する頭に様々な事が浮かんでは消える。
しかし、家族に連絡をとる術は全く思いつかない。
何もかもが今では遠くに感じる。
俺は一体、どうなっちまったんだろう?
どうやったら元に戻れるのだろう?
誰か、教えてくれ……
………………
……かなりの時間が経った気もするが、洞穴の俺は食事はおろか睡眠すら必要ないらしい。
体が全く動かせないためか、様々な感情や思考が溢れだしてくる。
はじめはこの理不尽な状況を恨んだ。
どうすれば帰ることができるのか考え続けた。
しかし、長い長い時間は俺の気力を奪っていく。
もう死にたいと思った。
もう帰れないなら、誰か殺してくれと考えた。
そうして長い長い時を過ごした俺は――
いつのまにか、考えることをやめた。