少しの変化
日曜日の昼下がり。
日あたりの良い窓際に座り心地の良い椅子に、手には愛読書…私にとって有意義な日曜日の午後。
だというのに朝早くから起こされた私はとてつもなく不機嫌だ。
それも寝起きの私にあんな刺激の強いキスしやがって…
ーー本気で気をつけないと、俺悠奈のこと襲っちゃうかも?
ーーけっこう前から俺、悠奈のこと好きでさ
って何を思い出してるのよ!!
あんなの冗談…私のことを好きにするための口実に決まってる!
首をぶんって横に振って余計な雑念を外に追い出す。
…でもよく考えたら、莉緒ってけっこうかっこいい
そんなことを思ってしまい、思わず自分の頬を思いっきりはたく。
しっかりなさい、私
あんな意地の悪いやつ気にしてどうするんだ。
「ーー悠奈、入っていいか」
ノックと共に憎らしいあいつの声が聞こえる。
いつもの命令口調ではなく、私の機嫌をうかがっているような口調だ。
「…どーぞっ……」
あらかさまな不機嫌を剥き出しにしたまま応答する。
ドアが空いて、莉緒が神妙な顔で入ってくる。
私はちらっと一瞥して、読みかけの本に目を落とした。
「…何しに来たの??」
そっけなく言い放つと、沈黙がおりた。
さすがに気になって顔を上げると、あいつと目が合う。
「……今朝はすまなかった…その……」
「…もういいって言ってんでしょ」
「…まだ怒ってんじゃねぇかよ」
けっ、と吐き捨てるように言う莉緒。
「なにその態度!」
「ほら怒ってんじゃん」
「ーー怒ってない!」
ムキになって叫び、はっとして顔が熱くなった。
気まずくなって本に目をやり、ページの端を指でいじる。
莉緒が近付いてくる気配がした。
俯いた視界に、あいつのつま先が入る。
「…何赤くなってんの」
莉緒が言ったのが聞こえ、むっとして顔を上げる。
「……赤くなってないもん…」
「なってんじゃん」
ふっ、と莉緒が微笑んで、はりつめた空気が少し和らいだ気がした。
笑いながら莉緒が私の頬に向かって手を伸ばし、
…触れる寸前でハッとしたように引っ込めた。
えっ、と声を出しそうになって慌てて引っ込める。
莉緒が触ってこないなんて、珍しいにも程がある。
何言ってんの、いいじゃん、いつも触られたくなかったんだから。
それにしても珍しい。
もしかして誰かに注意されたのかな、だとしたらいい気味…
って、え?
「莉緒、顔…あかーー」
「っ…赤くない」
「嘘ーー」
「うるせぇな」
なんで
今照れる要素なんかなかったでしょう
もしかしたら…
「莉緒、あんた実は純粋なんでしょ」
「はっ!?急になんだよ」
「今朝のこと思い出して照れてるんでしょう?」
「あ!?んなわけ…」
言いながらもどんどん赤面する莉緒。
こんどは私がにやつく番だった。
「変態な割にはやっぱりちゃんと可愛いとこもあるんじゃん?」
「うるさい黙ーー」
「私は好きだけど?あんたみたいなやつ」
出会ったばかりに言われたセリフをそのまま返してやる。
仕返し成功だ。
「せっかく相手してやろうと思って来たのに…」
誤魔化したいのか、ぶつぶつと文句を言いながら部屋を出ていく莉緒。
撃退成功、か?
顔を見て1度も触れられなかったのは、これが初めて。
少し寂しい気がするのは、きっと気のせいだ。