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第一楽章5番

 トカゲが動かなくなったことを確認したリィンは、少年の方へと歩き出した。それはゆったりとした歩調で、先ほどまで巨大な機械トカゲと戦っていたとは思えないものだった。その様子を見ていた少年は、唖然とした顔でリィンに話かけた。

「あんた、一体何者なんだ?」

「えーと。何者と言われても、私は私としか言えないんだけど…?」

「…質問を変える。あんたのことを教えてくれ。俺は自分がどうしてここにいるのかも分かっていないんだ。今は少しでも情報が欲しい。」

 少年はリィンの返事を聞くと文字どおり頭を抱えたが、気を取り直したように質問を続けた。リィンは少年の反応を少し奇妙に思いながらも質問に答えた。

「そういえば、名前も言っていなかったわね。私の名前はリィン・カルベル。歳は十六歳。職業は探索者…ってここにいるんだしこのくらいは分かるか。」

「シーカー…?なんだそれ、聞いたこと無いぞ?」

「えっ!ダンジョンにいるのだからあなたも同業者じゃないの?」

 ダンジョンは危険な場所の為、ダンジョンと認定されるとそれが『ハズレ』だろうと探索者以外は侵入してはならないと規則で決まっている。ダンジョンの入り口には鍵がかけられ、探索者の端末がなければ開くことのないようになっている。そのためリィンには、この少年が言っていることが理解できないのだ。

「ちょっと待ってくれ。ダンジョン!?何の事だ!ここはどこなんだ?」

「あなた、少し落ち着きなさい!だいたいこっちは自分の素性を話したのよ。今度はあなたのことを話すことが筋ってもんでしょう?」

「ふざけるな!こっちは何がなんだか分かってないんだ!落ち着いてられるか!?」

「…いい加減にしなさい!」

 ゴンッと鈍い音が少年の頭から響いた。リィンが拳骨を少年にお見舞いした音だ。

 あまりにも痛かったのか、少年は涙目で頭を押さえている。しかしそんなことは気にせず、リィンは少年に向かって話かけた。

「あなたの事情なんて知らないわよ。ただ、少し冷静になれって私は言いたいだけ。そうしないと私はあなたと話すらできないんだから。分かる?」

 リィンが呆れたように言うと少年もようやく我に返ったようで、恥ずかしそうに俯いた。その様子を見ながら、少年が落ち着くまでしばらく待つことにした。この少年は何者なのだろうと思いながらリィンはぼんやりとこれからのことを考えた。




 そのため彼女は気が付かなかった。

―倒した筈のトカゲの目が怪しく光ったことに…。




 命は先ほどの拳骨のおかげで冷静さを取り戻したと同時に、恥ずかしさでいっぱいになっていた。自分が激しく取り乱していたところなど知り合いが見たら、おかしくなった等と言われかねない。目の前のリィンという名前らしい少女は、どうやら命の方へから話をするまで待ってくれるようだった。

 とりあえず自分がどうしてここにいるのかを命は考えることにした。記憶を遡り最後に自分がしていたことを思い出そうとするが、記憶に靄がかかっているようで上手くいかない。十七歳の高校生だということ、親の顔、自分の持っている知識というものは思い出すことができる。しかし自分が何をしていたのかという行動について、上手く思い出せないということが分かった。

 ならば自分が彼女に言えることは名前と年齢、さらに学生ということ位だろう。そう結論付けたところで、リィンに対して自己紹介しようと命は口を開く…ことができなかった。


『ガーディアンテキセイテスト、プログラムシュウリョウシマス。』


 突然、倒した筈のトカゲから声がした。その声はトカゲと戦う前にしたものと同じもののようだ。

「何!?」

 リィンが命を守るようにトカゲの残骸に対して、獲物を構えて向き合う。そしてトカゲの様子を観察する。

 トカゲの目は怪しく光っており、その上体を起こしてこちらを見ていた。けれどもそこから殺意は感じられず、彼女は困惑した。

『ガーディアンテキセイテスト、クリア。ニンショウ、シマス。サラマンダ、ゲキハコタイ、テキセイアリ。』

「…今度は何?」

 声はリィンの呟きに答えることなく話続ける。

『オメデトウゴザイマス!アナタハガーディアントシテ、エラバレマシタ!』

 声がそう言うと、トカゲの前に不思議な紋章が浮かび上がった。盾に茨が絡み付いたようなデザインのそれは、次第に収縮し小さな光になった。そして目にも止まらぬ速さでリィンに向かって飛んだ。

「えっ!」

 リィンも命もあまりに突然の出来事に呆然としていた。そして気が付いた時には、リィンの中に光が飛び込んだ後だった。

「おい!」

 光が飛び込んだ瞬間、リィンの身体が大きく傾きその場に倒れた。命は箱から出ると急いでリィンに駆け寄り、ぐったりとした様子の身体を軽く起こした。

「大丈夫か!しっかりしろ!」

 命は大声で声をかけたが、リィンは気を失っているようで目覚める様子はない。

「一体どうなっているんだ…。」

 命は途方に暮れ、小さな声で呟いた。


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