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第一楽章4番

 元々リィンがここ『名もないダンジョン』に来た理由は、かなり馬鹿らしいものである。

 リィン・カルベルは、ある町で探索者としての登録を終えた後、一緒に探索するための仲間を探していた。基本的に探索者は二人、もしくは三人以上のチームで動くことが多い。その方が一人で探索するよりも、戦術が広がることやダンジョン内での生存確率が上がるためである。しかしリィンが仲間を探しに行った集会場は、皆パーティやギルドとしてチームが成立している者しかいないところだった。

「あの、私を仲間に入れてもらえませんか?」

「あぁ、ウチは間に合っています。」

「あ…そうですか。」

 こんなことを繰り返すこと数時、リィンはとあるギルドに声をかけた。

「あの、私を仲間に入れてみませんか?自慢ではありませんが、腕は結構立つ方だと思いますよ。」

「ん?」

 リィンは知る由もなかったが、この時声をかけたギルドは余り評判が良くないところだった。とはいえ彼らはぽっと出の新人をどうこうしようという気はなく、リィンに対して何も興味を持たなかった。

「あー…ギルドのメンバーは間に合ってるんで。」

「まあ、俺達と遊びたいっていうなら話は別だけど?」

「おいおい、胸もろくにないただの小娘だろう?お前こういうの好みだっけ?」

 ワハハと彼らは少々下品に笑いあった。堂々とされたセクハラを聞いていた周囲の人は、少し眉をひそめたが「またあいつらか…。」と呟くだけでそれ以上関心を持たなかった。しかし言われた少女の方の反応は違った。

「ただの小娘とは随分ご挨拶ね。そこまで言うなら試してみる?」

 そう言うと、リィンは背中の獲物に手を伸ばした。彼女はセクハラされたこと(気が付いてすらいない)よりも、自分の実力を馬鹿にされた方が許せなかったのだ。彼女は挑発的に笑ってみせた。彼らも彼女の様子が変わったことに気が付いたが、集会場で獲物を抜くという愚かな選択はしなかった。

「ほう、そこまで言うなら実力を見せて貰おうか。まあ、ここで戦う訳ではない。君はこの先にあるダンジョンを知ってるか?」

「いいえ…?」

 武器を抜いて戦う訳でないと言われ、リィンは渋々獲物から手を話した。しかし、話の流れが見えてこない。おそらくリーダーと思われる男が話を続ける。

「ならばそのダンジョンに行って、何でもいいから素材を採って来なさい。実力があると判断すれば、うちに入れてやっても良い。まあ、無理だと言うなら辞めても構わないが…。」

「あら、そんなことでいいの?ちゃっちゃと採って来てあげる。今に見てなさい!」

 もしもリィンがこの町に来たばかりでなければ、それが『ハズレ』のダンジョンであることを知っていただろう。彼らも彼女がこのことを知っているのであれば、また話を変えていただろう。

 つまり何が言いたいのか。彼らは何も知らない彼女を役に立たないと判断した。その結果、リィンは体よく追い返されたのである。

 少し考えればわかりそうなことだか、リィンは考えることが苦手、むしろ考える前に突っ走って行くタイプであった。結局ダンジョンに行くまで、追い返されたことに全く気が付かなかったのである。ダンジョンについてからも負けを認めるのが嫌で意地を張り、今に至るという訳だ。






 リィンは警戒しながらも困惑していた。ここは『ハズレ』のダンジョンである。『ハズレ』のダンジョンには怪物はおらず、素材も採れない。探索者の中では常識である。このダンジョンのことを知らずに来たとはいえ、彼女も探索者のはしくれだ。それくらいの判断はついている。

 だが実際問題、目の前に怪物がいるという事実は間違いない。リィンは頭を切り替え、この怪物をどうするか考えることにした。

 探索者一人ひとりに渡される携帯端末(探索者証明書も兼ねている)を取り出す。端末を怪物に向け、分析アナライズをかけつつ、過去の情報に接続アクセスする。

 怪物は『蒼の迷宮』に数多く生息する機械マシンタイプ。動物を象ってある。大きさは大型に分類されると思われる。過去に目撃例、無し。名称その他、不明。

前例データ無し、か…。面白いじゃない!」

 そう不敵に笑うと、端末をしまい機械のトカゲに駆け出した。




「おい、危ないんじゃないのか!?」

 少女がガラケーのようなものを機械のトカゲに向けたかと思うと、突如槍を持ったままトカゲに向かって走り出した。命は思わず叫んだが、少女には聞こえなかったようでそのままトカゲに突っ込んで行く。トカゲも彼女に気が付いたようで、機械仕掛けの巨大な尻尾を彼女目がけて降りおろした。

「逃げろ!」

命が叫ぶが、トカゲは関係ないと言わんばかりにその尻尾を床にいる少女に打ち付けた。尻尾が打ち付けられた場所とその周辺の床が抉れ、そこから土煙がたった。それを見て、命は少女の死を覚悟した。

 数秒後土煙が晴れ、そこには無残な姿になった少女が発見される…筈だった。

「…えっ?」

 しかし、そこには少女は居らずただ抉れた床があるだけだ。トカゲも心なしかうろたえているように見える。

「どこを見ているの、トカゲさん?」

 けして大きくはない、しかし凛とした少女の声が聞こえた。命が声のした場所を探すと、トカゲの背中に堂々と立っていた。

「次はこっちの番かしら?」

 そう言うと槍を上段で構え、軽く跳躍(したように見えるが、実際にはかなり高く跳んでいる)して思い切りトカゲの頭に槍を突き刺した。突き刺さった場所からそのままの勢いで斜め下まで槍を振り抜き、トカゲの頭を切り裂いた。

『ガ、ガガガ、ガアァアァァー!』

 まるで怒りの咆哮だと言わんばかりに声(と表現するのが適切かどうかわからないが)を上げ、口を大きく開き、そこに光を集めた。そして、

「遅い。」

 いつの間にかトカゲの懐にいた少女が、手にした槍を真上に突き上げた。トカゲは大きく仰け反り、そのまま轟音を立てて倒れ伏し動かなくなった。

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