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第一楽章3番

「人間がいる…!?あり得ない!」

 世界では、未だに新たなダンジョンが発見されることがある。リィンが今いるこのダンジョンが発見されたのも三年前の話だ。そしてダンジョンが発見されれば、探索者協会の方で腕の良い探索者を調査部隊として派遣する。

 さらに言えば、今までダンジョンの中で『人型』の怪物は確認された試しがない。そのぐらいのことは、探索者ならば新人でも知ってることだ。

 しかしいくら否定しようとも、リィンの目の前に人が眠っているという事実は変わらない。

「どうしよう…。」

 リィンは単独で行動している。つまり今、頼れる人がいないのだ。取り敢えず彼女は、今目の前で眠っている少年をじっくりと観察することにした。

 歳の頃はリィンと同じか一つ二つ上、髪の色は漆黒。瞳は眠っているため不明。ゆっくりだが、胸が上下しているため、生きていることが分かる。

 服装は変わっており、黒の見たことのない型をしている。襟が立っている上着の下に、フードが付いた薄手の長袖の服。ズボンも(おそらく上着と同じ素材なのだろう)黒い。靴は白い紐靴(ただし素材は余り見かけない)。

 しばらく観察して、リィンは一つの結論にたどり着いた。

「…怪しい。」

 もしかしたらこの少年は探索者で、自分よりも早くこの隠し部屋にたどり着いたこの探索者が、自分のような人間をおちょくるためにここで眠っているのではないのか、と。

 …思い込みが激しい彼女の頭の出来は、とても残念なものであった。

 そんな残念な結論に至った彼女は、人をおちょくって馬鹿にしている(と勝手に思っている)少年を叩き起こすことにした。

「ちょっと!起きなさい!人を馬鹿にするのも大概にしなさい!ねぇ、聞いてる!?」

「―ん…?」

 少年の目がうっすらと開く。色素の薄い灰色の瞳がリィンを見つめる。焦点があっていないのだろう。ぼんやりとした様子で目を瞬かせ、数秒ほど沈黙。そして、

「あんた、誰?」

 やや間の抜けた声が少年から発っせられた。






 少年、神宮命ジングウミコトはあらゆる面で少々変わっていた。彼の両親は研究者(どんな研究をしているのか、命にはわからない)であり、彼もまた両親の愛情という名の英才教育を受けていた。普通の人よりも賢く、多くのもので優秀な成績を納めていた。まさに天才というにふさわしい人間になった。


 ―そして、天才に有りがちな欠陥も持っていた。


 彼は余り物事に執着しない。興味が湧かないというべきだろう。周りが楽しんでいても馴染めない。常につまらなさそうにしている。そのため周囲に馴染めず、浮いていた。

 本人はそんなことさえどうでも良かった。

 彼の将来を心配する周囲を余所に、命はのびのびとマイペースに育っていった。

 そんないつもと変わらないつまらない日々を送っていた、筈だった。






 命は今までの人生で一番混乱していた。なぜなら自分が今見も知らぬ場所におり、目の前には全く知らない少女がいたためである。少年は自分の記憶を呼び起こしてみるが、こんな場所記憶のどこにも存在していない。それどころか、自分が最後に何をしていたのかすら思い出せないのだ。

 気だるい身体を気合いを入れて必死に起こし、目の前の少女に疑問をぶつけると困惑され、挙げ句の果てに、

「聞きたいのはこっちよ。何であなたダンジョンの中で眠っていたの、馬鹿にしているの?」

等と初めて会った少女に突如罵倒されたら、誰だって困るだろう。彼はどうして自分がここにいるのかすら分かっていないのだ。

「あの…、」

 ダンジョンって何?という言葉は出なかった。突如、うるさいなんてレベルではないサイレンの音がしたからだ。

「なっ、何?」

 目の前の少女もうろたえている。彼女にもわからないことが起こっているようだ。

『ガーディアンテキセイテスト。プログラム、ジッコウシマス。』

 何処からか、機械音声が聞こえる。どういう意味と問いかける前に部屋全体が揺れた。

「地震!?」

 思わず少年が叫ぶ。少女の方を見ると、険しい顔で別の方を見ていた。しかも、穂先の大きな槍を手にしてである。

 槍って銃刀法違反なのでは?と疑問には思ったものの、あまりにも自然に武器を構えている為、口にはせず押し黙った。何より構えが様になっており、場違いにも格好いいとさえ思っていた。


 ―って俺は一体何を考えている!?


 命は自分の脳裏に浮かんだ考えを、首を振ることで否定した。そして、今はそんなことを考えている場合ではないと思い直した。未だに少女は警戒を続けているのだ。

 一体何があるのだろうと思い、少年も少女の見ている方を見て、思わず悲鳴をあげそうになった。



 ―視線の先にはこちらを睨んでいると錯覚するほどの威圧感を持った、機械仕掛けの馬鹿みたいに大きなトカゲがいた。

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