第一楽章2番
「一体何なの?…何、この部屋?」
リィンが痛む体を起こして辺りを見回すと、部屋の全貌が分かった。
―真っ白な部屋だったのだ。
『蒼の迷宮』の名に似つかわしくないほど真っ白な部屋。染み一つついていない壁や床。当然窓はなく、息が詰まりそうな閉塞感がリィンを襲った。
リィンはしばらく無言で部屋を見回していたが、ふとあることに気が付いた。
「あれ、何?」
よく見ると、部屋の中央に真っ白な箱があった。大きな長方体のそれには、手を掛けられそうな窪みがあり、おそらく箱を開けることができるのだろうと推測できた。
リィンは迷うことなく箱に近づき、戸惑うことなく窪みに手を掛け、躊躇いなく箱を開けた。彼女は、
(新発見間違いなし!)
という考えで頭がいっぱいだった。罠があるという可能性も考えず飛び込んで行くのは、彼女がまだまだ未熟である証なのだが、ここにそれを指摘する人間は残念ながら居なかった。
箱の蓋が開きリィンは中を覗こうとした。が、それは阻まれた。箱から溢れ出た白い霧によって。
「キャッ!」
思わず距離をとり、背中の槍を抜く。構えて臨戦態勢をとる。霧はしばらく箱から溢れていたが、その後薄れ霧散した。リィンもしばらく警戒していたが、毒霧でもないようだと分かると構えを解いた。
「何だったの、一体…?」
今度は警戒しながら箱に近づく。手には槍を持ったままである。足音も立てず静かに箱のそばに着いた。恐る恐る箱の中を覗き、中にあったものに対して、彼女は驚愕で眼を見開いた。
「―に、人間…!」
そこには、死んだように眠っている一人の少年がいた。
―まるで、何かに祈りを捧げているように…。
この出会いは、探索者…リィン・カルベルのこれからの運命を、大きく変えることになる。