知ること
次の日から、バンとライの小さな勉強会が始まりました。
時間はライの仕事が終わってから、バンの昼休みが終わるまでの数分間だけです。
絵本は1日1ページずつ位しか進みませんでしたが、ライはとても楽しそうでした。そんなライの姿を見て、バンは勉強を教えるのが楽しいと感じるようになりました。
そして、二人の勉強会が始まって一ヶ月が経つ頃。
「しあわせ、っていうのは、じぶんのすぐそばに、あるんだね。チルチルと、ミチルは、ながいたびのすえに、ようやく、そのことに、きづきました。・・・終わり!」
「終わったなぁ!読めたじゃんか!」
「ありがとう」
とうとう「青い鳥」を使った勉強会が終わりました。しかし、ライはもっといろんなことが知りたいと思っていました。バンも、楽しそうに自分の言葉を聞いてくれるライにいろんなことを教えたくなりました。
そこでバンはライに、自分が授業で習ったことを教えてやることにしました。
「これは、こうやって解くと早いんだ」
「あぁ、そっか!そしたら、この計算しなくても大丈夫なんだ」
これは、バンにとっても良いことがありました。ライに教えることで復習になり、学校の成績が上がったのです。さらに、ライに教えるという目的ができたため、バンは嫌いな勉強も一生懸命に受けるようになりました。
ある日、バンの成績が上がったことに喜んだ父親がバンに聞きました。
「最近、成績が上がっているじゃないか。やっとやる気になったか?」
「うん。実は、新しく出来た友達に勉強を教えているんだ。そうしたら、俺ももっとべんきょうしなきゃって思うようになった」
友達に勉強を教える暇があったら、自分の勉強をしろと言いたい父親でしたが、実際バンの成績が上がったのですから、結局何も言いませんでした。しかし、その代わりに、バンの友達というのに会ってみたいと思いました。
そこで父親は、バンの昼休みの時間を見計らって、実際に学校に行くことにしたのです。
「これが、この意味。で、こっちじゃなくて、この意味で読むと・・・」
「あぁ、そうか!僕、最初の意味で考えていたから、意味が分からなかったんだ。さすがバン」
そこには、リアカーの上に腰掛けて、楽しそうに本を見ている二人の姿がありました。汚れた私服を着ているのが、新しい友達でしょう。バンの持っている辞典を使って、目をキラキラさせながら教科書を読んでいます。
国に残る身分や貧富の差に常に疑問を抱いていた父親は、見た目や境遇にこだわらないバンの姿に満足して、そのまま帰っていきました。
「バンも、上の立場になる人間として、ちゃんと育っているな」
父親がそんなことを考えながら、二人の様子を見ていたとは知らずに、バンとライは時間が来るまで教科書の文章を飽きることなく読んでいました。