06どうでもいいけどコイツらめっちゃご近所さんだな
学校に着いたらどうなるのか、考えてみよう。
セーコは隣のクラスだし、常識もわきまえている方だ。たとえ一人の男を巡って戦争しようとか言ったり、お前に人権はねぇ!とか言ったりしても、全ては冗談なのだ。そうなのだ。そうだよね?
まあ、セーコに関しては信頼している、という言い方は正しいのかわからないが……。とにかく自己保身に長けたやつだから悪い注目の集め方はしないだろう。
問題はルキアだ。
アレは絶対常識とかわきまえないタイプだろう。てか既に前科一犯なんだよなぁ(不法侵入)。
そもそもルキアに関してはどこのクラスかも知らないし、警戒しようにも情報が少なすぎる。つまり「謙太は私の嫁よ(要約)」的なことを言って周囲を混沌に陥れる可能性大……!!
幸いここはまだ通学路。まだ……まだ僕の学校生活は守れる!!
まずは協力を仰ぐために少し急ぎ気味に歩くセーコの肩を指でつついた。
「……なぁ、セーコ。僕と契約して魔女にならない?」
「あんたに自殺願望が有るなんて初耳だわ」
「ちょっとは聞く耳持とう!?」
僕の指が触れた肩を手で払いながら絶対零度の視線を向けてきた。
……信じられ無いだろ。これで好感度MAXなんだぜ。
「と、とりあえず話を聞け。な?」
「………あんたがそういうこと言う時って大抵ロクでもない事頼むときでしょ。ていうかなんで魔女なのよ
普通こういうときは魔法少女でしょあたしがそんなに老け顔って言いたいワケ!?」
叫びながら私めの頬を鷲掴みしないでください……。ていうか力つよすぎない?息が止まっちゃうんですけど!!
「お、おひふへ!かふいじょーふだ!」
「当たり前よ!もし本心だったら二度と冗談を言えないようにしてやるんだから!」
うっかり言葉を失う(原文ママ)ところだったのか……。
次からは気をつけよう。あと今のうちにカラオケとか行っておこう。
どうやら僕がからかっていないことを理解したらしく、セーコはようやく手の力を緩めた。やった!シャバの空気だ!
げほげほと咳き込む僕の姿に若干の後ろめたさを感じたのか、セーコは少し申し訳なさそうにこちらの顔を覗き込んできた。
「な、なによそんなに咳き込んで……。もうっ。大丈夫?」
「なんとか生きてマフ…。」
荒く息を吸い込みながら、ふと、気遣わしげに覗き込んでくる顔を横目で見てみる。……思ってたよりもまつ毛長いな。肌も全体的に白いし、肩口に垂れる髪も艷やかで……。
ハッ!!見られている!!
反射的に顔を上げると、セーコが笑みをたたえながらこちらの目を見ていた。大きな瞳が細められ、横から上目遣いで覗き込まれる。オイオイオイ色っぺーなねーちゃん!!
視線が交わると薄い唇がたずらっぽく開かれ、くすぐったくなるような息を漏らしながら笑った。
「んふ。どーしたのよ?」
「べ、別にどーもしとらんわい!」
あっぶねーーー!!落ちるところだったわ!!
いやもう落ちてたよ!並みの男なら1ラウンド即KOだったよ!!何あの上目遣いヤバくなーい!?地味に体を寄せてきてたのも高ポイントですね(解説)
いかん!落ち着け、冷静になれ!!
いくら見目が麗しくても相手はゴリラの近親種。そうだ、思い出せ。街へ一緒に買物に出かけた時、特にナンパされたわけでも絡まれたわけでもない不良っぽい見た目の集団10名弱を己の拳のみで沈めたあの顔を。罪なき彼らを嬉々として蹂躙したあの悪魔のツラを!
……ふぅ、成し遂げたぜ。
冷静になった途端、自分の腕があらぬ方向に曲げられる。
「イダダダダ!イダイイダイギブギブ!!!」
「……いつになったら学習するのかしらね、このバカは」
「おまえのその先に手が出るところも……いつになったら直るんだ……?」
「アンタのバカが治れば自然に直るわよ全く……。で?」
「ん?」
で?ってなんだよ。腕を組んで仁王立ちの状態になったセー子が先を促すように顎をこちらへ向けた。
え、マジでなに。怖いんだけど。完全にカツアゲの構図でしょこれ。おらジャンプしてみろよって言われるやつでしょ。すいませ~ん、ちょっと膝に矢を受けてまして~。
「バカなこと考えてるんだと思うけど違うからね?ほら、もとはと言えばあんたからあたしに話しかけてきたんでしょ。用事、あったんじゃないの?」
「……おお、そういえば!」
「あたしもそんなに頭良いわけじゃないけど、あんた見てると心配になってくるわ……」
「ええいうるさい。……で、だ。単刀直入に要件だけ言うとだな。……学校での俺の生活を守るために協力してくださいませんかセー子様」
「唐突に卑屈ねあんた……」
うわキモ、拡散しなきゃ、とばかりにセー子は今の発言を録音したスマホをしまった。流れるような動作だったけどキミおかしいよ?なんで今の録音できたの?……コイツもしやずっとスマホの録音機能つけっぱなしだったな。おまえストーカーの素質、アリ(地獄のMSW)。ん?でもその場合狙われるのって、
「オッケー了解全然万事バンバンジーよ!!!」
「は?いや、ゴリラ語はちょっとわからないんだけど……」
「日本語も分からなくしてやろうか?」
「ワーイスッゴイウレピー」
言葉の意味はよくわからなかったけどとりあえず協力は取り付けたらしい。何かが頭の中で警鐘を鳴らしていた気がするけど気にしない。ついでに恐怖政治にも抵抗しない。
「まああたしとしても学校で彼女に好き放題されるのは本意じゃないしね。ちゃんと守ってあげるから頼りにしてよ、ケン」
「ウホッ、ウホウホホ」
「オーケー人間。今すぐ依頼を完遂してあげるわ。私の手で守ってやる!!」
「イヤアアア!待ってお姉さんゆるして!全然言動が噛み合ってないから!」
「逃げるなっ……待てやゴルアアアアアアア!!!」
とても女性らしからぬ雄叫び声を背に、僕はひたすら走った。だって僕にはわかっていたから。追いつかれたらコロコロされちゃうゾ☆。
ちなみにルキアは僕がセー子に締め上げられていたあたりから立ったまま寝てました。もうツッコむ気も起きねえよ!
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