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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お年寄り達の談話

作者: 茉莉 清香

あら、いらっしゃい。

遠い所から良く来てくれたわね。

こんな所で立ち話もなんだから…さあ、中へ入って。



さ、どうぞ。この位しか出せないけれど。

お庭で取れた花やハーブで作ったお茶よ。

貴方の口に合えばいいのだけど。


それで、今日はどうしたの?


ああ、貴方と出会った頃の話?

懐かしい、あれからもうどれ位経つかしら…

あの時は私もまだ若かった…え?君はあの頃から変わらない…って?

フフ、嬉しい。そう言ってくれるのは貴方だけよ。

貴方も…あの頃から変わらないわね。

そうやってすぐ拗ねたり笑ったりする所とか。

その笑顔も…ああ、話がそれたわね、ごめんなさい。



貴方も知っての通り、あの頃私は恋人と一緒に街で暮らしていたの。

もうすぐ結婚する予定で、私はとても幸せだった。

毎日毎日、その日が来るのを指折り数えて待っていたわ。


それなのに…彼…婚約者は突然私の前から居なくなってしまった。


その後の事は貴方も知っているわよね。数日経って彼は発見された。

物言わぬ死体になってね。

背中から胸にかけての刺し傷が致命傷だったって。

私は…どうしても信じられなかった。


何故。どうして。そればかり頭に浮かんで…受け入れる事ができなかった。

だってそうでしょう?

どうして、彼が殺されなければいけなかったのか…私にはわからない、今でも。


犯人は、って?

あれからもう随分と経つけれど…未だに捕まっていないし、どこにいるのかもわからない。

もし見つけられたなら…私が………ごめんなさい、今のは忘れて。


貴方と出会ったのはその頃。

最初に出会ったのは…墓地だったわね。

覚えているかしら?


私は彼のお墓参りに行った時、貴方が先に来ていて…

貴方は彼の訃報を聞いて、墓参りにやって来たと言っていたわね。

彼とは遠い親戚だと言っていたけれど…


顔色が悪いわ、大丈夫?

…そう。大丈夫なら話を続けるわね。


でも…でもね、それっておかしいのよ。

そう、ずっと前から思っていたのだけれど。


彼の葬儀が終わってしばらくしてから、私は同年代の彼の妹に偶然出会ったの。

その時にふと、貴方の事を彼女に話したの。

そしたら彼女、何て言ったと思う?


「そんな人は知らない」


って。吃驚したわ。

その後彼女は、親戚や彼の友人知人も当たってみたようだったけれど……奇妙な事に誰も貴方の事は知らなかった。

貴方の名前も、特徴も…誰も知らなかった。


これは一体、どういうことなのかしらね?


貴方はずっと私の傍にいて、優しくしてくれていた。悲しみに暮れたあの時から今までの長い時間を良き友人として支えてくれた。

遠く離れた今でも手紙で私を励まし、こうして会いに来てくれる。

だから…貴方を疑いたくは無いけれど…


何故、今になってそんなことを…って?


それはね。貴方が何時になったら本当のことを話してくれるのか 待っていたから。

ずっと、ずっと……もう何十年も。

でも、そろそろ私たちも何時お迎えが来ても不思議じゃない年齢になってしまった。

だから、私は貴方の真実を知りたかった。

それだけのこと。

そう思うのはおかしいかしら?


だけど…もし、言いたくなかったら言わなくてもいい。

私も貴方の真実を知るのは怖い。良き友人としての貴方を知っているから、余計にね。


あら…そう、もう帰るの。

残念ね。貴方とこうして会えるのはもう無いかもしれないわね。

玄関まで見送るわ。


さようなら。今日はありがとう。

最後に、これだけ渡しておくわね。

貴方との友情の証に。

……お元気で。







──あれから数日が経ち、私の元に遠い国から彼の訃報が届いた。

最後は誰にも見取られる事なく、苦しんだ末に亡くなったらしい。


その翌日には彼からの手紙。

手紙には、彼の[真実]が記されていた。



「やっぱり…貴方が……」



私は手紙を読み終えると、震える手でそれを燃え盛る暖炉の中へと投げ捨てた。

きっと彼は、手紙を書いた後にあれを飲んだのだろう。こんな事になるとは知らずに。

私の庭に生えている紫色の花で作った特製のハーブティー。口にすれば死に至る。


その花言葉は…[復讐]。


感情とは裏腹に、私の目からは涙が零れた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ショートショートだと、口語体の文章が映えますね。久し振りにこういうの読んで勉強になりました。 [一言] 結果からみれば、真実をまだ知らない内に疑念だけで殺意を抱くようになった、というのが怖…
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