行くべき道
「古来より、人と龍は不可分であった。だが、長老を撃ち殺したという龍族の一方的な解釈により、その仲は裂けてしまった。以来数百年にわたり、人と龍は不毛な争いをしている」
龍族の神様であるムツヲノヌシノカミは、どんどん洞窟の奥の方へと歩いて行く。
俺は、瀕死の龍であるゲオルギウスより子供のタンニーンを一人前に育て上げると、古代の盟約により約束をした。
その場にいた、親を探している畿誡紗由里と共に、1年以上にわたり育ててきた。
そんな俺たちであったが、タンニーンの父親であるリンドヴルムが、俺たちがいた棄てられた村に来て、息子との再会を果たす。
それをきっかけにし、神が、俺たちに会いたいと言ってきたのだ。
ここまで連れて来てくれた五ヅ龍は、龍族の現族長であり、俺たちを半ば強制的に、神の前に連れてきたのだ。
急に明るいところに出たと思うと、かなりきつい上昇気流が俺たちを巻き込んだ。
「わっとと」
紗由里はあわててタンニーンの首につかまる。
「神よ、ここはどこなのですか」
「お前たちに会わせたい人達がいると言っただろ。ここから、その人達がよく見える」
そう言って、風の中に浮かんでいる石を俺たちの元へ引き寄せた。
「これを使え。その人達の元へ、お前たちを連れて行ってくれるだろう」
神が、残り一歩のところで風に乗ろうかという位置に、平然と立っていた。
「どういうことですか。その人達とは、いったい誰なんですか」
「その若娘が知っている奴らだ。お前の親は、実験に失敗した半面、成功もした。こちら側へこれたのだから。そいつらに無事会えたなら伝えろ。戦争は、とうの昔に終わった。今一度、戻れ。もしくは、死を賭け我に会いに来い」
神は最後の一歩を踏み出し、瞬時に姿が消えた。
「…この石で」
紗由里は、怖がっているようだった。
「でもさ、こんな普通のそこらへんに落ちているような石で、どうやってその人達を探せって言うんだろう」
タンニーンが、ひげを使って俺が持っている石を調べた。
「ここから下に降りるとしても、この風じゃ上に吹き飛ばされるだけだろうし。かといって後ろに戻ることもできないし…」
俺はいろいろ考えた。
だが、どうしても、この風に巻き込まれながらでないと、ここから出ることはできないようだ。
「行くしかなさそうだ」
タンニーンにそれから聞いた。
「飛べるか」
「もちろん」
タンニーンは心強い声で俺たちに言った。
「紗由里は」
「うん、大丈夫」
その目には、決意が漲っていた。
その人達のことを紗由里は知っている。
だが、俺はその人達のことを知らない。
タンニーンの体にしっかりとしがみつくと、勢いよく翼を広げ、風を受けた。
「石が…」
その風に入った途端、俺が持っている石が温かくなりだした。
「もうチョイ右側へ!」
俺はタンニーンにいろいろ言いながら、方向を決めた。
風に翻弄されつつも、あの洞窟の出口から数百メートルきたところで、どうにか安定飛行することができるような風に弱まった。
「こっちの方向だ」
周囲どの方向よりも、石が温かく感じる方向を指さして、タンニーンに教えた。
「分かった。着いたら教えて」
どうやってその人達のところへ着いたことを石が教えてくれるかは分からないが、問題は一切感じなかった。