もケポン争奪戦
日常のふとした違和感が、思いもよらない真相へつながるーー。
店内のちょっとした事件をめぐる、後味の爽やかなショートショートをお楽しみください。
目の前の商品棚に置いてあったもケポンのぬいぐるみが、一瞬目を離した隙になくなっていた。
あたりはもケポンを買いたい子供たちや大人の転売ヤーたちでごった返していた。販売開始時間前なので本来なら 誰ももケポンを手にしてはいないはずだった。しかし 中には そのルールを破って常に買うためのもケポンを既に手にしている者も少なからずいるのだった。
━━さて、問題は、僕は目を離した隙に突如としてなくなったもケポンのひとつの
行方なのだった。見たところ 僕の周囲には、もケポンを手にしている人はいなかったんだ。
さんの皆様の 予想通り これは誰かが万引きをしたと疑うよりないのだろうか?
午後1時の鐘が鳴った。行列が動き始めた。販売開始時間を過ぎたのだ。
僕が周囲を見回していると、目の前にいた小学生くらいの男の子が、パンパンに膨らんだリュックを大事そうに抱えて列を進んでいた。
「君、そのリュックの中身は……」
僕が声をかけると、男の子はギクッとして足を止めた。だが、駆け寄ってきた店員さんが笑いながら声をかけた。
「僕、さっきは迷子センターまでありがとうね。落としたぬいぐるみ、無事に見つかってよかったよ」
そう、店員の手には、先ほど棚から消えたはずの『もケポン』が握られていた。
【種明かし】
犯人は万引き犯ではなく、親とはぐれて泣いていた小さな子だった。
男の子は列に並びながら、棚にあったもケポンのぬいぐるみを「迷子の目印」として泣く子に手渡し、店員と一緒に迷子センターへ送り届けてあげていたのだ。
僕が一瞬目を離した隙に起きたのは、事件ではなく、一人の少年の小さな親切だった。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ギスギスした限定商品の行列というシチュエーションから、ちょっとした勘違いと心温まる結末を描いたショートショートです。殺伐とした空気の中でも、誰かの小さな優しさに気づけるような視点を大切に執筆しました。
少しでもほっこりしていただけたなら幸いです。また次の作品でお会いしましょう!




