悪役令嬢の継母に転生しました〜義娘が可愛すぎるので私が育てます〜
「……さま!奥様!どうなさいましたか?」
「えっ?」
一体ここはどこだろうか。さっきまで自宅の部屋でゲームをしていたはずなのだが。
(…えーと。天井にはいかにも高そうなシャンデリア。壁紙もなんかしゃれてるやつ。私の服装を見ても…ここは、日本ではないっぽいね。状況がよくわかんないし、目の前の人に聞いてみようかな)
「あのー、私って誰ですか?あと、ここはどこでしょうか?」
質問すると、目の前のメイドさんは今にも卒倒しそうな青い顔になった。なんで?
「お、奥様…!まさか、記憶喪失に…!?」
「まぁ…そのような感じですね。」
実際ここに関する記憶はゼロだったので、そう答える。すると、メイドさんは
「あぁーーーー!奥様がぁー!」
と悲鳴を上げた。あ、やばい。これ以上人が増えると説明がめんどくさくなる。
「大丈夫ですから!落ち着いてください!」
何度もそういうと、私の必死な顔に驚いたのかメイドさんが黙った。
「お、奥様…それでは、私のことも忘れてしまわれたのですか?」
「…すみません。分からないです。」
「そうですか…。それでは、改めて自己紹介させていただきます。私はリンです。奥様専属のメイドをさせて頂いております。」
なーるほど。リンさんね。
「あの、じゃあ私の名前はなんですか?」
「奥様は、マリアーネ・アーベントでございます。あなたさまは、アーベント公爵の妻となられたのです。」
ふーん。アーベント公爵ね…
アーベント公爵……え?
そこで私は大変なことに気づいた。
アーベント公爵って、あのゲームの悪役令嬢も同じだったような…!?
考え出すと、私の名前も聞き覚えがある。
私の頭のなかは高速回転し、一つの結論にたどり着く。
このままだと、この家は没落する!
**
ここはどうやら、私が前世でプレイしていたゲーム、 「聖女に女神の祝福を」の世界らしい。その名の通り、聖女が学園で攻略対象たちと仲を深めあっていく王道の乙女ゲームだ。
そして、そこで聖女に立ちはだかる悪役令嬢の名前が、アリアナ・アーベント。
悪役令嬢アリアナは、幼いころに母親を亡くし、父親が再婚した相手に嫌われる。おんぼろ屋敷に閉じ込められ、いじめられ、その鬱憤を晴らすかのように聖女に嫌がらせをするのだ。
最終的に聖女と結ばれた相手によって、アリアナは死刑か国外追放となるのである。
そして、アーベント公爵家はアリアナを生み出した家として王に咎められ、取り潰されることになる。
(…いやいや。そんなことある?)
そこまで思い出した私は思う。
(どーして!その悪役令嬢の継母に私が転生しちゃうのよー!)
アーベント公爵…ライド・アーベントは、前妻との仲が悪く、生まれたアリアナにも興味を持とうとしなかったらしい。前妻が亡くなっても悲しむ素振りさえみせず、「次の妻はどうしようか」とか言っていたとか。
(そもそも私もなんでそんな人と結婚しようとか思ったんだろうなぁ…前にこの身体にいたマリアーネさんの考えは分からない…)
結婚するときに、お互い条件を紙に書いて、その上で誓約書にサインをしたのだが、どうやらアリアナのことをライドが忘れていたらしく、私にそのことが伝わっていなかったそう。
急に現れたみすぼらしいアリアナに、マリアーネは怒り狂ったらしい。条件と違うとライドに詰め寄ったが、当のライドは知らんぷり。
そんな状況でも私が実家に帰らなかったのは、アーベント公爵家から渡された支度金を親が全て使ってしまったから。
この世界では支度金をすべて使った時点で、もう妻は実家に帰ることも、離婚することもできない。なんて不平等な…
そんなわけでこれから一週間後、この屋敷にアリアナがやってくる。この時点で私にできることは1つ。
アリアナを可愛がり、悪役令嬢にならないよう穏便に育てる!
私がいじめなければ、アリアナも聖女を憎く思うことは無くなるだろうし、なんとかなるはず!
そう決めた私は、ライドのもとへ直談判をしに行った。この屋敷でアリアナのことを知っているのはライドと私だけ。話すなら今だ!
「失礼します」
部屋に入るとライドが資料を読んでいた。
…はぁ。顔だけはいつ見てもお綺麗ですねぇ。にくたらしい。外見が良くても中身はさいあく…
ライドは資料から目をあげないまま言った。
「何の用だ」
私は緊張している胸を必死に落ち着かせた。ここが正念場。機嫌を損ねないように…
「ライド様。単刀直入に申し上げます。1週間後にここに来る、前妻との子どもを私に育てさせてください」
ライドはわずかに驚いたように目を見開いた。
「驚いた。どうしてお前がそのことを知っている?」
「そんなことはどうでもいいでしょう?あなたはアリアナのことを別にどうでもいいと思っていますよね?」
「まあそうだな。事実だ」
「ならば、乳母ではなく私が育ててもよろしいですよね?」
さあ、何と答えるか。
「……まぁいいだろう。好きにしろ」
「ありがとうございます。失礼致します」
後ろ手に扉を閉めた瞬間、私はガッツポーズをした。
(よし!良かったー緊張した…)
これでアリアナのことは私が権利を持つ。つべこべいわれても大丈夫なはず!
**
1週間後、アリアナが屋敷にやってきた。使用人たちはとても驚いていた。案の定ライドは何も伝えていなかったらしい。
そして、当のアリアナと言うと、何も聞かされずここにやって来たようで、困惑したように辺りを見回していた。
それに、身体のあちこちに叩かれたあとや、あざがあった。どうやらこれまで暴力を振るわれていたみたい。
(酷い…こんな小さな子供に)
とりあえず、屋敷のアリアナのために用意した
部屋に案内する。
「アリアナ。ここがあなたの部屋よ。何か不便があったら言ってね」
「……」
「アリアナ?」
何も言わないので名前を呼ぶと、はっとしたようにこちらを向いた。
「あ、あの…こんな綺麗な部屋に住ませていただいてもいいのでしょうか…」
「もちろん!ここはあなたが好きにしていいのよ。自由に使ってね」
そう言うと、アリアナは吹っ切れたように部屋のあちこちを見回し出した。
(まだ私や使用人たちに対する不信感は完全に拭てはいないみたいだけど、徐々に慣れてくれるといいな)
**
夕食の時間。アリアナが今まで食べていたものとは違ったようで、感激したようにいろんな物を食べている。
「アリアナとか言ったか。お前、マナーが全然なっていないな。」
(はあぁぁ…!?)
せっかくおいしい料理で雰囲気が和んでいたのに、ライドの爆弾発言で全てが台無しになった。
「ラ、イ、ド、さ、ま!?」
怒りたっぷりのドス声をお見舞いすると、さすがに気付いたらしく、気まずそうに目を逸らした。
そのまま謝ればいいのに、部屋から出ていった。
ライドって……人と話すのだいぶ苦手なんだよね…
アリアナは申し訳なさそうに肩をおとしていた。
「アリアナ。気にしないでね。あの人言葉がきついだけだから…」
「はい…すみません。上手く出来なくて…」
**
数日後、私はアリアナをお茶会に誘った。お茶会と言っても、私とアリアナの2人しかいないのだけれど。
「ここでの生活には慣れた?不便なことはない?」
「だ、大丈夫です。マリアーネ様」
「お義母さまと呼んでくれていいのよ?」
「で、ですが…」
「私、ずっとお義母さまって言って欲しかったの。おねがい!」
ダメ押しで手を組んでお願いポーズをすると、
可笑しかったようでクスクスと笑ってくれた。
「分かりました。お義母さま」
きゃあぁぁぁ!なにこの子!天使、天使なの!?
私はアリアナの笑みが可愛すぎて地面に倒れ伏した。あぁ、今すぐ写真に撮りたい。可愛すぎる。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめんね。ちょっと…アリアナが可愛すぎて」
冗談だと思ったのだろうか。
アリアナはまたも天使のように笑みを浮かべ、ニコッと笑いかけて来た。
「お義母さまは大人なのに、なぜか子供のようですね」
「え?そうかしら…」
自分では分からないが、アリアナが楽しそうなのでそれでいいか。
**
はぁ。
私は自分の部屋で重いため息をついていた。努力のすえあって、アリアナと私は仲良くなることができた。けど、ライドとアリアナはあの夕食以来、一度も顔を合わせていない。
アリアナはライドとも話したいと思っているようだけど、ライドの方がアリアナを避けているみたい。
「ようやく話したいと言い出しましたか。なんでもっと早く相談しないんですか?」
「だって…何を話せば良いか分からないんだ」
アリアナがここに来る前はどうでも良さそうだったのに、いざ来るとやはり仲良くなりたいらしい。
まあそうだろう。だってアリアナはめちゃくちゃ可愛いのだから。可愛くないとでも言い出したら、はっ倒してやろうかと思っていた。
「うーん。アリアナもあなたと仲良くなりたいとは言っていました。だから、あなたがちょっと気の利いた質問とかでもしてあげたら、きっとうちとけられますよ。」
せっかく相談に乗ったと言うのに、ライドはまだウジウジしている。
「で、でも…やっぱり不安だ。お願いだ。マリアーネ、ついて来てくれ。」
「お断りします。あなた、そんなことしてたらあっという間にアリアナは家を出ていってしまいますよ?」
少し脅しをかけると、慌てたようにライドは手をオロオロさせ始めた。
「そ、それは嫌だ!わ、分かった。アリアナと話してくる」
この人、氷公爵とか言われてるはずなんだけど。アリアナには嫌われたくないんだろうなぁ。
「では行ってらっしゃいませ。アリアナの部屋は東階段をのぼって右です。」
**
氷公爵。私はそう呼ばれている。私はライド・アーベント。由緒正しきアーベント公爵家の主人だ。
幼い頃から次期公爵として様々な教育を受けて来た。その事に不満を持ったことはない。良い成績をとれば父が喜んでくれる。
私は父に褒められたい一心で勉強を続けた。努力したおかげで、政務や貿易などには詳しくなった。が、幼い頃から同年代の子供と接してこなかったせいで、表情は厳しくなり、楽しいと思うことも無くなっていった。
父のすすめで一応結婚したが、妻となった人に興味を持つことは無かった。夫婦としてするべき事はしていたが、生まれた子供に愛情という物が生まれることも無かった。
**
数年経ち、妻が亡くなった。だが、悲しいは思えない。また新たな妻を迎えた。
だが、この妻というのが不思議な人物だった。
大人しい性格で、自分から行動することはないと聞いていたのだが結婚初日に私の部屋に乗り込んできたのだ。
そして、前妻との子供を自分に育てさせて欲しいと言って来た。これにはとても驚いた。子供のことは私しか知らないはずなのだが、彼女はどうしてそのことを知っているのだろう?
まあ断る理由もないので彼女に育てさせる事にした。
**
アリアナがやって来た。見るからにみすぼらしく、食事も摂っていないようだ。マリアーネは早速アリアナに屋敷を案内していた。
自分の子でもないのに、なぜあんなに優しくできるのだろう?
**
夕食の時間。アリアナを見ると、マナーが全くなっていなかった。フォークの使い方も分かっていない。
めんどくさいが注意をすると、マリアーネが急にこちらを睨んできた。そのまま「何をやっているんですか!」と私が怒られる始末だ。
こちらはまっとうなことを言っているのに何故睨まれなければならないのだ。結局気まずくなり、そのまま自室に帰ってしまった。
数日後。あれからアリアナともマリアーネとも会うのが気まずくなり、なるべく接触しないようにしていた。だが、先程アリアナとマリアーネが庭園でお茶会をしているのを見てしまった。
仕方ないと思う。私が向こうを避けていたから。
だが。
私も誘って欲しかった……!
2人はとても楽しそうに談笑していた。今更ながら、2人と話そうとしなかったことを後悔する。素直に謝ってもっと会話していれば、私もあの場にいれたのだろうか。
そう思い、マリアーネに相談する事にした。以前の私からしたら考えられない事だが、アリアナと1番仲が良いのは彼女だ。
**
なぜ…こんな事になった?
私はアリアナの部屋に向かいながら、重くため息をついていた。
相談にいったまでは良かったのだ。だが、マリアーネが思ったより行動的な人物で、今すぐ行ってこいと言われてしまった。自分としては、贈り物とかを用意してから行くつもりだったのだが…
というか気の利いた会話ってなんなんだ?もう少し詳しく教えて貰えば良かった…
そんなことを考えていたらアリアナの部屋に着いてしまった。ドアの前で息を整え、そっとノックをする。
コンコン
「アリアナ。いるか?」
数秒のあと、アリアナの驚いたような声が返って来た。
「ライド様?何か御用でしょうか?」
「あの…その。も、もし良ければ、私と庭で話さないか?」
扉の奥からは何も聞こえない。
やはり…私とは、話したくないのか…
そう思い、引き返そうとした時。
「ガチャッ…」
後ろから扉が開く音がした。
振り向くと、アリアナがこちらをはにかんで見つめていた。
「嬉しいです。お、お父様」
バキューン……!!!
その瞬間、ライドの胸にアリアナという矢がぶっ刺さった。
なんだ…!なんて可愛いんだ!こんな子を私は今まで放っていたのか!?
…マリアーネとライドは、知らぬうちにアリアナへの親バカ愛がそっくりと似ていたのである。
やはり、結婚相手である。
**
自室で本を読んでいた私のもとに、ライドがスキップしながら来た。
「マリアーネ!上手くいったぞ!アリアナと話すことができた!」
「良かったですね。アリアナはお父様と呼んでくれましたか?」
私がたずねると、ライドは満面の笑みで頷いた。
「あぁ!何度も呼んでくれたぞ!」
ちっ。アリアナから親と思われるのは私だけでいたかったのに。アリアナを独り占めしていたかったのに…ちょっと近づけすぎたか…
私は少し悔しく思ったが、何はともあれアリアナとライドは仲良くなり、私達は真の家族となることができた。
**
数年後、今日はアリアナが学園を卒業する日だ。あの日から、幾年もの年が過ぎた。アリアナが学園に入学しても、アーベント公爵家は取り潰されたりしなかった。そればかりか、アリアナは学園を首席で卒業した。
私とライドは卒業祝いにこれからアリアナと旅行へ行く。準備をしていた時、ライドが部屋へやって来た。いつになく真剣な顔をしている。
「マリアーネ。君には悪いことをした。契約の時にアリアナのことを言わず、一度も会いに来なかったことをすまなく思う」
私は少々驚いた。どうしてこんな急に…
実際転生した直後はライドに対する怒りも多少はあった。でも、今はアリアナと仲良くなれてとても幸せ。だから、ライドへの怒りは無くなっていた。
「ライド様。確かに、最初はあなたを憎く思うこともありました。ですが、アリアナと出会えたおかげで私は幸せです。だから、あなたには感謝しています」
「…そうか。私達は、アリアナからたくさんの幸せをもらっていたのだな」
「そうですよ。あの子は、きっとこれからもたくさんの人に幸せをあげていくはずです。
…私達の、娘ですもの」
ライドとマリアーネは、顔を見合わせて笑い合った。
END




