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第33話「不完全な武器」

 修理されたステッキを——振った。


 工房の裏。朝。授業の前。誰もいない空き地で。


 蒸気が——漏れた。しゅっ。先端から。弱い。以前の一割五分。パイプの接合が革紐だから、蒸気圧が逃げている。ルストの軸は微かに歪んでいる。歯車の回転にムラがある。


 振った軌跡に——光が残った。琥珀色の光。金色ではない。薄い。弱い。しかし——光っている。


 「……やっぱり弱いな」


 「当然よ。四人分の応急修理。新品の性能は出ない」


 「出なくても——戦える?」


 「試してみるしかないでしょ」


 試す機会は——すぐに来た。


 一時間目が始まる前。校庭の隅。地面が膨らんだ。ジャミング小型。歯車型。校庭の地下配管を食おうとしている。


 バックパックからステッキを取り出した。教室の窓から——クラスメイトが見ている。もう隠すつもりはなかった。商店街で人前で変身してから——「技術学校のメガネの子が変身する」という噂は街中に広まっている。


 ステッキを握った。感触が——違う。修理前と。軸が微かに歪んでいるから、握りの角度が変わっている。蒸気パイプの接合が革紐だから、振動の伝わり方がくぐもっている。手に馴染んでいたはずのステッキが——少しだけ、他人の道具のように感じる。


 しかし——中の歯車は同じだ。五つの歯車。初めて握ったときに回り始めた歯車。あれは変わっていない。


 メガネを外した。


 「ロードアウト——アイアン・ブート!」


 ギアシールが足元に——展開した。いつもより暗い。光が弱い。ステッキの出力が低いから。金色ではなく琥珀色の歯車が足元に広がった。


 装甲が——現れた。しかし輝きが鈍い。銀色が——少し曇っている。歯車翼の回転が遅い。蒸気の噴出が弱い。


 不完全な変身。不完全な装甲。不完全な——魔法少女。


 「魔法少女アイアン・ベル——起動!」


 声だけは——同じだった。


 小型ジャミング。歯車型。一体。中心軸に向かって——。


 飛べなかった。歯車翼の推力が足りない。地面を蹴って——走った。走って近づいた。初めての変身のときと同じ。飛べなかった頃と同じ。


 ステッキを構えた。歯車エンブレムが回転している。しかし回転速度が——遅い。


 「ギアシフト——フォーティファイブ!」


 光が——弱かった。琥珀色。金色の影のような色。ステッキの先端から放たれた光が、ジャミングの中心軸に触れた。


 がちん。矯正——成功。角度は変わった。しかし——崩壊しなかった。


 光が弱いから。矯正に必要なエネルギーは伝わったが、崩壊に必要なエネルギーが足りない。ジャミングは止まっている。歯車を食うのをやめた。しかし——消えていない。黒い歯車の影のまま、静止している。


 「もう一発——」


 二発目。琥珀の光。矯正の上書き。四十五度の角度をさらに強化した。ジャミングの黒が——少し薄くなった。しかしまだ消えない。


 「三発目——」


 三発目で——ギアの粉が残り少なくなった。翅の光が暗い。ギアも消耗している。


 「ギア——大丈夫?」


 「構わないで。撃ちなさい」


 三発目の光を——撃った。


 琥珀色の光の中に——金色の粒子が混じった。ギアの最後の粉。小さな光が——ステッキの光に乗って、ジャミングの核に届いた。


 核が——ほんの一瞬、金色に光った。そして——砕けた。


 ジャミングが散った。琥珀色と金色が混じった粒子が——朝の校庭に舞った。いつもより地味だった。夜空を金色に染めるような派手さはなかった。しかし——倒した。


 三発かかった。以前は一発だった。しかし——倒した。一割五分の出力で。不完全な武器で。


 変身を解いた。メガネをかけた。


 教室の窓から——クラスメイトが見ていた。拍手している子がいた。手を振っている子がいた。


 「……完璧じゃなかった」


 「完璧じゃなくていい。動けばいい。直ればいい」


 ギアが——小さな声で言った。あの日ベルが言った言葉を。


 「三発かかっても——倒した。それでいいの」


 ベルは手を見た。ステッキを握っていた手。不完全な武器を振るった手。


 一割五分。三発。琥珀色の光。


 不完全だった。しかし——戦えた。歯車は回った。魔法少女は——起動した。


 「授業に遅刻するわよ」


 「……うん」


 走った。教室に向かって。バックパックを背負って。メガネをかけて。


 不完全な魔法少女。不完全な武器。不完全な光。


 しかし——走っている。止まっていない。

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