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第18話「選択」

 「止める」か「直す」か。


 四人が図書室に集まっていた。放課後。カリンが設計図の写しを広げている。大時計の全体図。歯車の配置。七十度の噛み合い。


 ルストが腕を組んでいる。「大時計を止めて、歯車を全部交換する。それが一番確実だ」


 「止めたら街が止まる」ベルが言った。「百万個の歯車が全部止まる。真冬に——暖房が消える。水道のポンプが止まる。何日止まる? 全部交換するのに」


 カリンが設計図を見た。「主要歯車だけで——三百枚以上。ルストの鍛冶場で一日に作れる歯車が三枚。百日。三ヶ月以上」


 「冬を越せない。三ヶ月暖房なしでは——人が死ぬ」


 「なら止めずに直すしかない。しかし——回っている歯車を、回しながら交換するなんて——」


 「交換しない」


 ベルが言った。


 四人が——ベルを見た。


 「交換するんじゃない。——迂回させる」


 設計図の上に指を置いた。大時計の主軸。七十度で噛み合っている歯車列。


 「ここ。主軸の歯車列の横に——空間がある。蒸気管の点検用通路。前にルストが壁を壊して見つけた空間。ここに——新しい歯車列を作る」


 「新しい歯車列?」


 「四十五度の歯車列。主軸と並行に。本線の歯車が七十度で回っている横で、四十五度の歯車を回す。そして——切り替える。本線の流れを、新しい歯車列に流す」


 「……バイパスか」


 ルストが呟いた。


 「バイパス。本線を止めずに——補助路を作って、流れを切り替える。水道管の工事と同じだ。本管を止めずに——仮設管を通して、水を迂回させる」


 「水道管の工事なんかしたことないけど」


 「原理は同じ。歯車も水も——流れるもの。流れを止めずに、別の道を用意して、切り替える」


 カリンが手帳に書いている。「バイパス方式。本線停止なし。並行歯車列の設置。切り替え——」


 「切り替えの瞬間が問題ね」


 フェーダーが言った。


 「七十度から四十五度に切り替えるとき——回転数が変わる。慣性がある。急に切り替えたら——衝撃で歯車が砕ける。四十年前の先代と同じ失敗になる」


 「だから——同調が要る」


 ベルがフェーダーを見た。


 「切り替えの瞬間、旧回路と新回路の回転を——フェーダーの音で同調させる。同じ回転速度になった瞬間に切り替えれば——衝撃がない」


 フェーダーの目が——光った。


 「それなら——できるかもしれない。回転速度の同調。私の逆位相の応用で——旧回路を減速させて、新回路を加速させて、同じ速度に揃えて——」


 「そこで切り替える」


 四人が——設計図を見つめた。


 できる。理論上は。材料があれば。設計が正しければ。同調が成功すれば。四つの条件が揃えば——。


 「グロックさんが——まだ『やれ』と言ってない」


 カリンが言った。


 「準備だけする。グロックさんが決めるまで」


 ベルが言った。


 「でも——準備は全部終わらせる。『やれ』と言われた瞬間に——始められるように」


          ◇


 図書室を出た。夕方。時計塔の前。


 ギアの翅が——橙色に変わった。


 「近い。第一街区。——中型」


 「……話の途中だったのに」


 「ジャミングは空気を読まないわよ」


 走った。四人で。第一街区に。


 ジャミング中型。歯車型。商業地区の地下歯車を食っている。


 変身した。


 「ロードアウト——アイアン・ブート!」


 「魔法少女アイアン・ベル——起動!」


 中型。一人でも倒せる。しかし——今日は試したいことがある。


 「フェーダー! 逆位相じゃなくて——同調してみて!」


 「同調——? ジャミングに?」


 「ジャミングの回転速度と同じ速度の音を当てて——そこから減速させる。さっき話した切り替えの予行演習」


 フェーダーの目が——輝いた。


 オルガンの鍵盤を叩いた。ジャミングの回転に合わせた音。同調。同じ速度。そこから——少しずつ音を下げた。減速。


 ジャミングの回転が——フェーダーの音に引かれて、遅くなっていく。逆位相でぶつけるのではなく、同調してから減速。操る。


 回転速度が——落ちた。歯車を食うスピードが——ほぼゼロに。


 「ルスト!」


 ルストがハンマーで核を叩いた。回転が遅いから——狙いやすい。一撃。かん。核が砕けた。


 ベルはギアシフト・フォーティファイブを構えていた。しかし——出番がなかった。


 ジャミングが崩壊した。金色の粒子が夕空に散った。


 「……私、何もしてないんだけど」


 「あなたが作戦を考えたでしょ。それが仕事よ」


 ギアが肩の上で翅を畳んだ。


 フェーダーが指を見つめていた。「同調してから減速——できた。ジャミング相手でも。なら大時計の歯車でも——理論上は——」


 「できる」


 ベルが笑った。


 バイパスの核心技術——同調による回転制御。ジャミング戦で実証した。小規模だが——原理は同じ。


 「準備が——一つ進んだ」


 カリンが手帳に書いた。「バイパス技術実証。同調→減速→切り替え。ジャミング中型にて検証成功」


 四人が歩いた。夕方の第一街区を。


 準備は進んでいる。一つずつ。グロックが「やれ」と言う日まで。


 歯車が回っている。まだ七十度で。しかし——四十五度の歯車を、四人は作り始めている。

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