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異世界転生RTA 〜レベル1のままラスボスへ直行します〜  作者: たまユウ


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4/15

第4話 雑魚敵は「背景」と同じです

【00:02:50】


 サンドリア平原。

 王都の北に広がるこの広大な緑地は、本来であれば、駆け出しの冒険者が最初に訪れ、泥にまみれながら剣の振り方を学ぶ「チュートリアルエリア」だ。


 穏やかな風に草が揺れる中、俺は猛スピードで――もちろん、後ろ向きに――平原を爆走していた。


「はぁ、はぁ……っ!待て!待ってくれ勇者!」


 背後(俺にとっては進行方向)から、馬に乗ったアリアが必死に食らいついてくる。草原に出てから馬に乗ったらしい。

 彼女の乗馬スキルは一流だ。不規則な動きで跳ね回る俺に、驚くほどの精度で追従している。


「おい、前を見ろ!魔物だ!スライムがいるぞ!」


 アリアの警告通り、俺の視界の端――バック走しているので実際には通り過ぎる瞬間――に、プルプルと震える青い半透明の球体が映り込んだ。


 スライムだ。

 RPGの代名詞とも言える最弱の魔物。だが、レベル1の今の俺にとっては、その体当たり一発が致命傷になりかねない猛獣である。

 アリアが剣を抜きかけ、愛馬の手綱を引こうとする。


「私が惹きつける!貴様はその間に――」

「無視だ。止まるな」


 俺は速度を緩めることなく、スライムの横を駆け抜けた。

 その距離、わずか1メートル。

 スライムの体がビクンと震え、こちらに向かって飛び掛かろうとする予備動作を見せる。


「あぶな――」

「問題ない」


 俺は動じない。

 スライムが飛び跳ねた瞬間、俺の体は既にその「攻撃範囲」の外へと移動していた。

 スライムは空しく空を切り、着地と同時に興味を失ったように元の徘徊ルートへと戻っていく。


「な……!?今、襲ってこなかったのか!?」


 アリアが驚愕の声を上げる。

 襲おうとはしたさ。だが、奴の思考回路には「追跡距離」の限界がある。

 この平原のモンスター達は、初期位置から半径5メートル以上離れると、敵を見失って初期位置に戻る習性があるのだ。

 俺はその「見えない境界線」をミリ単位で把握している。


「言っただろ。雑魚にかける時間は1秒もない」

「だ、だが、経験値は!?魔物を倒さねば強くならんぞ!」

「必要ない」


 俺は短く答えた。

 RTAにおいて、レベル上げが必要になるのは「ボスの攻撃に耐えられない時」か「火力が足りずにタイムロスになる時」だけだ。


 当たらなければ防御力はゼロでいい。

 そして、火力が必要なら「強い武器」を拾えばいいだけの話だ。


「くっ、わけが分からん……!貴様は本当に勇者なのか……!」


 アリアの嘆きを聞き流しつつ、俺は平原を北上し続ける。

 道中、ゴブリンの群れや、巨大な蜂の魔物とも遭遇したが、すべて同様の手口でスルーした。


 奴らが気配に気づいて振り向いた時には、俺はもう彼らの「認識範囲」の外にいる。


 傍から見れば、魔物たちがまるで俺を避けているか、あるいは俺が魔物にとって「風景の一部」でしかないかのように見えるだろう。



 【00:05:20】



 平原を抜けると、道は険しい峡谷へと差し掛かった。

 両側を切り立った崖に挟まれた一本道。

 その先に、巨大な人工物が見えてくる。


「……あれは、『関所』か?」


 アリアが目を細める。

 そうだ。サンドリア王国と、その北に位置する「死の荒野」を隔てる国境の関所。

 高さ10メートルはあろうかという巨大な鉄の門が、冒険者の行く手を阻んでいる。


「勇者よ、止まれ。あそこは通れんぞ」


 アリアが馬の速度を緩めた。

 俺もバックジャンプをやめ、クルリと反転して門を見上げる。


「なぜだ?」


「あの門は、王国が認めたSランク冒険者か、正規軍の許可証がないと開かない魔法の門だ。当然、今は閉ざされている」

「……だろうな」


 知っている。

 正規ルート(シナリオ)では、ここで一度王都に戻り、武術大会で優勝して王様から「通行許可証」を貰わなければならない。

 所要時間、イベント込みで数時間はかかる大長編だ。

 そんな暇はない。


「迂回する道もない。大人しく王都に戻って、手続きを――」

「アリア。お前、何か『平べったいもの』を持ってないか?」

「は?」


 俺の唐突な質問に、アリアが眉をひそめる。


「平べったいもの……?なんだいきなり。というかどうして私の名前を知って…」

「さっきお前のことを呼んでいる衛兵がいたから名前は知った。平べったいものはなんでもいい。皿とか、板とか、盾でもいい」

「この一瞬でよく私の名前を覚えてたな…。まあいい、平べったいものだと盾ならあるが……予備の小盾が」


 彼女は怪訝な顔で、鞍袋から直径30センチほどの木製の小盾を取り出した。

 俺はそれをひったくる。


「借りるぞ」

「あ、おい!それで何をする気だ!まさか盾で門を殴り壊す気じゃあるまいな!?」

「そんな野蛮なことはしない。これは『鍵』だ」


 俺は巨大な鉄の門へと歩み寄った。

 門の表面はツルツルしており、取っ手一つない。魔法的な力で封鎖されているのが分かる。

 俺は門の左端、石造りの柱と鉄扉が接している「角」の前に立った。

 ここだ。

 俺の記憶が正しければ、この門の角には秘密がある。


「いいかアリア、よく見ておけ。これが最速の門の突破だ」


 俺は借りた小盾を胸の前に構え、それを門の表面に押し当てた。



 そして――

 ググッ……!

 


 俺は盾を門に押し付けたまま、全力で足を動かし、門に向かって走り始めた。

 当然、進まない。盾と門がぶつかり合い、俺の体はその場足踏みを繰り返すだけだ。


「……は?」


 アリアが呆れたような声を出す。「気でも触れたか」という目だ。

 だが、俺は止まらない。

 盾を押し込む角度を微調整する。

 右に3度。下に1度。


 俺はさらに体重をかけ、盾を門の継ぎ目にねじ込むように押し込んだ。


 ガガガガッ!

 不意に、手に持った盾が激しく振動した。


「う、うわっ!? なんだ、盾が……埋まって……!?」


 アリアが叫んだ瞬間。

 バシュンッ!!

 空気が弾けるような音がした。


 次の瞬間、俺の体は前方へとカッ飛び、分厚い鉄の門を「すり抜け」ていた。

 この角に盾を構えたまま突進し続けるとすり抜けられるバグが発生するのだ。


「――はい、通過」


 俺は門の向こう側――「死の荒野」エリアの地面に両足で着地した。


 振り返ると、そこには閉ざされたままの巨大な門。

 そして、門の向こう側から聞こえる、アリアのくぐもった絶叫。


「き、消えたあああああッ!?勇者が門に食われたあああああッ!?」


 彼女には、俺が門に吸い込まれて消滅したように見えたはずだ。

 俺は門の隙間から、向こう側に残されたアリアに向かって声を張り上げた。


「おーい、生きてるぞ。早くこっちに来い」

「は……?え、声が、中から……?」

「そっちからは開かないだろうから、俺が中から開ける」


 俺は門の裏側にある開閉レバー(通常は許可証を持った状態でイベントを経ないと触れない)を操作した。

 ギギギギ……と重い音を立てて、鉄の門がゆっくりと開き始める。

 完全に開いた門の先には、馬の上で腰を抜かしかけている騎士団長の姿があった。

 彼女は俺と、手にもった小盾と分厚い門を交互に見比べ、震える声で言った。


「き、貴様……今、何をした……?魔法か?いや、魔力の光などなかった……。ただ、盾を押し付けて……」


「『壁抜け』だ。薄い物体を壁に押し付けて、その反発力を利用して座標を壁の向こう側に弾き飛ばす。この世界の物理法則の穴だよ」


 俺はゲームのバグをそれっぽいように説明しつつ小盾をアリアに投げ返した。

 彼女は慌ててそれを受け取るが、まるで呪いのアイテムでも見るような目で盾を見つめている。


「物理法則の……穴……?そんなものが……」

「あるんだよ。完璧な世界なんてないからな」


 俺はニヤリと笑い、踵を返した。

 目の前には、荒涼とした大地が広がっている。

 空の色がどす黒く淀み、遠くで雷鳴が轟いている。

 ここから先は、適正レベル20以上の「中盤エリア」だ。



 【00:06:15】



 レベル1、初期装備。

 普通なら一歩踏み出した瞬間に死ぬ環境だが、今の俺には関係ない。

 魔王城へのショートカットルートは、この荒野の先にある。


「さあ、行くぞアリア。ここからは少し忙しくなる」

「ま、待て!待ってくれ!私の常識が追いつかない!」


 混乱する騎士団長を引き連れて、俺は再び荒野を走り出した。


 もちろん、後ろ向きで。




次話もよろしくお願いします!

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