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異世界転生RTA 〜レベル1のままラスボスへ直行します〜  作者: たまユウ


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14/15

第14話 2度目の魔王討伐です

【00:00:35】


 空間の裂け目から飛び出した俺は、そのままの勢いで魔王ガノンへと肉薄した。

 魔王が反応する。

 その巨体から、どす黒い魔力が噴き出し、全方位を遮断する「魔王の加護」が展開されようとしていた。


「愚かな……!我が加護は物理、魔法、あらゆる干渉を――」


 魔王が嘲笑う。

 さっき対面した時と同じように魔王が演説してる時は、普通は攻撃できない。

 この加護は、城壁をも砕く攻撃ですら傷一つつけられない、鉄壁の守りだ。


 だが、俺は止まらない。


 俺の手には、彼自身の魔力が込められた「魔王の大剣」があるからな。


「ガノン!この剣に覚えはないか!!」


 俺は叫びと共に、大剣を横薙ぎに振るった。

 狙うは結界ごと、魔王の首。


「!?な、なぜ余の剣を!?っ…、だが無駄だ!その剣であっても我が守りは――」


 ズンッ!!


 魔王の言葉は、衝撃音によって遮られた。

 俺が振るった大剣は、魔王の結界に触れることはなかった。

 いや、「触れる必要がなかった」のだ。

 先ほど城壁を抜けるために使った、空間を切り裂く力。


 それを攻撃に応用する。

 結界の「外側」から剣を振るい、結界の「内側」の空間ごと首を断つ。

 本来なら魔王の剣を持って魔王を倒すことなどあり得ない。だけど、ゲームでもないこの世界だからこそできる裏技。


「な……ッ!?」


 魔王の目が驚愕に見開かれる。

 自身の絶対防御が展開されたまま、何の意味もなさず、首筋に冷たい刃が走ったことに気づいた時――それは既に致命傷だった。


 ズバァァァァァァン!!


 空間ごと切り裂かれた魔王の首から、鮮血ではなく黒い霧が噴き出す。


 レベル1の俺の筋力など関係ない。

 空間そのものを断裂させるこの一撃に、防御力という概念は存在しないのだ。


「が、は……ッ……!空間を……断ったと、いうのか……?我が剣で……」


 魔王が喉を押さえ、膝をつく。

 あっけない幕切れ?いや、この世界はゲームとは違う。いくら魔王といえども致命傷を受ければ呆気なく倒せる。


「み、見事……だ……。名も知らぬ……ものよ」


 魔王は最期に俺を睨みつけ、そしてフッと笑ったように見えた。



 次の瞬間、その巨体は光の粒子となって崩壊した。



 【00:00:45】



 俺は崩れゆく魔王を一瞥もせず、玉座の裏側へとダッシュした。


 魔王の大剣を振るい、再び空間を切り裂く。


 黒い亀裂が開き、その向こうに白亜の壁が見える。


「さあエンディングだ!」


 俺は亀裂に飛び込んだ。

 一瞬の暗転を経て、俺は再び「封印の間」の静寂の中に立っていた。


 目の前には、清らかな泉と女神像。

 1周目と同じ光景だが、決定的に違うものが一つある。

 俺の右手には、青く輝く「女神の涙」が握られている。


「女神様!お待たせ!」


 俺は走りながら、ペンダントを女神像の台座にある窪みへと叩きつけた。


 カチリ。

 パズルのピースがハマるような、心地よい音が響いた。


 ――その瞬間。


『え……?』


 頭の中に、女神の戸惑った声が響いた。

 無理もない。

 彼女の感覚では、俺を「過去へ送り返した」直後、すぐに俺が「女神の涙」を持って帰ってきたのだから。


『ま、まさか……もう戻ってきたのですか?時間を……超えて?』


 女神像が、眩いばかりの光を放ち始めた。

 今度は拒絶の光ではない。

 世界を癒やし、邪悪を払う、真正なる「聖なる光」だ。


 正規ルートのクリア条件、完全達成。


『……ふふっ。まさか、こんなに早く世界を平和に導けるなんて…。貴方という人間は、本当に……』


 女神の声が、呆れを含んだ優しい笑い声に変わる。


『認めましょう。貴方のその速さと、結果への執念を』


 光が部屋全体を包み込む。

 視界のタイマーが、紫色の逆回転を止め、黄金色に輝き始めた。


 【00:00:55】


 タイマーがストップした。

 目標の1分切り達成。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 地響きが止まる。

 城の崩壊が止まる。

 魔王の残留魔力が、女神の光によって浄化され、美しい虹色の粒子となって天井の穴から空へと昇っていく。


 それは城下町からも、王都からも見えるはずだ。

 世界が救われた証だ。


「ふぅ……。終わった……」


 俺はその場に大の字になって倒れ込んだ。

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。


 わずか1分の出来事だったが、体感時間は何時間にも感じられた。だが、それと同時に達成感は格別だった。

 ノーミス、最短ルート、完璧なチャート構築。


 これぞRTAの醍醐味だ。


 その時だ。


「お、おい!何が起きたんじゃ!?ここはどこじゃ!?」

「待て貴様!国宝を返せ!」


 背後の「空間の裂け目」から、騒がしい声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには目を白黒させた王様と、槍を構えた近衛兵たち、そして――息を切らせて駆けつけてきたアリアの姿があった。

 俺が開けた「王都」と「魔王城」を繋ぐ次元の穴を通って、彼らもここまで来てしまったらしい。まだ時間もそこまで経っていなかったから消えてなかったのか。


 王様が、周囲を見回して絶句する。


「こ、これは……魔王城の深部!?それに、あの光は……伝承にある『浄化の儀』!?」


 アリアが、震える足で俺に近づいてきた。

 彼女の視線は、俺の足元に転がる「魔王のドロップアイテム」と、静かに輝く女神像を行き来している。


「魔王を……倒したのか?本当に……召喚されてから、わずかな時間で……?」


「ああ。言っただろ、すぐに戻るって」


 俺はニヤリと笑いサムズアップして見せた。

 アリアは口をパクパクさせた後、脱力したようにその場にへたり込んだ。


「……ははっ。でたらめな男だ。本当に、こちらの常識が何一つ通用しない」

「それが俺の『プレイスタイル』だからな」



『――称えよ、人の子らよ』



 部屋中に、女神の荘厳な声が響き渡る。

 王様たちが一斉に平伏した。アリアも慌てて騎士の礼をとる。


『この異界の勇者は、およそ考えつかない発想を用いて万策尽きたこの世界に「最速の救済」をもたらしました。その功績は、永遠に語り継がれるでしょう』


 女神の光が収束し、天井を突き破って空に巨大な虹を架ける。

 今度こそ、本物のエンディングだ。


「う、うおおおおおおッ!勇者万歳!サンドリア王国万歳!」


 次元の穴の向こうから、王都の国民たちの歓声も聞こえてくる。

 空に浮かぶ浄化の光を見て、世界中が平和の到来を知ったのだ。

 王様が涙を流して俺の手を握る。


「ありがとう……!最初は変な奴かと思ったがまさか魔王を倒してしまうとは……!これほど早く平和が訪れるなんて……!其方には我が国の半分を、いや、全てを与えても惜しくはない!」

「いや、国はいらない。元の世界に帰してくれればそれでいい」


 俺は立ち上がり、なぜか黄金に輝いているタイマーを見上げた。


 記録:55秒。


 前人未到の世界最速記録だ。

 アリアが、少し寂しそうな顔で俺を見ている。


「……もう行くのか?勇者よ」

「ああ。俺の仕事はここまでだ。あとはお前たちが平和な世界を作ってくれ」


 俺は彼女に手を振った。この時間軸だと出会って1分とちょっとだが、ゲームの頃から知っている俺としてはかなり感慨深い。


 突然、異世界転生した時はどうしたものかと思ったが、『サンドリア・クロニクル』の世界に来れたのは不幸中の幸いだったな。最高に楽しくてスリルある冒険だった。


 そうこうしていると女神の光が俺を包み込んできた。



 ――しかし



 俺の体は、光に包まれたまま、その場から一歩も動かなかった。


 ゲートが開かない。

 転送が始まらない。


「……ん?」


 俺は違和感を覚えた。

 女神像の光が、小刻みに震えている。

 まるで、何か「重いもの」に引っかかっているかのように。


『……あれ?おかしいですね。私の力が……拒絶されてる?』


 女神の困惑した声が聞こえる。

 その直後。


 ズズズズズズズズンッ……!!


 先ほどの城の崩壊とは比べ物にならない、地底の底から突き上げるような、重く、禍々しい地響きが世界を揺らした。


「な、なんだ!?魔王は倒したはずじゃ!」

「地震か!?いや、この邪悪な気配は……!」


 アリアが剣を構え、周囲を警戒する。

 

「……おいおい、嘘だろ?」


 俺は引きつった笑みを浮かべた。

 この現象には覚えがある。


 ゲームクリア後にのみ解放される、隠しダンジョンの解放フラグ。


 そして、そこに君臨する「裏ボス」の気配。

 崩れ去った魔王の玉座のさらに奥。


 今まで開いたことのない「奈落の底」から、魔王ガノンなど比較にならないほどの、圧倒的なプレッシャーが這い出してきた。


『サンドリア・クロニクル』には裏ボスも隠しダンジョンもなかったはずだが…。でもまあいい。



「どうやら、俺のRTAはまだ終わらせてもらえないらしいな」



 俺は苦笑し、再び「魔王の大剣」を構え直した。

 本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。






次が最終話です!

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