第14話 2度目の魔王討伐です
【00:00:35】
空間の裂け目から飛び出した俺は、そのままの勢いで魔王ガノンへと肉薄した。
魔王が反応する。
その巨体から、どす黒い魔力が噴き出し、全方位を遮断する「魔王の加護」が展開されようとしていた。
「愚かな……!我が加護は物理、魔法、あらゆる干渉を――」
魔王が嘲笑う。
さっき対面した時と同じように魔王が演説してる時は、普通は攻撃できない。
この加護は、城壁をも砕く攻撃ですら傷一つつけられない、鉄壁の守りだ。
だが、俺は止まらない。
俺の手には、彼自身の魔力が込められた「魔王の大剣」があるからな。
「ガノン!この剣に覚えはないか!!」
俺は叫びと共に、大剣を横薙ぎに振るった。
狙うは結界ごと、魔王の首。
「!?な、なぜ余の剣を!?っ…、だが無駄だ!その剣であっても我が守りは――」
ズンッ!!
魔王の言葉は、衝撃音によって遮られた。
俺が振るった大剣は、魔王の結界に触れることはなかった。
いや、「触れる必要がなかった」のだ。
先ほど城壁を抜けるために使った、空間を切り裂く力。
それを攻撃に応用する。
結界の「外側」から剣を振るい、結界の「内側」の空間ごと首を断つ。
本来なら魔王の剣を持って魔王を倒すことなどあり得ない。だけど、ゲームでもないこの世界だからこそできる裏技。
「な……ッ!?」
魔王の目が驚愕に見開かれる。
自身の絶対防御が展開されたまま、何の意味もなさず、首筋に冷たい刃が走ったことに気づいた時――それは既に致命傷だった。
ズバァァァァァァン!!
空間ごと切り裂かれた魔王の首から、鮮血ではなく黒い霧が噴き出す。
レベル1の俺の筋力など関係ない。
空間そのものを断裂させるこの一撃に、防御力という概念は存在しないのだ。
「が、は……ッ……!空間を……断ったと、いうのか……?我が剣で……」
魔王が喉を押さえ、膝をつく。
あっけない幕切れ?いや、この世界はゲームとは違う。いくら魔王といえども致命傷を受ければ呆気なく倒せる。
「み、見事……だ……。名も知らぬ……ものよ」
魔王は最期に俺を睨みつけ、そしてフッと笑ったように見えた。
次の瞬間、その巨体は光の粒子となって崩壊した。
【00:00:45】
俺は崩れゆく魔王を一瞥もせず、玉座の裏側へとダッシュした。
魔王の大剣を振るい、再び空間を切り裂く。
黒い亀裂が開き、その向こうに白亜の壁が見える。
「さあエンディングだ!」
俺は亀裂に飛び込んだ。
一瞬の暗転を経て、俺は再び「封印の間」の静寂の中に立っていた。
目の前には、清らかな泉と女神像。
1周目と同じ光景だが、決定的に違うものが一つある。
俺の右手には、青く輝く「女神の涙」が握られている。
「女神様!お待たせ!」
俺は走りながら、ペンダントを女神像の台座にある窪みへと叩きつけた。
カチリ。
パズルのピースがハマるような、心地よい音が響いた。
――その瞬間。
『え……?』
頭の中に、女神の戸惑った声が響いた。
無理もない。
彼女の感覚では、俺を「過去へ送り返した」直後、すぐに俺が「女神の涙」を持って帰ってきたのだから。
『ま、まさか……もう戻ってきたのですか?時間を……超えて?』
女神像が、眩いばかりの光を放ち始めた。
今度は拒絶の光ではない。
世界を癒やし、邪悪を払う、真正なる「聖なる光」だ。
正規ルートのクリア条件、完全達成。
『……ふふっ。まさか、こんなに早く世界を平和に導けるなんて…。貴方という人間は、本当に……』
女神の声が、呆れを含んだ優しい笑い声に変わる。
『認めましょう。貴方のその速さと、結果への執念を』
光が部屋全体を包み込む。
視界のタイマーが、紫色の逆回転を止め、黄金色に輝き始めた。
【00:00:55】
タイマーがストップした。
目標の1分切り達成。
ゴゴゴゴゴゴ……。
地響きが止まる。
城の崩壊が止まる。
魔王の残留魔力が、女神の光によって浄化され、美しい虹色の粒子となって天井の穴から空へと昇っていく。
それは城下町からも、王都からも見えるはずだ。
世界が救われた証だ。
「ふぅ……。終わった……」
俺はその場に大の字になって倒れ込んだ。
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
わずか1分の出来事だったが、体感時間は何時間にも感じられた。だが、それと同時に達成感は格別だった。
ノーミス、最短ルート、完璧なチャート構築。
これぞRTAの醍醐味だ。
その時だ。
「お、おい!何が起きたんじゃ!?ここはどこじゃ!?」
「待て貴様!国宝を返せ!」
背後の「空間の裂け目」から、騒がしい声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには目を白黒させた王様と、槍を構えた近衛兵たち、そして――息を切らせて駆けつけてきたアリアの姿があった。
俺が開けた「王都」と「魔王城」を繋ぐ次元の穴を通って、彼らもここまで来てしまったらしい。まだ時間もそこまで経っていなかったから消えてなかったのか。
王様が、周囲を見回して絶句する。
「こ、これは……魔王城の深部!?それに、あの光は……伝承にある『浄化の儀』!?」
アリアが、震える足で俺に近づいてきた。
彼女の視線は、俺の足元に転がる「魔王の冠」と、静かに輝く女神像を行き来している。
「魔王を……倒したのか?本当に……召喚されてから、わずかな時間で……?」
「ああ。言っただろ、すぐに戻るって」
俺はニヤリと笑いサムズアップして見せた。
アリアは口をパクパクさせた後、脱力したようにその場にへたり込んだ。
「……ははっ。でたらめな男だ。本当に、こちらの常識が何一つ通用しない」
「それが俺の『プレイスタイル』だからな」
『――称えよ、人の子らよ』
部屋中に、女神の荘厳な声が響き渡る。
王様たちが一斉に平伏した。アリアも慌てて騎士の礼をとる。
『この異界の勇者は、およそ考えつかない発想を用いて万策尽きたこの世界に「最速の救済」をもたらしました。その功績は、永遠に語り継がれるでしょう』
女神の光が収束し、天井を突き破って空に巨大な虹を架ける。
今度こそ、本物のエンディングだ。
「う、うおおおおおおッ!勇者万歳!サンドリア王国万歳!」
次元の穴の向こうから、王都の国民たちの歓声も聞こえてくる。
空に浮かぶ浄化の光を見て、世界中が平和の到来を知ったのだ。
王様が涙を流して俺の手を握る。
「ありがとう……!最初は変な奴かと思ったがまさか魔王を倒してしまうとは……!これほど早く平和が訪れるなんて……!其方には我が国の半分を、いや、全てを与えても惜しくはない!」
「いや、国はいらない。元の世界に帰してくれればそれでいい」
俺は立ち上がり、なぜか黄金に輝いているタイマーを見上げた。
記録:55秒。
前人未到の世界最速記録だ。
アリアが、少し寂しそうな顔で俺を見ている。
「……もう行くのか?勇者よ」
「ああ。俺の仕事はここまでだ。あとはお前たちが平和な世界を作ってくれ」
俺は彼女に手を振った。この時間軸だと出会って1分とちょっとだが、ゲームの頃から知っている俺としてはかなり感慨深い。
突然、異世界転生した時はどうしたものかと思ったが、『サンドリア・クロニクル』の世界に来れたのは不幸中の幸いだったな。最高に楽しくてスリルある冒険だった。
そうこうしていると女神の光が俺を包み込んできた。
――しかし
俺の体は、光に包まれたまま、その場から一歩も動かなかった。
ゲートが開かない。
転送が始まらない。
「……ん?」
俺は違和感を覚えた。
女神像の光が、小刻みに震えている。
まるで、何か「重いもの」に引っかかっているかのように。
『……あれ?おかしいですね。私の力が……拒絶されてる?』
女神の困惑した声が聞こえる。
その直後。
ズズズズズズズズンッ……!!
先ほどの城の崩壊とは比べ物にならない、地底の底から突き上げるような、重く、禍々しい地響きが世界を揺らした。
「な、なんだ!?魔王は倒したはずじゃ!」
「地震か!?いや、この邪悪な気配は……!」
アリアが剣を構え、周囲を警戒する。
「……おいおい、嘘だろ?」
俺は引きつった笑みを浮かべた。
この現象には覚えがある。
ゲームクリア後にのみ解放される、隠しダンジョンの解放フラグ。
そして、そこに君臨する「裏ボス」の気配。
崩れ去った魔王の玉座のさらに奥。
今まで開いたことのない「奈落の底」から、魔王ガノンなど比較にならないほどの、圧倒的なプレッシャーが這い出してきた。
『サンドリア・クロニクル』には裏ボスも隠しダンジョンもなかったはずだが…。でもまあいい。
「どうやら、俺のRTAはまだ終わらせてもらえないらしいな」
俺は苦笑し、再び「魔王の大剣」を構え直した。
本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。
次が最終話です!




