第13話 2周目はショートカットします
【00:00:00】
視界がホワイトアウトし、強烈な浮遊感が収まると、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
石造りの床に描かれた複雑な魔法陣。
周囲を取り囲む、ローブを纏った魔術師たち。
そして正面の玉座に座る、立派な髭を蓄えた初老の男――国王。
「おお!成功じゃ!異界の勇者よ、よくぞ我が召喚に応じ……て……?」
王様の言葉が、途中で引きつった悲鳴に変わった。
無理もない。
俺の右手には、禍々しい漆黒のオーラを放つ、身の丈ほどもある巨大な剣が握られていたのだから。実はリセットされる直前にこの剣を咄嗟に握っていた。
(……ある)
俺は自分の手を確めた。
レベルは1。装備は「ただの服」。
だが、武器だけが某RPGに出てくる「ひのきの棒」ではなく、さっきまで魔王が持っていた「魔王の大剣」に変わっている。
(なるほど。インベントリの中身はリセットされたが、手に持っていた装備判定だけが、時間遡行のバグで持ち越されたのか)
通称「装備持ち越し(強くてニューゲーム)」。
周囲の騎士たちが「な、なんだその剣は!?」、「魔族の気配がするぞ!」と槍を構えて騒ぎ出す。
だが、今の俺にとって、これはただの凶器ではない。
「移動手段」だ。
ピロンッ♪
視界の端で、紫色のタイマーが再始動した。
【00:00:10】
改めて魔王を倒すまでに俺が脳内で設定した目標タイムは、1分切り。
17分?そんなにかけるつもりはない。
「ええい、静まれ!勇者よ、その剣はいったい……」
「説明している時間はない。王様、あんたに用があるのは一つだけだ」
俺は魔王の大剣を片手で軽々と担ぎ(レベル1だが、アリアが持てたようにこの剣には装備重量軽減のエンチャントがある)、玉座へと歩み寄った。
衛兵たちが怯えて道を空ける。
「ひぃっ!こ、こっち寄るな!」
「『女神の涙』をくれ」
「は?」
「王家の秘宝だ。持ってるだろ?」
俺は剣を持ちながら聞いた。
王様がちらっと後ろの飾り棚のガラスケースを見たのを俺は見逃さなかった。
「な、なぜそれを……。いや、あれは魔王を倒した後に授けるものであって、いきなり渡すなど――」
「後だと世界が滅びるんだよ。今すぐ必要だ」
「ならぬ!勇者かわからない、得体の知れぬ者に国宝を渡せるか!」
王様が拒絶する。
そりゃあそうか。おそらく、ここで勇者としての使命とか聞いて正式に勇者に任命されたら渡してくれる流れなのだろう。
だが、そんなことしてる暇はない。
「……そう言うと思ったよ」
俺は足元の床を強く踏み込んだ。
ダッシュ。
王様の目前まで肉薄する。
「なっ!?」
「悪いが、世界を救うために借りるぞ」
俺は王様の横をすり抜けざま、飾り棚のガラスケースを剣の柄で叩き割った。
ガシャァン!!
中にあった青い宝石のペンダント――「女神の涙」を鷲掴みにする。
重要アイテム、回収完了。
所要時間、わずか15秒。
「き、貴様ぁぁぁッ!勇者どころか強盗ではないか!出会い頭に国宝を奪うなど!」
「安心しろ、すぐ返す。……さて」
俺は踵を返し、玉座の間の出口……ではなく、「召喚された魔法陣」に向かった。
1周目では壁の角にある壁抜けから飛び降り、街を抜け、魔王城へ向かった。
だが、この剣があるなら試してみる価値がある、一つの方法がある。
「おい!どこへ行く気だ!」
「魔王のところだ」
俺は大剣を構えた。狙うのは、この剣の隠し効果。
「次元穿孔」。
空間そのものを貫き、本来行けない場所に行くことができる禁断の技。
「俺は、さっきまで女神の間にいて時間を超えてこの魔法陣の上に飛ばされた。つまり、この魔法陣と女神の間はこの瞬間繋がっていたってことだろ…!」
本来なら、この剣の効果は空間を貫くだけなので遠くの場所にワープすることはできない。それでも、さっきまで繋がっていたこの魔法陣と女神の間、ここにこの剣を突き刺せば空間を貫き魔王城までいける。
なぜかはわからないが、そう確信できる自信が俺にはあった。
「さあ行くぞ!」
俺は気合いと共に、魔法陣に剣を突き刺した。
ズンッ!!
空気が悲鳴を上げた。
魔法陣そのものに「黒い亀裂」が走る。そして、地面ではなく空間そのものがメリメリと広がり、向こう側に――見覚えのある深紅のカーテンと、禍々しい玉座が見えた。
「な……っ!? な、なんだそれは!? 城の中に……魔王の居城が見えるぞ!?」
王様が腰を抜かし魔術師たちが杖を取り落とす。
無理もない。王都のど真ん中に、いきなりラスボスの部屋への直通トンネルが開いたのだから。
「あれ、女神の間に繋がるのかと思ったら魔王の部屋に繋がったのか」
理由は謎だが、空間の歪み?とかがあったのかもしれない。まあ、いいや。俺は改めて俺だけにしか見えないタイマーを見る。
【00:00:30】
まだ30秒。
「行ってくる」
俺は唖然とする王様たちに背を向け、黒い亀裂の中へと足を踏み入れた。
街も、ダンジョンも、中ボスも、すべてスキップ。
究極のショートカット。
ヒュンッ。
俺の姿が消えると同時に、亀裂はシュルシュルと音を立てて閉じた。
後に残されたのは、粉々になったガラスケースと、呆然と立ち尽くす王様たちだけだった。
【00:00:35】
視界が暗転し、次の瞬間には、重厚な空気の中にいた。
深紅のカーテン。髑髏の装飾。
そして正面には、頬杖をついて座る巨大な影。
魔王城、玉座の間。
到着だ。
「……ほう?」
魔王ガノンが、ゆっくりと顔を上げた。
その金色の瞳が、驚愕に見開かれる。
当然だ。
いきなり目の前の空間が歪んだと思ったら魔族でもないただの人間が現れたのだから。
「貴様……何者だ?扉も開けず、結界も破らず、いきなり我が眼前に……」
魔王が立ち上がろうとする。
演説(口上)を始めようと、息を吸い込む。
「まあ、よい!誰であろうと蹴散らすまで!!我が名は魔王ガノ――」
「遅い」
俺は既にダッシュしていた。
手には、俺が持っているはずのない「魔王の剣」。
そして懐には、この世界を終わらせるための「女神の涙」。
全ての材料は揃った。
あとは、エンディングを迎えるだけだ。
「ハッピーエンドの時間だ、魔王!」
俺は演説中の無敵判定が発生する前の、コンマ1秒の隙に向けて、己の武器(大剣)を振りかぶった。
次話もよろしくお願いします!




