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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ワイ、転生トラックドライバー。女子高生を轢いて無事人生終了

作者: たっさそ

注意!!!!

この物語は、誰も救われません!!!

本当に救われません!!!

バッドエンドです!!!

書いたり読み返したりしながら胸糞悪くなりました。

それでも読むなら止めません。

どうぞ。

 人間ってのは、意外と簡単に終わる。


 ワイは交差点を見据えてぼーっとあくびをこらえていた。

 休憩を挟みつつ8時間勤務の最終盤。

 頭の中が霧みたいになりつつ、青信号が黄色に変わったことに気づいたのは、

 アクセルを踏み込んだ瞬間だった。

道交法的にもグレーゾーン。

このまま急ブレーキをかけると後続車も巻き込むと判断してアクセルに力を込めた瞬間だった。


 制服姿の女子高生が猫を追って横断歩道に飛び出してきたのは――


「ッぶねぇ!!」


 急ブレーキを踏み抜いた。

 積み荷の精密機械がトラックの前壁に叩きつけられる衝撃が足元から響く。

積載物が荷台を貫通し、ワイの全身を打った。


なんとか慣性に従いようやくトラックが止まった時には、女子高生のいた場所をトラックは通り抜け、それは間違いなく轢いてしまったのだろうということをまざまざと感じさせた。


痛む全身に鞭を打ちながらなんとか身体を起こしてトラックを転がり出る

 だが、女子高生の姿は――消えていた。

 倒れていない。影もない。

 カバンも、靴も、スマホも、血痕も、何ひとつ残っていない。


幸にして後続車の玉突き事故は免れていた。


自分のスマホを手に取ろうとしたが、どうやら左腕と左脇腹を骨折しているらしく、力が入らない。


 なのに、通報したやつがいたらしい。

当然と言えば当然だが、派手に急ブレーキをかけて止まって、血まみれの男が出てきたら通報くらいするなと、頭の冷静な部分がそう言っていた


近くのコンビニで救急車を呼んでもらおうと歩みを進めたあたりで記憶がぶつりと途切れた。



ーーー


 気づけばワイは病院での処置を終えて警察署にいて、取り調べ室で日付が変わっていた。


 女子高生は行方不明。

 防犯カメラには“なにかを追って横断歩道に出る影”だけが映っていたが、

 ぶつかった瞬間は建物の影で見切れている。


 ワイは容疑者。

 事故の相手は不明。

 積荷は全損。

 会社の補償はゼロ。

 保険も降りない。


 そしてその日の夕方、ワイは自分の人生の終わり方を知った。


「総額……え? これ、桁合ってます?」


 会社の部長は、ため息もつかず淡々と紙を置いた。

折れたあばらはコルセットで締め付け、左腕にギプスをして出社したワイに叩きつけられたのは、請求書という名の死刑宣告。


「精密機器を潰したら、そりゃそうなるよ。

 君、ウチに払える金なんてないだろう。すまんけど、自己破産は自分でやってくれ」


 紙には、読んだ瞬間に吐き気がする金額が載っていた。

 家を売っても、臓器を全部並べても埋まるはずもない。


 ワイはその足で、自宅には戻らず、人気のない海沿いの展望台へ向かった。


 携帯は切った。

 財布も置いてきた。

 通帳も、保険証も、全部捨てた。


 あとは――飛ぶだけ。


 ……そう思ったのに。


 展望台の欄干に手をかけた瞬間、背後から声がした。


「すみません! ここ、閉鎖時間です!」


 ワイは振り返った。

 巡回中の警備員が、申し訳なさそうに会釈していた。


「危ないですから、速やかに下に降りてください」


 ワイは笑った。

 腹の底から、乾いた、壊れた笑いが漏れた。


 ワイは、死ぬことすら満足に許されないらしい。



 展望台を追い出されたワイは、海岸沿いを歩いた。

 風は冷たく、靴の中には砂が入り、足は重く、体の奥だけがひどく熱い。


 家に帰る理由などない。

 帰ったところで、母親の顔を見れば土下座されるかもしれない。

 「どうするの?」と泣かれるかもしれない。

 その全部が面倒で、苦しくて、ワイはただ夜の海を見る。


 スマホの電源をつけてみる

 誰にも通知を切る権利なんてないらしい。


【不在着信:会社 ×14】

【不在着信:警察署 ×3】

【伝言メモ:緊急連絡】

【LINE:母 17件】


 ワイは全部無視した。

 それくらいの権利は、ワイにだってあるはずだった。




 夜中になって、やっと家に戻ると、玄関に黒い車が一台止まっていた。

 都心でもないのに、スーツ姿の中年が二人立っている。


「神谷さんですね?」


 名刺が差し出される。

 会社の“顧問弁護士”。


「今回の件ですが、会社としては“安全配慮義務違反による重大損失”として、損害賠償請求を行います」


「ちょ、ちょっと待ってください。あれは……飛び出してきた……」


「飛び出した人物は“不明”なんですよね?」


 不明。

 行方不明。

 被害者は存在していないのに、存在しているかのように扱われる。


「依頼主は会社ですから、あなたの味方ではありません。今後は私たちが手続きします」


 淡々と。

 冷蔵庫に貼るチラシみたいなテンションで、人生を貼り替えられた。


「では、こちらにサインを」


 差し出された紙。

 読めば、自分が全面的に悪いことになる書類だとわかる。


「読みたければどうぞ。ただし、読むのが遅くなるほど“悪意あり”と見なされます」


 地獄は、選ばせてくれたりしない。



ネットの炎上は家より速い


 翌朝、ワイの名前がネットに出ていた。


【未成年女子高生ひき逃げか?

 運送会社ドライバー・神谷(29)事情聴取へ】


 “ひき逃げ”

 逃げてもいないし、そもそも“その被害者がどこにもいない”のに。


 コメント欄。


《またトラックかよ》

《どうせスマホ見てたんだろ》

《行方不明の子、死んでるだろ》

《死体埋めてんじゃね?》

《家族に土下座してこい》

《職業ドライバーなんだから覚悟しとけよ》


 ワイの人生は、もうワイの知らない誰かに実況されていた。



警察の“任意”ほど強制力のあるものはない


 その日の昼、警察からの電話。


『任意ですが、一度署に来ていただけますか』


 任意とは言うが、断ったら“心証悪化”になる。

 ワイは行くしかなかった。


 そして取調室。

 昨日と同じ、蛍光灯の薄い光。


「女子高生の家族が、あなたを“加害者として認識”しています」


「だから、あの女の子が飛び出してきて」


「ですが、あなたが彼女を轢いて急ブレーキを踏んだのは事実ですね?」


「それは……」


 嘘をつけばバレる。

 正直に言えば、責任を背負う。

 どちらを選んでも詰み。


「私たちは敵じゃありませんよ。ただ、事件を解決したいだけです。

 あなたも協力してくれますよね?」


 味方はいない。

 敵以外もいない。




 帰宅すると、母親は泣いていた。


「どうして……どうしてこんなことに……!

 ニュース見たよ……会社の人が来て……弁護士さんが……

 お母さん、預金全部つかっても足りない……!」


 ワイは何も言えなかった。

 母親の泣き声が、ワイの罪悪感を削る音にしか聞こえない。


 そして夕方、ポストに一通の封筒。


《簡易裁判所より 事件番号 ○○○○

 損害賠償請求に関する通知》


 ワイは笑った。

 もう、笑うしかなかった。


 ワイの人生は、まだ底にすら届いていなかった。



ーーー


 翌朝5時。

 まだ陽が昇り切らない時間に、玄関のチャイムが鳴った。


 連打だった。


 ピンポンピンポンピンポンピンポン――

 嫌がらせのような音。


 母親が怯えた声を漏らす。


「ねえ……誰か来てる……」


 ワイは玄関へ向かった。

 そしてドアスコープを覗くと――レンズ一面が“黒い布”で塞がれた。


 その瞬間、背筋が凍る。


 ――悪意。


「○○ニュースの者です! お話伺えますか!?」

「ひき逃げ疑惑について取材を!!」

「家族の方でもいいので!」


 言葉は丁寧だが、やっていることは暴行に近い。

 マスコミは、ワイがなんと言おうが

 “加害者が黙秘して家に立てこもっている”

 という絵が欲しいだけ。


「警察呼びますよ!」と叫んでも、

「どうぞどうぞ」と笑われるだけ。


 証拠も映像もないのに、世間は犯人を作りたがる。



 ネット拡散は止まらない


 午前9時。

 スマホを開くと、見たことのない速度で通知が流れていた。


【#神谷○○を許すな】

【#行方不明の子はどこ】

【#トラック殺人未遂】


 ワイの大学時代の写真。

 昔の職場の集合写真。

 引っ越したはずの旧住所。

 元カノの名前。


 全部、“正義マン”によって晒されていた。


《こいつ笑ってるけど、女子高生殺してるかも》

《隠蔽して逃げたんだろ》

《家族も同罪》

《こいつの母親パートしてるスーパーって○○だよな?》


 母親の勤務先まで特定されていた。


 その日の夕方、母親は帰宅するなり泣き崩れた。


「お店で……“あなたの息子さん、うちの子の殺したかもって本当ですか?”って……

 店長に“迷惑だから辞めてください”って……!」


 ワイは膝が砕けた。


 ワイが守るべき家族を、ワイが壊した。



 当然、警察は味方じゃない


 その晩、電話が鳴る。

 相手は――刑事。


『神谷さん、再度の任意同行をお願いしたいんですが』


「昨日も行きましたよね」


『その後、新しい証言がありまして』


「……新しい?」


『“あなたのトラックにぶつかられた女子高生を見た”という目撃証言です』


 間違いなく――デマだ。

 だが、警察は証言がある限り動く。


『任意ですので、来ていただけると助かります』


 任意(強制)。


 ワイは仕方なく向かった。


 取調室で、刑事は書類を一枚置いた。


「あなたが急ブレーキを踏んだ理由……まだ説明が不十分なんです」


「だから、飛び出して来たと思って……!」


「しかし、その女子高生は見つかっていない」


 机を指でトントン叩かれ、胃がねじれる。


「人身事故を起こしたのに、逃げたとは言いません。だが“救護義務違反の可能性”はあります」


 ワイは頭を抱えた。

 逃げてない。

 自身も左腕と脇腹を損傷しているのに、

 被害者の姿が見えないから救急車を呼ぶためにコンビニに足を向け気絶し

 被害者はいないのに救護義務違反。

 でも証拠はない。


 警察は、自分たちがストーリーを作り始めていることにすら気づいていない。


 そして、弁護士という名の敵


 家に戻ると、ポストに封筒が入っていた。


《会社側代理人より

 損害賠償請求について(再・通知)》


 開くと、見覚えのある文字。


――あなたの過失は重大であり

――業務放棄および安全義務違反に該当

――和解しない場合は民事・刑事双方での対応を検討


 つまり、

ワイ一人の行動で数百億の損害を背負ってもらう

ということだ。


 電話をかけると、弁護士は淡々と言った。


「あなたの“不注意”によって積荷が破壊されたのは争いようがありません」


「でも、あれは……飛び出した子が……」


「では、その子はどこに?」


 ワイは沈黙した。


「“原因不明”は、あなたの責任になります。

 つまり、あなたが原因です」


 言葉の刃が淡々と胸に刺さる。


 女の子が見つかれば、それはおそらく死体であり

 怪我がなくとも、人と車の事故は間違いなく車に過失がある。

 日本の法はそういうふうにできている。



 そうなると、もはや家に帰っても地獄だ。


 夜、ふらつきながら帰ると、母親が廊下に座り込んでいた。


「警察の人が来て……

 “息子さんは家にいますか”って……

 “行方不明の少女についてまだ事情を聞きたいことがある”って……」


 母親の目は、ワイを見るたびに怖がっている。


 息子としてではなく、

“犯人かもしれない人間”として。



 そして、“本当のどん底”が来た


 翌朝、母親が小さく呟いた。


「……あなた、これからどうするの……?

 うち、もう払えるお金ないよ……

 ねぇ……どうするの……?」


 ワイは答えを持っていなかった。

 未来も、家も、職も、世間からの信用も、全部灰になった。


 すると母が、震える声で言った。


「……お願いだから……

 “変なこと”だけはしないで……」


 ワイは、そこで初めて理解した。


 世間が思う“犯人”より、

 家族が恐れる“未来”の方が残酷だということを。




ーーー


 朝。

 神谷が郵便受けを開けると、紙がぐちゃぐちゃに詰め込まれていた。


 ——違う。

 紙じゃない。


 プリントされた“女子高生の顔写真”だった。


 白黒で、輪郭が荒い。

 チラシのように印刷され、


《この子を返せ》

《お前のせいだ》


 と赤ペンで書かれている。


 母親が悲鳴をあげた。


「なにこれ……やだ……やだよ……!

 警察に……警察に言わなきゃ……!」


 しかし、警察は軽くあしらう。


『悪質なものなら捜査しますが、まずは“民事不介入”なので……』


 不介入。

 つまり、“自分でどうにかしろ”ということだ。


 神谷は郵便受けを閉じた。

 鍵は、もう意味をなさない。




 昼すぎ。

 玄関チャイムが鳴る。


 スーツ姿の男がひとり立っていた。


「神谷さんですね。会社の使いです」


 淡々と差し出される封筒。


《解雇予告通知書》

《損害賠償に関する協議書》


 そして一番下に、小さく書かれた文字。


——支払いが不可能な場合、家財の差押えを申請する。


 母親の顔色が真っ白になる。


「……あんた……これ……どうすんの……?」


 神谷は答えられない。

 仕事を失った瞬間、社会にいる場所は消える。

 ただの“責任を背負わされた無職”になる。





 夜。

 住んでいるアパートではなく、近くの実家に身を寄せていると

 母親はご飯を作らなかった。



 キッチンの椅子に座り、壁をじっと見ている。


「あんた……高校生、殺してないんだよね……?」


 神谷は視線を逸らして答えた


「わからない。ブレーキをかけた時には目の前にいたから、轢いたんだと思う。でも、轢かれた本人がいないから、まだ逮捕されていないだけで……」


 母親はしばらく黙り――

 そして小さくつぶやいた。


「……でも、世間は……信じてくれないんだよね……

 私が、“加害者の母親”みたいに思われてる……

 今日だって、買い物に行ったら……避けられて……目をそらされて……

 怖くて……どうしていいかわからない……」


 神谷は胸がぎゅうっと潰れた。

 自分のせいではない。

 でも、誰もそれを信じない。


 母親は、皿も何もない食卓を見て泣いた。


「もう疲れた……

 あんたのことは……信じたいけど……

 もう……むり……」


 その言葉は、刃物より重かった。



 警察は“見てないもの”を見たがる


 二日後。

 再び警察から電話。


『神谷さん、女子高生の件で“追加の証言”がありまして』


「またですか」


『“事故の後、あなたがトラックから降りて、路肩で何かを引きずっていた”という証言です』


 神谷は頭を抱えた。


「そんな事実はない!自分の怪我ですぐに気を失った!監視カメラを見ただろう!」


『事実かどうかは、こちらで確認します。

 ですから、もう一度署までお願いします』


 警察は味方ではない。

 それはもう、とっくに理解している。


再就職は不可能だった


 神谷は仕事を探そうとした。

 どれだけ絶望でも、生きるには金がいる。


 だが――

 派遣会社の受付、履歴書を見た瞬間、表情が変わる。


「あの……すみませんが……

 “事故トラブル中の方”は紹介できません」


 ネット検索すれば出てくるんだ。

 名前も、顔も、史上最悪の炎上タグも。


《#神谷の責任を追及しろ》《#女子高生行方不明》


 社会は神谷を救う気などない。




 夕方。

 二人の中年女性が家の前に立っていた。


「すみません、神谷さんのお母さん、いますか?」

「あなたの息子さん……本当にウチの子を……?」


 母親の顔から血の気が引く。


「ち、違います……! うちの子は……!」


「じゃあ、どこにいるんです? 娘は」

「最後の目撃、あなたの息子さんの近くだったって……ニュースで」


 違う。

 そんな証言は事実じゃない。

 誰かが勝手に話を作っただけだ。


 でも世間は、

“疑われた時点で黒”

という空気に染まっていた。


 母親は震えながらドアを閉め、鍵をかけた。


 そして力なく言う。


「……もういや……もう無理……

 なんで……なんでこんな……」


 神谷は何も言えない。



 生活が、音もなく終わる


 夜。

 神谷は台所で水を飲む。


 母親は寝室に閉じこもっている。

 飯はない。

 仕事もない。

 お金もない。

 世間も敵だ。


 神谷の指先は震えていた。


 人生が壊れるときって、

 ドラマみたいに“崩れる音”はしない。


 ただ静かに、

 “昨日までの当たり前”が消えていくだけだ。


 神谷はつぶやいた。


「……まだ堕ちる場所あるのかよ……」


 ある。


 社会は、加害者と決めた人間に対して、

 底の底まで容赦しない。




ーーー


「――こちらが、事故当時のドラレコ映像です」


テレビで繰り返し流れる、神谷のトラック。


・黄色信号を見て加速

・だが歩行者が飛び出す。歩行者信号は赤。

・急ブレーキ

・そして “少女が接触したように見える” 映像


どこにも女の子の姿は映っていない。

倒れていたはずの場所も空っぽ。


だが、ネットの連中は事実なんかどうでもよかった。


「逃げたんじゃね?」

「ドラレコ改ざんしてない?」

「被害者の遺体をどこにやったんだよ」


――証拠がないほど疑われる。


SNSでは、神谷の職場の住所まで特定され、

家族の名前が晒され、実家に嫌がらせの電話が鳴り続けた。



■ 10日目 ― 運送会社からの冷たい手紙


神谷の元へ、薄い封筒が届く。


【契約解除通知書】

安全義務違反および管理過失により、御社との雇用契約を無期限停止します。

また、積載物破損に伴う損害賠償額について協議したい。


協議したい――つまり 払え だ。


会社は守ってくれない。

「家族みたいな会社です!」とか言ってた社長は沈黙。

同僚からのLINEもゼロ。

全員、他人のフリ。



■ 14日目 ― 自宅アパートでの追撃


「神谷さん、家賃の件ですが……」


不動産会社から電話が来た。


事故後、神谷は働けず無収入。

社会的にも人間的にも死体みたいな扱い。


「困りますよ。問題を起こした人を住まわせ続けると、ご近所からクレームが――」


暗に“出ていけ”と言ってる。


外に出れば、近所の主婦がヒソヒソ話す。


「ほら、あのトラックの……」

「あの事故の……かわいそうな女子高生……」


神谷はただ歩いただけなのに、空気が避けていく。



■ 18日目 ― 生活保護、門前払い


ハローワークにも行けず、金も尽きた。

最後の頼みで役所に行って、生活保護を申請した。


担当職員は書類をめくりながら、ひとこと。


「事故の賠償責任がありますよね?」

「そういう、扶養義務や賠償問題のある方は、まずそちらの解決が優先でして……」


――詰んだ。


払えないから相談してるのに、

払えないから制度を使おうとしてるのに、

「払えないなら無理」って返される。


神谷は“この社会から排除された”のを感じた。



■ 22日目 ― 神谷、ついに「紐なしバンジー」現場へ


橋の欄干に手をかけた。

寒いのに手汗だけはベタついてる。


下をのぞくと、真っ暗な川。

水面は見えない。


「……なんで、こうなったんやろな」


誰に聞いても答えは返ってこない。


荷物は異世界行きでこの世界に残らず、

証拠はなく、

責任だけが神谷に降りかかる。


人生、事故った瞬間から地獄の滑り台だった。


身体を前に傾ける。

もう止まらない。


……


だがその時――


欄干の下から、


「――あっ!」


女の子の声がした。そんな気がした。


あの日、神谷の前に飛び出してきた“あの女子高生”の声に似ていた。そんな気がした。


そして次の瞬間、

神谷の肩を誰かがつかんだ。


「ちょっ……! 何してるんスか!!」


若い声。

高校生くらいの男子だ。


制服姿で息を切らしながら、神谷の腕を必死に引っ張っている。

“あの女子高生”とは無関係。奇跡でも因果でもない。ただの偶然だ。

あの女の子が実は生きていて、自殺を止めようとした、なんて都合のいい妄想なんてものじゃない。

そもそも神谷はトラックの中にいて、女子高生の声なんか知らないのだ。


そんな幻聴でも聴かせていたのか、少年は神谷を羽交い締めにする。


「離せ……放っといてくれ……」


神谷は力なく言う。

だが少年は必死だった。


「いやいやいや! ダメっすよ!! 完全アウトのやつじゃないですか!!」


――現実は残酷だ。

命の危機より、周りの方がよほど騒がしい。


そこへ、遠くから別の男の声が飛んでくる。


「おーい! 大丈夫か!? 通報しといたからな!!」


また別の人間が近づいてくる。


女性の声も混じる。


「やだ、飛び降りようとしてたの? こわ……」

「撮っといた方がいい?」

「SNSに上げたらバズりそう」


スマホを向けてくる人間までいる。


――地獄は静かじゃない。

地獄は“野次馬だらけ”だ。


神谷の胸の奥が、じわじわと腐るように痛くなる。



5分後、パトカーのサイレン。


「あなた、身分証ありますか?」


警官が冷たい目で神谷を見る。


飛び降りようとしたことより先に確認されるのは“身元”。


そして神谷の大型トラックの運転免許証の名前を見るや否や、警官の表情が変わった。


「……神谷? あの、例の事故の……?」


小声でささやく。

もう“顔”も“名前”もネットにさらされている。


たちまち周囲の野次馬たちがザワつく。


「え? あのトラックの?」

「女子高生撥ねたっていう……?」

「うわ、マジもんじゃん」


スマホを向ける角度が増える。


神谷はうつむく。

もう抵抗する力も残っていない。



「事情を聞きます。こちらへ」


パトカーに乗せられる。


逃げる必要なんてないのに、

あたかも犯罪者みたいに両側を挟まれて歩かされる。


少年が最後に叫ぶ。


「生きろよ! 死んだら……負けっすよ!!」


その言葉が胸に刺さるわけでもなく、

救われるわけでもなく、

ただ虚無だけが残った。


神谷は思う。


――もうとっくに負けとるわ。

――ワイの人生なんて、跡形もないほど潰れとる。


夜の街の光が、パトカーの窓に滲んだ。



警察署ではなく、精神科のある総合病院へ連れて行かれた。


「自傷他害の恐れあり」と判断されたらしい。


薄い布団のベッド。

外から鍵のかかる部屋。

スマホ没収。

腰のベルトまで取り上げられた。


看護師が言う。


「あなたのような方は多いんです。

ストレスが重なると、正常な判断ができなくなるんですよ」


“あなたのような方”


神谷は笑う。


――もう、ひとまとめか。

――事故も、行方不明も、賠償金も、精神異常者も

なんもかんもひとまとめにされとる。


現実は、理由なんか見てくれない。



夜中


鍵の向こうで看護師の足音が消えると、

病室は急に静かになった。


行方のわからないあの女子高生は無事だろうか。

苦しんでないだろうか。

助けを求めていないだろうか。


助けたくても、もう届かない。

神谷は現実に縛られていて、

ただ一人で潰れていくだけだ。


天井を見つめる。


「――どうすりゃよかったんやろな」


答えは、やっぱり返ってこなかった。


観察室で3日間。

「自殺の危険性は低下した」という判定で退院となる。


だが――

退院しても、家はもうない。


アパート管理会社から正式に通告が来ていた。


「今月末までに退出願います」


家賃の滞納と、事件性のある事故の当事者だという理由。

荷物はすべて袋詰めにされ、玄関に積まれていた。


神谷はゴミ袋みたいな荷物を抱えて外に立つ。

寒空の下、行くあてはない。



会社からの“最後の一刺し”が残っていた。


退院したその足で、会社から書類が届いていた。


【損害賠償請求書】

金額:274億円


内訳:

・積載していた精密機器の破損

・顧客からの損害賠償

・会社側の信用失墜による追加賠償


神谷は笑ってしまった。


274億なんて、宝くじ6回連続当てても払えない。

生涯年収を集めても埃ほどにもならない。


これはもう「払え」という書類ではなく、

“お前の人生は終わりです”という宣告書だった。



■ マスコミ再接近 ― 家族の破壊


家族にも記者が押し寄せていた。


母からの留守電には震えた声が残っている。


「……あんた、どうして……

 もう家に来ないで。

 うちは、普通に暮らしたいだけなの」


父も、妹も、全員が神谷から距離を取った。


事故で怪我させたわけでもない。

実際は、信号無視した女子高生の飛び出し。

だが情報が捻じ曲げられ、

“少女を殺して隠した男”

みたいな扱いになっている。


家族に責任はない。

それでも、世間は容赦なく家族を巻き込む。


神谷の心は、もう折れたままだ。


ネットは永遠に忘れない


SNSでは、今も炎上が続いていた。


「反省してない」

「遺体どこやったん?」

「トラック運転手ってやっぱ頭おかしいわ」

「賠償から逃げるために自殺未遂とか草」


神谷が反論しようとしても、

そもそもアカウントが停止されていた。


「事件性のある行動をしたユーザー」として。


もう声をあげる場所すらない。



ネットカフェに向かったが、

入り口で止められた。


「すみません、顔出てますよね。

ちょっとウチ、トラブル抱えるのは……」


入店拒否。


泊まれるのは、24時間空いているファミレスか、

河川敷か、駅のベンチ。


神谷は最終的に、川沿いの土手に座り込んだ。


風が冷たい。

川の音だけがやけに大きい。


腹は減っていたが、食べ物を買う金もない。


コンビニの灯りが遠くに揺れている。

だが、それはもう“自分の世界のもの”じゃなかった。



夜 ― 冷たさだけが真実となる。


毛布もない。

布団もない。


土手の草の上で丸くなると、

背中に地面の冷たさがしみてくる。


吐く息が白い。


「……なんで、あの子は消えたんや……」


問い続けても、答えはゼロ。


あの日、女子高生がふっと消えたことが、

神谷の人生まるごとを持っていった。


夜が深くなるにつれ、寒さで震えが止まらなくなる。


生きているのに、死んでいく感じがした。




1年後。


明け方 ― “人間”じゃなくなる瞬間


朝の散歩をしている老人が神谷を見る。


避けるように遠回りした。


スマホを構え、何か撮っている若者もいる。


「あれ、トラックの奴じゃね?」

「くっそボロボロになってて笑う」


神谷はもう、

「人間」ではなく

「見世物」になっていた。


自分の意思も尊厳も、全部奪われた。


寒くて体が動かない。

飢えて指先が痺れる。


思考が薄れていく。


――このままなら、冬の夜を越えられない。


だが、それでいいと思った。


もはや“生きて何か取り返せる場所”が、現実には残っていなかったから。



身体の痛みより、

寒さより、

飢えより、


「何も変わらない」


その事実のほうが辛かった。


働けない。

家に住めない。

食べられない。

誰も助けない。


そのくせ、ネットでは


「まだ生きてたん?」

「はよ賠償しろや」

「女子高生返せよ」


と叩かれる。


もう「怒る」ことも「悲しむ」こともできなかった。


冬のある朝。

神谷は川沿いで倒れていた。


通りかかった人々の様子は淡々としている。


「あ、またホームレス倒れてる」

「触るの嫌じゃね?」

「救急車呼ぶ?」

「いや、前もあったし……関わりたくない」


誰も近寄らない。

誰も目を合わせない。


数時間後、1人の老人が通報した。


救急隊が到着し、

神谷の脈を確認する。


「……あー、これダメだな」


救急車に乗せられたが、

そのまま病院へ。



神谷は再び入院したが、

昏睡状態のまま意識は戻らなかった。


数日後、

心臓がゆっくりと止まった。


誰も見ていなかった。

ゴミ袋に残った彼の遺留品から家族には連絡が行ったが、面会は拒否された。


遺品はゴミ袋2つ。

身元不明扱いに近い手続きが行われ、

火葬され、

無縁仏として合同墓地に納められた。


新聞にもインターネットにも記事は載らない。

SNSで一瞬だけ話題になっても、

すぐに別の炎上に上書きされた。


世界はいつも通り回り続ける。


神谷という一人の人間が消えても、

何一つ変わらなかった。


誰も困らなかった。

誰も気づかなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーー


4年後。


町外れの空き地に、突然、光の柱が立った。

近所の老人がその光を見て「落雷か?」と言ったが、音はしない。


光が収まったとき、女子高生が一人だけ倒れていた。


制服は異世界由来の血や泥にまみれていて、裾は破れ、どこか焦げていた。

荷物は消えていた。

現実世界の物体は魔力的な干渉に耐えられず、多くは転移の瞬間に失われる。


少女はしばらく動かなかったが、やがて震える声で呟いた。


「……帰ってきた……? うそ……なんで……一人……?」


異世界で生き延び、戦い、仲間もできた。

その少女からすれば、急に現実に戻されたことで頭が追いつかない。


ふらふらと歩いて国道に向かうと、電信柱に向こうに花束と線香が見えた。


彼女は立ち止まった。


そこには、

置かれた花束。そこで事故があったことがわかった。

こういうものを見ると、日本に帰ってきたのだなと実感する。


その花束が自分に手向けられたものだとは一ミリも思わずに。


5年もの年月を異世界で過ごし、二十歳になった自分。

はたして家族はわかってくれるだろうかと胸を躍らせながら。



女子高生が帰宅したのは、夕刻。

玄関を開ける力すら残っていなかった彼女は、

気配に気づいた母親に抱きとめられた。


「……! えっ……本物……!? 生きて……生きて帰ってきたの……?」


母親は泣き崩れた。

父親も涙をこぼしながら娘を抱きしめる。


彼女は震える声でしか話せない。


「ただいま……ただいま、お母さん……」


細い肩が親の胸元で嗚咽する。

異世界で、最後まで“死ねなかった”少女の帰還。

抱きしめられた腕の温度が、かえって痛い。


その夜、救急に運ばれ、応急処置を受けたのち、連絡を受けた警察と政府の担当者が病室に集まった。



翌朝のニュースは彼女一色になった。


「5年前から行方不明となっていた当時15歳の◯◯さんが、衰弱した状態で帰宅。命に別状なし」

「不可解な失踪からの生還。少女の証言は現在確認中」


ワイドショーは“奇跡の帰還劇”として取り上げ、

SNSでは「#無事でよかった」がトレンド入りした。


当然、それを喜ぶ人々が多かった。

少女の行方を気にしていた近隣住人は泣き、

学校では教師や友人が安心の声を上げた。


ーーーー


神谷が死亡した当初、神谷の実家には、

会社からの簡素な書面と、

警察からの死亡通知が郵送で届いただけだった。


玄関のチャイムは鳴らない。

誰も取材に来ない。

誰にも同情されない。


死亡したのは「名前も出ないホームレスの中年男性」。

ワイドショーのテロップには載らない人間。

その死は凍死として3分枠で消費され、


加害者でも被害者でもない“ただの死体”として処理されていた。




ーーーー


少女の家には花束が届き、

テレビ局がインタビューの依頼を送り、

政府は感動の再会にする方向で調整を進めていた。


家の前には記者の群れ。

涙を流して抱きしめる母親のシーンが切り取られ、

「奇跡の家族愛」として放映された。



そして、病院の無菌室。

少女はベッドに座り、本人の証言による、異世界からの帰還ということで、急遽設立された政府の神隠しの帰還者対策班の説明を受けていた。


机の上に厚いファイル。

「行方不明期間の捜索記録」「周辺事件一覧」。

形式的な報告書が淡々と読み上げられる。


少女は、ふと引っかかった。


「……その……わたしが行方不明になった日……近くで事故って……ありました?」


係官は少しだけ言葉を詰まらせたが、すぐに淡々と答える。


「ええ。大型トラックによる事故が発生しています。

関係性の調査が行われましたが、画質が荒く、直接の関係は認められませんでしたが、あなたが轢かれたものとされておりました。」


少女の胸がざわついた。


トラック。


あの日、異世界へ飛ばされる直前。

耳の奥で聞こえたような、タイヤの軋む音。

クラクション。

衝撃。

視界のフラッシュ。


「……そのトラックの……運転手さんは……?」


「死亡しています。4年前に、路上で、凍死でした。」


少女は息を止めた。


「……凍死……?」


「はい。あなたが行方不明となった当時、スピードが出ていたうえ、急ブレーキの影響め積荷が崩れて車内にて大怪我を…まあ、非常に悲惨な状態でした。主に積荷のほうが。

ただし運転手は業務中であり、事故の原因は“道路横断者の飛び出し”という記録になっています。被害者であるあなたはおりませんでしたが。」


係官は紙をめくる。


「行方不明者の痕跡調査の一環で付近の交通事故も照合されましたが、

この事故とあなたの失踪は“関係が深いもの”と結論付けられました」


少女は震えた。


“道路横断者の飛び出し”。


飛び出したのは──自分だ。

その瞬間、頭が真っ白になった。


「……わたし……の、せい……?」


係官は表情を変えない。


「責任の有無ではなく、あくまで“司法判断としての扱い”ですので。

運転手は過失運転致死疑いで書類送検されております

被害者の痕跡がないため、処分は曖昧になっておりますが…。」


少女は唇をかみしめた。


「……その人……どう扱われたんですか……?」


「どう、と言いますと?」


「……ニュース、葬儀……家族……。

わたしみたいに、誰か……心配して……」


係官は書類の束から、別の薄いファイルを静かに差し出した。


「こちらが運転手・神谷の処理報告書です。

公表情報は“中年男性1名死亡”。

実名は報じられていません」


ページをめくる。

•遺族は遠方の母親一人。

•会社からの補償は最低限。

•積荷損壊による巨額の損害は会社が保険外として遺族側に一部請求。

•マスコミは一切興味を示さず。

•神谷の死は交通情報の端に一度だけ表示され、すぐに流れた。


「世間の反応は皆無。

“ホームレスの死は珍しくない”という扱いですね」


少女は視界が揺れた。


自分は帰ってきて、

家族に泣きながら抱きしめられ、

ニュースに取り上げられ、

“奇跡の少女”と称えられた。


その裏で──


自分のせいで死んだ男は

名前すら呼ばれず、ほぼ過失扱いで、孤独に死に、金の問題だけ残された。


そんな現実が、報告書の活字として突きつけられた。


「……なんで……わたし……だけ……」


声が震える。


「なんで……わたしだけ、帰ってきて……

あの人は……誰にも……悲しまれないの……?」


係官は静かに答えた。


「“社会とはそういうものだ”としか言いようがありません」


少女は崩れ落ちた。


「……ごめんなさい……

ごめんなさい……

わたし、わたしは……

生きて戻ってきたら……全部……元に戻ると思ってたのに……」


異世界で流した血よりも、

仲間の死よりも、

魔物の咆哮よりも──


「自分が踏み台にした死」が一番重かった。


だがその重さを分かち合ってくれる人は誰もいない。


家族は娘が無事だったことに喜び、

政府は帰還者の保護にしか興味がなく、

マスコミは“奇跡”の物語しか求めていない。


そして神谷は、

誰にも知られず、

原因も経緯も報われず、

ただの“死亡例”として社会に飲み込まれた。


少女は自分の爪で腕を掻きむしる。


「……わたし……なんで生きてるの……

名前もしらないあの人が死んだのに……わたしだけ……」


誰も答えてくれない。

誰も聞いてくれない。


帰還者の少女は救われない。

死んだ神谷も救われなかった。

社会は何も気にしない。


世界はただ、勝手に回り続けるだけだった。


お読みいただきありがとうございます。

作者は法律知識も無いので適当にAIに助けてもらいながら書かせていただきました。

なんで事故起こしてんのに逮捕されてねーの?や借金とか裁判とかどうしてんの?病院で死亡判定受けたのに凍死なの低体温症とかじゃね?救急隊の反応ゴミカスじゃね?地の文でも一人称ワイはキモくね?なんて質問は、たぶんそういう並行世界なんじゃね?

で納得してください。どういう処理が正しいかしらないもん。調べてなかったもん。人間が異世界に行くわけないんだから。

むしゃくしゃした時には名前も決めてない適当な主人公をボロクソにする物語を描くに限るね。


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