セカンドベースにて
後攻チーム(守備)
ピッチャー 田中 譲司
キャッチャー 松井 幸司郎
ファースト 山口 茶兎
セカンド 関 ゆい
ショート 五百旗頭 悠斗
サード 佐藤 朝顔
レフト 山田 百合
センター 松井 所等
ライト 山田 蒼
2035年1月17日 11:27
第三小学校 校庭
□木村 陽花里
打ち返した打球はかなりフライ気味にあがったが、レフトの百合は足元がおぼつかない。
私が一塁ベースを周った時にはボールはワンバウンド。
百合は転倒。
センターの松井 所等がバックアップにはいってボールをキャッチ。
この時に私は2塁ベースへスライディング。
プロの選手の奴を参考にして初めてやったけど、スライディングの姿勢からうまく立ち上がることができた。
所等が中継でショートの悠斗へとスローイング。するが、既に愛聖は三塁ベースを蹴っている…が、やや体制がおぼつかない減速している!
ボールを受け取った悠斗はプロ野球選のような無駄のない動きでボールをキャッチャーの幸司郎へストライク送球。
愛聖は3塁ベンチ側からヘッドスライディング。
左手を伸ばすようにしてホームベースタッチをタッチ。
それを幸司郎がタッチした形だ。
『セーフ』
「やったぁ!」
私は左腕を空へと掲げる。
そのあとにピースサインを三塁ベンチへ
チームメイトが同じハンドサインで返してくれる。
幸司郎は何かとかっこつけたいというかいきりたいというか。
2球アウトローへ攻めたのだったら、インハイへストレートもしくはカーブを要求するとわかっていた。
…まあ、譲司がカーブを投げられるピッチャーだったのは知らなかったけど。
『3番 指名打者 林 夕
バッターは林
背番号 18』
そう人工音声が流れる。
夕は左利きなので左バッターボックスに入る。
特に野球の経験がある訳ではないが、週末などでは大学の友達と一緒にバッティングセンターに行くんだ、なんて話をさっきしていた。
大学ねぇ。
思えば、中学を卒業してから学問なんてからっきしだ。
宮大工はどちらかというと学問より感覚の世界。
朝起きて、大学生たちは勉強とかするのかもしれないけど、私たちは感覚を研ぎ澄ますことから始まる。
私たちの仕事がなくならないのは、『人間が伝統を継ぐべき』という話のほかにも技術的にも機械に代替が難しい、とされているからだ。
とは言っても、今のこの誰でも情報を発信できる時代。伝統を守ろうなんて変わったやつはあまりいない。
私なんて中学への登校前に毎朝師匠のウチの玄関の前で正座してたもんな。
そんなことを考えていたら夕が打ったのに気が付かなかった。
夕の打った打球はセンター返し。
ワンバウンドで私にあたる。
『アウト』
セカンドのゆいが私の前に回り込み捕球する。
軽く一塁を見てからピッチャーへと返球する。
『ボールデッド。
ワンアウト ランナー一塁。』
(しくじったぁ。)
どんな時でも神経を研ぎ澄ます。
これがウチの師匠の言っていることなのにボーっとしてしまった。
昨日からイレギュラー続きで疲れた?
いや、そんな言い訳は通用しない。
三塁ベンチに戻るときに三塁コーチをやっている伊藤に話しかけられる。
「避けられない打球じゃなかった、らしくないな。」
らしくない、って言われるほど小学校のときから仲が良かったわけじゃないけど。
「ごめん。ボーっとしてた」
「昨日も放送室籠城とかいろいろあったもんな。逆にお前はよく左中間に打ったもんだ。」
そんなこと言ったらセンター返しをした夕もそうなんだけど。
ただ、その言葉はうまく喉から出てこない。
何とか絞り出そうとした「ありがとう」と言う言葉は
『4番 サード 藤原 茉鈴』
というコールにかき消された。
ベンチに戻ると、
ドンマイ!お疲れ!という声が響き渡る。
なんとなく気まずいので2列あるベンチの端っこに座ることにした。
「お疲れ。すごい打球だったねっ!」
と言いつつスポーツドリンクを持ってきてくれたのはベンチスタートの凛。
「ありがとう、ヘマやっちゃったけどね」
有難くスポーツドリンクを受け取る。
普段の修行も疲れるが、全力疾走などは求められないので水分が身体にしみわたる快楽に暫しの間つかることにした。




