閑話休題⑥
YOH同窓会TIPS
多くのクラスメイトは地元の高校・大学に進学しており、就職先も梅山の場合が多い。
そのため、一人暮らしをしているクラスメイトは少数だ。
2035年1月17日 18:30
陽国首都
□跡部 陽子【首相】
「それで特別予算の人間被害者への給付はいつ再開できそうなの?」
「1位を取っている被害者を除いたものであれば本時刻をもって再開できます。」
官僚からの報告にそう、と私は返事をして椅子を後ろに回す。
「総理。ちょっと力はいりすぎてるんじゃあないか?」
そう茶々を入れてくるのは飯島だ。
「確かに、今回テロに相当する攻撃を受けている。だけど、通常の外交とかもやらなくちゃいけない。だからそんなに気張ってたら持たないぜ?」
「わかってる。」
さっき補佐官に日程の確認をしたら明後日には同盟国との電話会談が入っている。
もちろん『自分の国のAIが何らかの理由で暴走したのでキャンセルで』なんて都合のいいことは言えない。
「ところで、総理。不参加のクラスメイトの扱いは──」
「総理、保護者が到着しました。」
飯島が言い終わる前に、話題の人が来た。
「通して。」
防衛隊員に両隣を保護されながら部屋の中に入ってきたのは女性の若者。このような格式ばったところは初めてなのだろう。すごくおどおどしている。
「突然呼び出してごめんなさい、そこにかけて。」
「あ、はい…」
「一応確認させて。あなたは第三小学校の6年1組を2027年3月に卒業した。それは間違いない?」
「そうです。」
「今回の件は聞いた?」
「私自身あまりニュースとか見るほうではなく、概要は防衛隊の方から聞きました。」
「一応聞くけど、この方が誰だかはわかっているよな?」
隣から飯島がちょっかいを出してきたが…少しそこは気になる点だ。
「跡部総理大臣ですよね。」
その答えに私は笑顔で返す。
「よかった。知らないなんて言われたらどうしようかと思った。だって私とあなたは──」
「総理。」
話を遮ってきたのはAI特別対策チーム長の小野寺だ。
「例の突入作戦結構まであと90時間はかかります。」
「…それ以上は早くできないの?」
「流石に…YOHは我が国の天才たちが長い年月をかけて作り上げたものです。対応できるAIをまた開発するとなると…さすがに数時間でできる代物ではありません。」
暴走したとはいえYOHは我が国の産業の基幹を担っている。逆に数日で作り上げられるほどの人間がまだこの国にいることを誇りに思うべきだろうな。
「ちなみに、そんなに急いでいる意味は?」
「総理の最終判断が必要なのです。今回開発するYOH-βはまた同じ暴走を起こす可能性があります。今回のYOHの暴走の原因がわからない以上被害が拡大する予兆があるからです。」
私はまた椅子を回転させて天井を仰ぐ。
YOHは人知を超えたAIだ。だから人間では何を考えているのかはわからない。
それが今回の暴走の一件を担っていると考えられる。
しばしの間私は天井を見ていたが、視線を戻そうとするとおどおどしている今回の保護者が目に入った。
「飯島。確かYOHを実装する前に誰かの人格をコピーさせる案が閣僚会議で出たことがあったと記憶してるのだけど。」
それを聞いた飯島は血相を変える。
「総理。それを試そうっていうのか?あれは国際同盟上NGだとあの時処理されたじゃないか!」
普段穏やかな飯島でもさすがに怒りを覚えるか。
「小野寺。例えば、YOH-βを特定の人格に基づくものだとしたら暴走率はどれくらい下がる?」
「やってみないとわからないところが多いですが…おそらく限りなくゼロに近づくかと…」
「総理。まさか今回の保護者を…」
「飯島。この国は法によって支配されている。だから超法規的措置は基本的に許されない。」
私は目の前の保護者のほうを向く。
自分の身に何が起きるのかと心配しているその若い国民の目を見て私は続ける。
「だから、○○さん。あなたにそれ相応の覚悟…同意する意思があるかが勝負になる。」




